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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(憂さ晴らしはやり過ぎぐらいがちょうどいい)22

 二発目は一発目から少し離すことになった。北と南を繋ぐルートを残しておきたいらしく、外周を繋げず、少し地上部分を残しておくことになった。

 目分量だが円周の直径を測量して、投下ポイントを定めた。

 投下自体、風任せなので責任は持てないと言っておいた。繋がっちゃったら埋め戻して、橋でも架けてくださいなと。

「エルリンが結界張れば大丈夫なのです」

 兎に角、投下だ!


 二発目を投下した。

 予定より穴同士の距離が離れてしまった。穴と穴の間に残った陸地は最も狭い所で馬車六台分ぐらいの幅になった。

「ちょっと広いけど関所を造るにはちょうどいいかもな」

「大扉を造って見晴らしを付けるにはちょうどいいのです」

「次はどうするのじゃ?」

「山の稜線まで同じことの繰り返しかな。距離的には後三、四発で行けると思うけど」



 四発目にして山の稜線を抉った。

「さすがに山を削るのはな」

 山を削って湖にするには同じ場所にもう一、二発必要だが、天然の要害をわざわざ崩すこともない。

「少し身体を動かすか」


 ヘモジを肩に乗せ、ボードに乗って『魔弾』を遠慮がちに穿った岩壁に撃ち込んだ。

「おや?」

「ナー?」

 簡単に大穴が空いた。マルサラ村の地層より大分緩い。

 山の斜面を抉ってしまったのでこちら側から敵が侵入する機会はまずないように思われた。

 崖から落ちて湖に落下し、泳いで渡ってくるルートは残るだろうが。好き好んで崖から落ちたがる魔物もいないだろう。

 問題は山の反対側だ。

 往来ができなくなるほど高い山ではないのでここに監視砦を造って山越えを注視するしかないが、それは与り知らぬことである。

 取り敢えず任務は完了した。

 これで山の稜線までを南北に分断することができた。北軍が正常に機能して、足並みが揃ったら、いずれ埋め戻して耕作地にでもすればいい。


「見晴らしは最高ね」

 平原に点在する湖。遠くに山の稜線を望む景色。よく見れば瓦礫が散乱しているが、山肌を照らす光がそれらを覆い隠している。

 船の上から見る景色は平和そのものだったが、北側の岸辺には既に魔物たちが集まり始めていた。

 作業終了の合図を打ち上げた。

 随行船から発煙弾が上がり、撤退命令が解除された。

 控えていた第三軍が一斉に動き出した。

 早速、湖の間にできた狭いエリアに砦を築く作業が開始された。

 三分の一の部隊がそれぞれ南北を繋ぐポイントに残り、残りの三分の二の部隊が中央砦に移動を開始した。

 随行船はこのままバリスタの設置や哨戒任務に当たるため、宰相を引き取るようにと知らせてきた。

「ええ、もう?」

 子供たちがあからさまに嫌な顔をした。

「気さくないいおじさんだろ?」

「でも……」

「焼き肉パーティーをしたら仲良くなれるのです! ロッジはいい人なのです」

「兎に角迎えに行くぞ。こっちに積んである物資も下ろさなきゃ帰れないからな」

 随行船が湖の間の土地に降下して物資を下ろし始めた。

 魔物たちはまだこちらの動きに気付いていない。

 むしろ突然あるはずだった餌場が消えたことに戸惑っているようだった。

 砦の壁は急ピッチで築かれていった。

 魔物たちの逃げ道も用意しないとまずかったか?

 こちらの動きが急過ぎたかも知れない。

 勝手に山越えしてくれないかな、と楽観して見ていたのだが、切実な魔物たちは西ではなく岸辺を東に移動し始めた。

「わざわざ寒さの厳しい方には行かないか」


「結局、繋げるですか?」

 わざわざ距離を空けた所に吊り橋を架けるべく濠を築くことになった。

 さすがにあの数は捌けないと判断したのだろう。急ピッチで陸地を掘り下げている。

 宰相を降ろした船は直ちに飛び立ち、魔物を追い返すべく迎撃に向かった。

 魔物は考えなしにどんどん狭い地形に入り込んでくる。

「ひたすら倒していれば敵もそのうち学習するんじゃない?」

 ナガレが言った。

 帰りの駄賃に僕たちは足元の狭あいに入り込もうとする敵を一掃した。

 宰相はこの船の転移結晶で戻ってきた。

 今は遅めのお茶の時間を楽しんでいる。


 戦況をしばし眺めて、無事を確認すると僕たちは帰路に就いた。

 すっかり日が暮れてしまった。

 宰相の案内で後方の安全地帯にある砦に向かうと「陛下もこれで安心なされるだろう」と言葉を残して、そこに設置されている携帯仕様の転移ゲートで王宮に戻っていった。

 焼き肉パーティーはお流れになった。

 僕たちは南下して、ヴィオネッティー領を通って帰還する。

 その前に南軍と聖騎士団の砦にも報告を入れておくか。たぶん宰相殿に抜かりはないだろうが……



 数日後、アンドレア兄さんから手紙が届いた。


『随分でかい穴を掘ったものだな。親父が爆笑していたぞ。三軍も晴れて前線に合流した。皆、協力に感謝している。宰相がお前の所のデザートが美味しかったと吹聴していったぞ。親父たちが食べたいそうだ。送れ』


 兄さんにしては随分砕けた文面だった。

 僕は早速、宰相が気に入ったというエミリー作の激甘クリーム、苦めのカラメル載せ濃厚プリン『愛のムチ』を用意して貰って、保管箱に詰めて、振り子列車で送った。

 そしてリバタニアから空輸して貰えるよう手配した。

 その日の夕刻、母さんからも手紙が届いた。


『あのお菓子のレシピを教えて頂戴! 大至急よ!』


 母さん、補給物資をつまみ食いするなよ。

 大至急ということは……

 食べ過ぎて、送る分が足りなくなったということか。



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