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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(最前線)18

 いつもの通り、高高度からピンポイントで降下。あっという間に火山帯を越えた。

 上空が冷え過ぎていたのか、火竜の出迎えもなかった。

 テトは降下タイミングを完全に掴んだようで、絶妙な位置に降り立った。

 火竜の巣を後方に、テリトリーギリギリの距離を保っていた。

「下にたくさんいる!」

 チコが言った。

 火山地帯には雪が積もっていなかった。わずかな緑が点在するだけの黒い剥き出しの大地が広がっていた。

 山の反対側は吹雪いているようだが、こちら側は尾根が雪の侵入を防いでいた。寒気も火口の影響か、それ程でもない。

 ぽっかり空いた楽園に多くの魔物たちが避難してきていた。

「戦わないのね」

 ビアンカが呟く。

 自然の猛威の前には争いも無意味なのだろう。

「これは凄いな…… 捕食する側とされる側が共存しているとは」

 宰相も身を乗り出して覗き込む。

 でもそうなると前線はどうなっているのか?

 魔物の巣窟と化しているこの山の裾野で砦の建設が続いていると聞くが……

「でけー」

「僕たちが造った砦よりでかくなってるよ」

 ロメオ君も驚きだ。

「あれならタロスもそう容易く突破はできまいな……」

 山間を塞ぐようにどこまでも延びる城壁に大量のバリスタが並んでいた。

「ちょっと、あれ!」

 金色の目立つ鳥が櫓の上に留まっていた。

「まさか! 砦が陥落したのか?」

 ロッジ卿は目を丸くするが、たぶん違う。

『信号弾確認!』

「許可下りたよー」

「サンダーバード邪魔だな」

「可愛い奴なのです。砦を船の巣だと思って守ってくれてるのです」

 それは勝手な解釈というものだ。向こうにも手前勝手な都合があるのかも知れない。

「ナーナ!」

 ヘモジが挨拶するとサンダーバードは大きな翼を広げて出迎えた。

 濠の向こうを魔物たちの群れが西に流れていく。

 テトは誘導に従い中庭に船を降ろした。


「すっかり居座られてしまいまして」

 宰相を出迎えに来た兵士がすまなそうに言った。

「被害はないのかね?」

「最初はびくびくでしたが、今じゃ仲良くやっております。おかげで櫓の強化は余儀なくされましたが、外敵には対応してくれますし、楽させて貰っております」

 ロッジ卿は頭上の巨鳥を見上げる。

 櫓がまるでサイロのようだ。

「あれで糞が臭わなきゃいいんですがね。壁の向こうにしてくれるだけでもありがたく思わにゃならんのでしょうな」

 わずかな間に立派な多層建造物に仕上がっていた。これはもう砦というより城だ。

 南部諸国と教会の旗が城壁から垂れ下がり、はためいている。

「敷地内に教会もあるのですか?」

「顔を出した方がいいかしら?」

 ロザリアが煌びやかさの欠片もない、石造りの堅牢な教会を見詰めた。

「少し話をして来るから、顔を出して来るといいだろう。信者たちも喜ぶだろう」

 この場合の信者とは近衛騎士団のことだが。

 ならわたしたちも一緒にとビアンカたち女性陣が連なった。

 ロザリアが護衛にとアムールとベンガルを召喚した。

 久しぶりに見たな。

 先輩たちは初めて見たのでびっくりして飛び退いた。

「なんかでかくなってるのです」

 ロザリアの魔力も上がってきている証拠だろう。

 僕たちはその間に商会から頼まれた補給物資の積み卸しを始めた。中身は主に武器弾薬と船の応急修理用のパーツである。

 ただ働きにならずに済んでこっちは大助かりだ。勿論、宰相殿からも船のリース代は貰うのだが。税金の棒引きという形だろうが。

「発煙弾! 救助要請!」

 宿り木代わりになっていない櫓の兵士が鐘を鳴らして叫んだ。

 空に赤い煙の筋が棚引いていた。

「どこだ?」

「あの方向なのです!」

「まずいな、このままだと濠にぶつかる」

「ここから狙えるですか?」

 櫓の上の監視係に尋ねた。

「無理だ。距離があり過ぎる!」

「戻ってくるように言ってください。空から狙撃します!」

「ボードで先行するぞ!」

 僕とリオナは空に舞い上がった。

 リオナの背中には僕のライフル銃が掛けられている。

 リオナにロングレンジ用の銃を用意してやろうやろうと思うのだが、その都度忘れてしまう。

 今買うのは時期が悪いので、大戦が終わった後ということになろうか。

 煙の見える方に飛ぶと発煙弾を打ち上げたであろう一団が見えてきた。

 必死に雪のなかをやってくる。

「ボードやソリなしで何をしてるんだ?」

 荷物は手持ちの武器以外ほとんどない。持たな過ぎるところを見ると荷物を捨ててきたのだろうか?

 全員が雪よりも青ざめて見えた。

「これを」

 万能薬をそれとなく飲ませた。

 皆、回復具合に驚いたが、感想を言っている場合ではなかった。

 僕は橋のある方角を示して、空に舞い戻った。


「ガルムだ!」


『ガルム レベル五十五 オス』


「レベルは五十五だ!」

「フェンリルの汚い色の奴なのです!」

 まあ似てるけどね。

「足が速いぞ――」

 よく狙えと言おうと思ったら、初弾が発射されていた。

『ソニックショット』との合わせ技で眉間のど真ん中を射貫いた。

「回り込んでいるもう一体が森のなかにいるぞ!」

「鼻息が荒いからすぐ分かるのです」

 僕はリオナの周囲を警戒した。

 こちらが餌になってしまっては始まらない。

 二発目が撃ち込まれた。

 

「安全確保なのです」

 僕たちが地上に降りようとしたら、でかい鳥が頭上を通り過ぎた。

「あーッ! リオナたちの獲物!」

 サンダーバードが掬い上げていった。今日の夕食になるようだ。

 櫓から飛び立ったサンダーバードはガルムを一体回収すると自分の巣に帰っていった。

「あれくらいの駄賃は当然かもな」

「早くもう一体を回収しないと他の魔物に取られるのです!」

「うまそうには見えないけどな」

「皮だって取れるのです」

 いらないだろ、あんな灰色。

 ついでに森のなかの一体を『楽園』に放り込んだ。

 安全を確保したので空に青弾を上げる。

 城門から応援が出てきた。

 被害に遭った一団が空に旗を掲げた。

「冒険者ギルドの旗だ」

 冒険者か……

 空に狼煙が上がった。

 あの煙を目指せばいい。

 周囲の魔物を牽制しながら、一団を受け入れる体制が取られ始めた。

「怪我人は?」

 応援と合流がなった。

「全員無事だ。ただ荷物を全部捨ててきてしまった」

 リオナが取ってきてあげると言うから、僕たちは再び、しばし遠くまで飛ぶ羽目になった。足跡を追い掛ければ捨てた物は見つかるはずだ。食い物以外なら。


 そして僕たちが戻る頃、一団が城門を潜るのが見えた。

 どうやら冒険者たちは砦が放った斥候だったようだ。突然の大雪ではぐれて彷徨っていたらしい。

 僕たちは拾った荷物をそのまま全部渡して、宰相を案内する任務に戻ろうとした。

 礼をと言われたが、こちらも任務の一環のようなものだから遠慮することにした。

 代わりに、解体屋も随行していたので解体屋の転移結晶を貰って、さっき狩った獲物を拾ったら送ると言っておいた。

 もう回収済みなのだが、今、中庭に放置するのも邪魔だろう。

「大活躍ですな」

「一体、鳥に取られたのです」

「ハハハハッ、ただ働きはせんと言うことですかな?」

 宰相が冗談を言ってリオナを笑わせた。

 宰相の話し合いは終わったようだ。

 ロザリアも既に船に戻っていて、騎士団に船が取り囲まれていた。

 ヴィオネッティーの旗もあるのだが、親父たちは留守だった。母さんに会った話をしようと思っていたのだが……



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