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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(第三師団の憂鬱)20

「ガルムの天国か?」

 その数十五体。包囲網を狭めつつ、部隊を後方の渓流に追い込もうとしていた。

「狙える者から撃ってよし! 味方に当てるなよ!」

 僕は号令を掛けた。

「俺、無理だわ。この距離」

 ファイアーマンが音を上げた。

「雷じゃ、周りを巻き込むから、遠くの敵から貰うわよ」

 ナガレはわざわざ遠い相手を選んだ。

「ファイアーマン君、周囲の雪を溶かすだけでも援護になるよ」

 ロメオ君がアドバイスをする。

「誰か派手な一撃を。味方を鼓舞するんだ」

 寒さと恐怖で震えている部隊に全力なんて出せないからな。

「たまには狩りもさせてあげないと」

 ロザリアが手を上げた。

「派手さにもいろいろあるからね」

 ロザリアがアムールとベンガルを地上に召喚した。

「ナーッ!」

 ヘモジが興奮した。

「ナナナナーナッ!」

「はいよ。いってらっしゃい」

 窓から飛び降りようとヘモジはボードを取った。ヘモジの盾も進化している。ボード機能付きである。

「ナッ」

 小人が落下してすぐ見えなくなった。下にはアムールとベンガルが待ち構えている。

「あっちはいいとして」

 銃が撃ち込まれた。

 リオナとピノだ。この距離から狙い撃ちだ。

「風で流れるのです」

『高度を下げるよ』

 船は滑るように高度を落とすと共に加速を増した。そして本隊の右側から回り込んだ。

 全員が左舷の窓に張り付いた。

「いいぞテト、ベストポイントだ!」

「遠いって!」

 リオナの銃弾がガルムに命中する。

「外した!」

「任せて!」

 ピノがとどめを刺した。

 遠過ぎるというご要望に応えて、旋回半径を徐々に狭めていく。足元をアムールとその背に乗ったヘモジとベンガルが通り過ぎる。

 ヘモジは王国の旗を掲げる。

「あれじゃ、小さくて見えないぞ」

「味方に撃たれんなよ」

 ファイアーマンがチコと敵の位置を確認している。

 ヘモジたちは森のなかに消えた。こちらから見えない敵を優先してくれるらしい。

「見える敵はこっちでやれとさ」

 動いた敵からリオナとピノの狙撃の的になった。

「出番がないの」

 エテルノ様が退屈しているがしょうがない。

 射程が一番長いのがふたりの『アローライフル』だ。弾代を考えれば、適当なところで切り上げて欲しいところだが。

 地上の連中にはいい刺激になるだろう。目と腕があれば自分たちの持つ武器でも充分やれると気付くはずだ。

 そのために優先的に配給してるわけだし。

 ヘモジたちが森のなかの敵の討伐を終えて飛び出してきた。

 ヘモジはアムールの背中に跨がり、楽しそうに跳ねている。

 ガルムとすれ違い様、ミョルニルが敵の鼻面に叩き込まれた。

 ガルムは一撃で吹き飛び、ただの肉の塊に変わる。

 こちらの動きを見て本隊は左の敵に集中し始めた。

「いい判断じゃ」

 劣勢とみたガルムは左端から逃げ出し始めて、あっという間に撤収していった。

 ヘモジたちも逃げる敵までは追い掛けなかった。

 ロザリアが再召喚したので、ヘモジも戻らせた。

 アムールとベンガルが格納庫に再召喚された。喉を鳴らして主人に甘える。

「ロザリア様って強かったのね……」

 先輩たちはロザリアを守り一辺倒の聖女様だと勘違いしていたようだ。ああ見えて、うちのチームじゃなきゃ、攻撃の要にもなれるオールラウンダーだ。

 ヘモジが甲板から戻ってきて、即コタツに突入した。鼻水垂らしてる割に高揚感で頬を染めていた。

「ナーナナー」

 オクタヴィアに籠のなかのマンダリノを催促している。

 いつ持ち込んだんだ?

 船の外は戦況が変わって、戦利品の回収に移行していた。

 ガルムの肉も大所帯には必要な食材らしい。でかい皮も防寒には欠かせない。石造りの壁に掛けるだけでも体感はだいぶ違うはずだ。なめしてる間に戦いは終わっているだろうが。砦を残す気ならあっても困らないだろう。

 その肝心の砦も仮の拠点のままだけど。

 ようやく宰相殿と師団長との対面が叶うようだ。


「さすがは宰相殿。見事なお手並みです」

「わたしはこの船を間借りさせて貰ってるだけですよ。すべては彼の優秀なスタッフのおかげです」

 乗り込んできたのは副団長だった。

「エルネスト・ヴィオネッティーです」

 師団長は間延びした前線の視察中らしかった。

「次の駐屯場の候補地が見つかりましてな。露払いをするつもりが、されるところでしたわ」

 そう言って副団長は笑った。

 まったく笑いごとじゃないよ。留守番がやられたら、みんな帰るところなくすぞ。

 この手の親父は、分かってやってるんだろうけどな。

「兄ちゃん、昼だよ」

 ピノ、お前な…… 状況を考えろよ。素食な前線の兵士の前で、豪快にランチボックス広げられるわけないだろ? この状況で焼き肉でもする気か?

「ベーコンサンドとジュースだけだぞ」

「了解!」

 何が了解だよ。舌と指が黄色いぞ。

 コタツの上の籠にマンダリノの皮が溜まってる。

「ごみは捨てておけよ」

「ごみじゃありません!」

 ビアンカに突っ込まれた。

「乾燥させたら薬になるんですから。消化不良とか、咳を治す薬になるんです。お風呂に入れたら、リウマチとか冷え症とか痛風にも効果があるんですよ」

 籠は一旦回収されて暖房器の側に。

「ほお…… 薬剤官も乗船しておるのですか?」

「この船はなんでもありですよ」

 宰相殿の視線の先にはマスタードをパンに挟み込むエテルノ様がいた。


 仮拠点の上空で今度こそ、着陸許可を貰った。

 師団長が小一時間で戻ってくるというので、こちらは荷物の積み卸しを済ませ、船のなかで時間を潰すことにした。

「次の移動先というのが気になるところだね」

「大所帯は移動が大変そうですね」

 パスカル君が言った。

「敵が少なくなったと言っても、その個体がガルムではの。寝る場所にも難儀するの」

「第三軍がこれだと北軍は……」

「梃子入れした方がよいかもしれんの」

「北軍は南部の僕の助けは嫌がりますよ」

「ならば我らにお願いできますかな?」

 船に乗り込んできたのは第三師団団長カーネーギー卿である。王宮の晩餐会などで何度か顔を合わせている。

「お久しぶりです、団長」

「今日はヴァレンティーナ様は一緒じゃないのか?」

「今日は宰相殿のお供です」

「これから作戦会議をする。参加してくれるか?」

「お邪魔じゃなければ。ア……」

 アイシャさんに船の指揮を任せようと思ったが、執筆中で奥の船長室兼物置部屋に籠もっていた。

「ロメオ君、後頼んだ」

「うん、気を付けて」

「なんで我に頼まん!」

 エテルノ様が仏頂面を近付けた。

「一緒に行かないんですか?」

「よいのか?」

「一応長老でしょ?」

「一応言うな」

 長老と聞いて、カーネーギー団長は凍り付いた。

 天幕のなかでロッジ卿と合流した。

 仮拠点内はどこでも寒さは一緒のようだ。もうちょっと火の魔石焚こうよ。

 兵士たちの寝床は地下の塹壕にあるらしく、そっちは結構暖かいらしい。

 テーブルの地図の上に前線部隊の駒が並べられている。

 見事に前線が傾いていた。

 北軍の遅れは想像以上だった。遅れている第三軍のそのまた半分しか制圧が済んでいなかった。

 ロッジ卿もこれには頭を抱えるしかない。

 そして傾斜のきつい防衛ラインのほぼ中央が現在地である。

「なんとかできるかね? 南の先端は君の兄上たちが濠を築いてくれたおかげで、安全に進攻できているのだが、できればもっと北側に拠点を構えたいのだ」

 当初の予定通り、平原の中心地点に拠点を築きたいようだ。だがさすがにそこまで濠は来ていなかった。濠が来ているということは、そこまで兄さんたちが来た証でもある。

 南側は前線以外に部隊配備はない。その分、北側に兵力が集中していた。

「北の遅れはなんともならないのでしょうか?」

「息切れしているのは確かですな。突破さえされなければ、もうどうでもいい気分ですよ」

「だが、それでは横っ腹を常に狙われることになる」

 さっきのガルムだって、正面からというより、北側の森から来ている。

「時間があれば北軍との境に壁を築いてしまってもよいと思うのだが、今はとても割ける人員はない」

 最前線にタロスを迎え撃つための砦を造ろうというのだから当然だ。

「壁ではなく湖ならどうでしょう?」

「できるのかね?」

「兄さんのようにはいきませんが」

 何発か落としてやればいいだろう。



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