時を待つ日々(要塞を見に行こう)24
千人分の差し入れを手分けして持ちながら、博物館建設予定地に足を運んだ。
湖畔からは少し外れた場所にあって、真っ直ぐ広い石畳の街道が延びていた。両脇には街灯も完備され、建設途中のモダンな店構えが軒を連ねていた。
湖畔を一周するコースとは別に博物館関連の商店街ができるわけだ。
「『ドラゴンステーキハウス』……」
リオナが唖然とした顔で看板を見上げた。
「ちょっと、行くわよ!」
ナガレに手を引かれて引き摺られる。
「ち、ちょっと待つのです!」
「店の名前だから!」
「開店したら絶対寄るのです!」
「凄いね。ドラゴン肉のステーキ、一万ルプリからだって」
ロメオ君が片隅に置いてある宣伝用の折り込みを見て言った。
リオナたちも一部取って真剣な眼差しで折り込みに見入った。
「銀貨十枚か。『アシャン家の食卓』は良心的過ぎるのかな?」
「あそこは直輸入みたいなもんだからね」
「姉さんが出店許可したってことはぼったくりとかじゃなさそうだけど。これが本来の値段なんだろうね」
「今度、王都の店に行ってみない?」
「面白いね」
リオナが僕たちをじーっと見詰めた。
「自腹だからな」
「最高級の肉を食べるのです!」
あくまで仮定の話だというのに。
僕とロメオ君は顔を見合わせ苦笑した。
言っておくが、王女様の屋敷でいつもご相伴に与っている料理の方が遙かにおいしいと思うぞ。
「値段に見合うようなら、みんなを誘うのもいいかもしれないな」
「うちも家族で行こうかな」
僕たちは右にフラフラ、左にフラフラ店先の開店案内や広告に目をやりながら前進した。
「お、木彫りのドラゴンだ」
店先の飾りだろう彫刻像を見付けた。木彫りの土産屋のようだった。
「これは…… 『魔獣図鑑』から起こしたものですね。迫力がない」
パスカル君が酷評した。確かにリアルさに欠ける。
「博物館の展示品が完成したら、さすがに変えてくるんじゃないかな」
「ある意味いい度胸ですね」
「余り凄みのある物をお土産にしたくないと思うけどな」
ビアンカに突っ込まれた。
女性陣は甘味処のチェックに余念がない。開店までまだ日があるというのに、オープンの日取りを確認しては「この日は来られる」とか「平日だから無理」だとか盛り上がっていた。
どこの店舗もまだ建築途中だが、なかなかバリエーションに富んでいる。
賑わう予感がする。それもこれも博物館の出来次第なのだろうが。
そのうち立ち入り禁止の立て看板が見えてきた。
「おわぁ…… でかい」
王都の闘技場よりでかい。
ドラゴンが出入りできる程大きな門扉が出迎えた。
「何もかもドラゴンサイズってわけね」
フランチェスカが柱の手触りを確認した。
正面ゲートに似つかわしくない面々が陣取っていた。
警備の兵士たちだ。ここは治外法権だから余り国の兵隊さんに入って貰いたくはないのだが、と思ったらスプレコーンの守備隊だった。
顔パスだった。
案内に付き従い、建設途中の建物に入る。
入るとそこは天井高のエントランスだった。天井はガラス張りで、無数の梁で支えられていた。建物自体が一つのアート作品のようだった。床も大理石でぴかぴかだった。
観覧コースから外れて職員用の扉を潜るとそこは裏方で、光の魔石がたまにおざなりに壁に掛かっているだけだった。
見えないところの内装はこれからのようだ。
「こちらになります」
重厚で真っ赤に染められた扉が開いた。
するとそこに現われたのは人工の物だとは思えないほど巨大な草原だった。どこまでも緑色の芝生の絨毯が続いている。
向こう側の壁が霞んで見える。
青天井だ。
展示物はまだないが、ここにリアルサイズのドラゴンの像が並ぶのだ。他にも別館があって、そこにも他の魔物の像が並ぶというのだから、その規模は計り知れない。
「凄い……」
姉さん…… 凄過ぎるよ。
「要塞は?」
パスカル君が呟いた。
我に返った。
そうだ! 肝心な物がない!
「目の前にあるのじゃ」
エテルノ様が何もない正面を指差した。
「あッ!」
扉の開く音がして、景色が四角く剥ぎ取られた。
宙に扉が現われた。
「遅かったな」
「!」
姉さんが顔を出した。
「あ、あのお土産!」
舞い上がったビアンカが土産の入った袋を持ち上げた。
「ちょうどいい、休憩にしよう」
要塞が姿を現わすことはなかった。全容を見たかったが、これが要塞の仕様なので仕方がない。
もっと早く見学に来ればよかった。ロメオ君とエテルノ様はたぶん当初から見に来ていたのだろう。
専用の移動式階段がハッチに据え付けられた。
僕たちはその階段を上って要塞内部に入る。
「ほんとに見えないんですね」
ロザリアが姉さんに言った。
「まだ上部は隠せてないがな」
上ってきた階段が外された。
「念のためだ」
万が一この要塞が襲撃や、盗まれるようなことになったら一大事だ。
見えないことが売りなのだから、わざわざ入口へのルートを明示する必要はない。
上が手薄と言うけれど、この別荘地それ自体が強力な結界で守られている。空から潜入することはまずできないだろう。
人のすることだから、完璧はないだろうけれど。
「中は普通に見えるな」
「当たり前でしょ」
ファイアーマンがビアンカに怒られた。
まず食堂に通された。
室内とは思えない程開放感に溢れた場所だった。天井を高くし、ガラス張りにして広く見せているようだ。軍務に使うとは思えぬほど手が込んだ装飾が施されている。
帰れないかも知れない者たちへのせめてもの手向けか。
「土産はどうせ食い物だろ?」
姉さんが笑う。
「プリンなのです」
「ロッジお気に入りのあれか?」
「エミリーが作ったんですよ」
「随分持ってきたな」
「千人分、手分けして」
「エルネスト、それは搭乗員の数だろ? 作業員はそんなにいないぞ」
「あ!」
しまった……
「まあいい。一人当たりの取り分が増えるからな」
姉さんは側にいた厨房の職員に声を掛けた。
しばらくすると角笛の音が船内に響き渡った。
するとゾロゾロと食堂に作業員が入ってきた。
ほとんどが工兵だった。それも年季の入った老人ばかりだ。
「向こうの世界に行く連中と専門家が半々だ」
休憩を入れるのかと思ったら、姉さんはみんなが休憩をとっている間に僕たちを案内する気でいるようだった。
「下から行くか、近いからな」
前々話、宰相お気に入りのシュークリームは元々ヴィオネッティー家のレシピだったので、下記の通り変更致しました。
シュークリーム → 激甘クリーム載せ濃厚プリン『愛のムチ』
前話、『先輩たち三人のためにトレントの枝を取りに別荘の外にも出る予定である』も既に受け取っていたので修正しました。
m(_ _)m




