時を待つ日々(ケバブ!)26
ヘモジが拗ねる前にご機嫌を取っておく。実際凄いのはヘモジだけどな。それでもロマンなんだよ。
「ヘモジも命令できたらいいんだけどな」
「ナーナ」
深く頷くヘモジ。
要塞にもう少しいられると思ったのだけれど、追い出されてしまっては仕方がない。
建設の邪魔をするわけにもいかないし。
急にできた暇な時間をどう過ごすか考えた結果、結局自由時間にした。
湖畔側の施設は平常通り営業しているので、ショッピングでも楽しめばいいだろうと思ったのだが、全員工房に押しかけていた。
みんなの注目は当然タイタンである。
「タイタン同士の戦い、姉さんたちと一緒に行って来たんじゃないのか?」
ビアンカに尋ねた。
「それとこれとは違います! 実物ですよ、実物!」
どっちも同じ迷宮産なんだけどな。
おだてられたエテルノ様が解説役を引き受けたようだから、説明を受けてくれ。
機密だらけで大した内容は話せないだろうが。
僕のゴーレムも見たいと言われたが、明日のお楽しみにしておいた。
「ケバブーッ!」
「ケバブー」
夕飯はケバブ屋で外食だ。
子供たちが店に雪崩れ込んだ。
店内は観光客でいっぱいだった。
「ビーフドネルサンド、チキンドネルサンド、ミックスプレート大盛りで!」
「俺も!」
「僕も!」
ピノ、ピオト、テトがメニューを適当に選んだかのような勢いで注文した。
「チコとわたしはサラダサンドとポテト、チキンプレートで!」
「へんてこアイス! 伸びるやつも!」
へんてこアイス?
「スペシャルプレート…… 普通のサラダ! アイスも頼んじゃう?」
「わたしもそれで」
「じゃ、わたしたちも」
ビアンカたち女性陣も注文した。
「ミックスドネル。後アイスで」
「サラダサンド! スペシャルビック丼だ!」
丼?
「ダブルプレートとポテト、後アイスで」
ナタリーナさんとシモーナさんも選んだ。
「ナーナ、ナナーナ、ナナナ」
「『サラダサンドと普通のサラダ、ポテト』だって。オクタヴィアはビーフドネルサンドで」
「僕は――」
以下パスカル君、ダンテ君、ロメオ君、ロザリア、レオ、リオナ、エテルノ様が注文を終えた。
「なんでもいいから持って来いやーッ!」
ファイアーマンが発狂した。
よく分からないが全員の夕飯を奢ることになったらしい。
「エルネストさんは?」
「僕もいいの?」
「遠慮は無用じゃぞ」
エテルノ様が容赦するなと言う。ファイアーマン、一体何をした?
「じゃあ、ミックスドルネのプレートとサラダで」
「後全員スープと食後のお茶だな」
「ファイアーマンがまだ頼んでないよ?」
「お前らなぁああああ!」
「ゴーレム一体分に比べたら安いもんじゃろ?」
え? まさかファイアーマンにタイタンを? どこに置く気だ?
「普通のロックゴーレムなのです。召還術式が使えるかも分からないのに、チャレンジするです」
「なるほどバーターか。だったら三人分、アイシャさんとアンジェラさんとエミリーの分も土産に頼もうか?」
「タンポポたちの分もよろしくなのです」
「ロックゴーレムならストーンゴーレムの上位版だしな。サンドゴーレムのついでに取ってくるか。まさかサンドロックトードの方じゃないよな?」
ぐうの音も出ないか?
「破格の安さだな。召喚するだけの魔力がなければ大損だけど」
アルベルトさんにとどめを刺された。
正直な話、魔法使いにゴーレムは相性がいいと思っている。さすがにタイタンクラスは論外だが。近接防御が手薄な魔法使いの盾役としては、仮に範囲魔法に巻き込んでもすぐには沈まないタフさがあるゴーレムはいい相棒になると思う。
「ナーナンナーッ!」
「ナーナッ!」
「ナナナッ! ナナナナッ!」
「ナッ!」
「ナッナーナッ!」
「なんか叫んでるぞ」
ヘモジが『タイタン一号』の肩の上で身振り手振りしながら叫んでいた。
「指示を出してる気分になってる」
オクタヴィアが教えてくれた。
『タイタン一号』は直立不動のまま待機している。
「ナナーナッ!」
「『もっと速く!』」
「ナナナナッ!」
「『ぶちかませ!』」
「ナーナッ!」
「『踏みつけろ!』」
言いたい放題だな。
ロメオ君が最後に出した命令は『待機』だけだ。
ヘモジにも命令させてやれないものか……
「『音声登録』…… 『命令』……」
タイタン本体が指示するガイドを見ながら、解決策を模索する。
「ナーナンナーッ」
うるさい!
「仕草だけで動くとかないのかな。身振り手振りで」
「これなんてどうかな?」
ロメオ君が宙に浮かんだ文字列をポンポンと押していくと『コマンド設定』という画面が出てきた。そのなかに命令を変更する設定があった。
「なんだろうね?」
「この『音声認識』を別のコマンドに……」
『音声入力しますか?』
「!」
「何?」
「ちょっと、この文章なんて? エテルノ様は?」
「もう寝たんじゃない?」
「辞書は?」
「そこのテーブル」
テーブルの上に並んでいる本のなかから取り出して、解読を始める。
好きな命令…… 文…… 登録?
「押してみる?」
「大丈夫かな」
「……」
「明日、エテルノ様がいるときにしよっか?」
「そうしよう」
「ナーナンナーナ! ナナナナン!」
「『前転からの…… 正拳突き!』だって」
「そんな細かい命令はできないって言ってるのに!」
「もう寝よう。明日、早いし」
「ナナナナ! ナーナンナーッ!」