時を待つ日々(要塞を見に行こう)25
まずは船倉というか、最下層から行くらしい。
通路に貼ってある案内板を見る限り要塞は逆円錐形をしているようだった。
全部で十層。その内最下層から四層は頑丈な格納庫や倉庫が集中していた。
あえて下層に重量物を集中させているようだった。
既に中型艇と隠密船が格納されていて、要塞のなかで整備が進められていた。
隠密船はおかしな造りをしていた。本体の外に鏡像物質で造ったオプション装甲を纏うことで透過性を確保していたのだ。本体は至ってシンプルな飛空艇だった。
「見えなきゃ、整備もできないからな」
「攻撃はどうするんですか?」
「隠密艇が攻撃するときは見つかったときだ。そうなったら隠れる意味はないからな」
側面のオプション装甲はギミックの腕部によって上下に開閉され、迎撃用に隙間が空くような仕組みになっていた。
「まあ、偵察任務の船が見つかっちゃいかんわな」
格好いい……
「物資はまだなんですね」
「補給物資は取りに行くことになってる。どうせ北上するからな。ここで搬入するより途中の拠点でした方が楽だ」
恐らく第二師団の砦だろう。あそこは魔物以外、邪魔は入らない。
すっからかんの倉庫を見ていても仕方がないので上の階に移動する。
するとそこには巨大な町ができあがっていた。
中央は吹き抜け構造になっていて、てっぺんまで突き抜けていた。
吹き抜けに面した各部屋にはベランダがあり、要塞のなかだと思えない程開放的だった。
「うまく稼働してもしなくても長期滞在を余儀なくされるからな」
生活に必要な施設はほぼ揃っているらしい。公園や畑まであるそうだ。
「地上に降りなくてもすべてここで完結する仕組みをなんとか構築している。気掛かりなことがあるとすれば――」
魔石だ。すべては魔石で動いている。補充が滞れば、巨大な廃墟のできあがりである。
異世界にはこんな大きな建造物が幾つもあったらしい。百階建ての集合住宅や大きな船、何百人も乗れる飛行機や列車とか。
魔法のない世界でどうやって動かしていたのだろう。
「二十年分の備蓄は確保したがな」
建築途中の上層は外向きの構造になっていた。窓はすべて外側を向いている。その窓すべてに透過機能のある扉が付いていた。
エテルノ様の研究によると、鏡像物質にはおかしな特性があることが分かっている。
反対側の像を映し出すことは分かっていたが、同時に裏側に隠した物を見えなくするという真逆の反応をすることだ。
僕たちは都合よく解釈していたが、よくよく考えるとおかしなことである。
調べて分かったことはいくつかあるが、その一つが近くに置いた物質は鏡像物質が見せる像には映り込まないという事実だ。だがこれは一定距離を越えてしまうと映り込むということに他ならない。
経験則でしかものが言えないところが歯がゆいところだが、研究は始まったばかりだ。
どちらにせよ、当初の要塞造りの目論見は潰えたことになる。何せ見えなくする距離は実際の岩が落とす陰ほどの距離でしかなかったからだ。
エテルノ様の夢の隠遁船計画も僕たちの要塞計画も露と消えるかと思われたその時、奇跡が起きた。
研究と保管に使っていた部屋である。
実験結果からすると広い実験部屋の中身を隠しおおせるわけがなかった。手前を鏡像物質で隠せても遠目には外部から見えていなければならなかったのだ。
だが、それらは隠されたままだった。
結果分かったことは鏡像物質を二つ並べた場合、距離に関係なく、間に挟まれている物質は映り込まないという事実だった。まるで挟まれた空間までもが一つの塊であるかのように対角の景色を見せていたのだ。
そこでエテルノ様は面白い実験をした。
物質をコップのように凹ませて、中に物を入れたら、その物はどう見えるか、という実験だ。
発見その二、鏡像物質の後ろに隠して見えなくなる距離は物質の厚さに比例する。薄くすれば隠れる範囲は減っていく。紙のように薄い層ではほぼ何も隠すことはできない。
コップの実験をするとき、後ろに隠れて消えたのか、挟まれて消えたのか見極めなければならなかった。
そのため前段階の実験で薄い一層の板で透過できない距離を割り出し、その位置を維持したままセッティングを行なった。
そしてその厚みで作ったコップのなかで実験は行なわれたのである。
なんとそのなかの物は外から視認できなくなった。
コップの上部が空いているので物の存在は上からは常に確認できた。だが、下から覗くと――
ある種の力場が働いているのか、多少の隙間は大目に見てくれるようで、底の一層でもなかの物は見えなくなっていたのだ。
当然、コップに蓋をすれば完璧だ。コップとの隙間も大目に見て貰えるからまさに鉄壁。
エテルノ様がただのお飾りでないことも分かったし、僕たちの計画も続行と相成ったわけだ。 姉さん率いる『魔法の塔』も同じ結論に達して、建造計画が推進されたというわけなのだが。
備蓄分も考えると……
「鏡像物質もまだ足りないか……」
「円周上に飛行石が据え付けられている。航行システムもこの辺りの上層フロアに集中している」
「浮力はここで生み出されるわけか」
「備蓄分に合わせて基準を越える浮力分の錘も積んでいく」
「ゲートキーパーは?」
「それは機密だ。悪いが設置する場所はお前たちにも教えられん」
「別にいいけどね」
僕たちが要塞を造るときはこの大きさはいらないよな。下の五層分ぐらいで充分だと皮算用する。
「そう言えばゴーレムの姿が見えないけど」
「さすがにでか過ぎて要塞には載せられんのでな。骨組みと外枠が完成してからは使っていない」
「なんだ、動くの見たかったのにな」
パスカル君やファイアーマンたちが残念がった。
「迷宮に行ったら見られるだろ?」
それから僕たちは最上階の外に出た。
「凄ーっ」
ファイアーマンが躍り出た。
みんなも周囲を見回した。
「空飛んでる」
オクタヴィアが肩に乗ってきた。
「跳ばなくてもこの高さだ」
「ナーナ……」
ヘモジは縁のギリギリまで行って足元を覗き込んだ。
肉眼で確認できる部分は上層だけなので、あたかも宙に浮いているかのように見えた。
「ナー?」
見渡す限り稜線が連なっている。
西方の山々は雪を被っていたというのに、見渡す山々に雪が積もる様子はない。それでも……
「冷えるな」
作業員たちの休憩時間も終わり、人が戻ってきたので、今度は僕たちが食堂に下りた。
「デザート美味しかったですよ」
厨房係が皿を洗いながら言った。
「年寄りが多いですからね。我が儘な連中が多くて、味付けに苦労するんですが」
厨房係は笑った。
「みんな喜んで食べてましたよ」
それを聞いたらエミリーも喜ぶだろう。
一服したら僕たちは要塞を出された。というより転移して別荘に直帰した。『紋章団』の指輪はここでも有効なようだ。
「ピノたちが来たら、明日は遠足だ」
「遠足ですか……」
「ゴーレムを使った実戦訓練でもある」
「あの寝ていた奴を使うんですか?」
「あれはロメオ君のだ」
「ロメオさんの?」
「明日は僕のゴーレムも使う」
「ナー?」
「見合う敵がいればいいけどね」
「エルネストさんのゴーレムもタイタンなんですか?」
「ちょっと変わってるのです。格好いいのです」
「ヘモジには敵わないけどな」
「ナーナーナ」




