エルーダの迷宮10
迷宮一階のメインストリートをはずれ、蟹エリアをさらに進むと天然のくねった洞窟が現れる。床は舗装されているが天井からは鍾乳石が針山のように生えている。垂れてくる雫で濡れた石畳はよく滑るし、おまけに下り坂。ゆるやかな傾斜が付いていて行きはよいが、荷車を引いている身としては帰りが心配だ。
ドーム型の広場に出たときには水滴と湿気で下着まで濡れていた。
広場のなかに煉瓦で四角く囲っただけの人工の構造物の休憩所があった。
僕は石の長椅子に腰掛け鞄からタオルを出して顔を拭った。魔法使いがいれば風の魔法か火の魔法でなんとかするのだろうが、僕は濡れネズミのままだ。
広間には石筍や石柱まであり、壁に埋め込まれた明かりが幻想的な景色を演出していた。水滴が小川を作って深部に流れ込んでいく。これが観光なら言うことはないのだが、探索中となれば日陰の存在は要注意だ。石筍の裏にでも隠れられたら目も当てられない。
さらに先に進むと、通路が二倍ほどに広がり、湿気が引いてくる。代わりに壁や床が温かくなってくる。身体から水分が蒸発していく。
心地良くなってうとうとと眠くなってしまう。
気が最高に緩んだとき、目の前に大きな洞穴が現れた。舗装された廊下の先に黒曜石のように黒光りする天然の巨大な洞穴があった。
天井は高く、壁に埋まったいくつもの光石が光沢のある床一面を怪しく照らしていた。
ウツボカズランの巣だった。
「これ、どうやって狩るんだ?」
堅い岩盤の上に百匹近いウツボカズランが群生していた。容易くリンクしてしまいそうな微妙な間隔を保ちながら、直立不動で天井を見上げている。それぞれが二本の長い触手で根のない身体を支えながら、花冠を上に向けていた。
一撃で倒せなければリンクは必至。仮に仕留めたとしてもアイテム回収は難しいだろう。間違いなく他のやつが反応する。時間が経過すれば討伐部位は消滅してしまうし。どうしたものか。
僕は息を潜めながら群から離れている獲物を探した。どれもこれも微妙な位置取りである。
すでにリンク可能なポジションにいるんじゃないのか? 疑念は尽きないが、そもそもリンク可能な距離がわからない。
『魔弾』を放り込めば殲滅できそうではあるが、それでは何も残るまい。
剣を片手にゆっくりと洞穴に進入する。
キュル?
足下からかわいい声が聞こえた。それは触手が擦れる音だった。乾いた石筍の影にすっぽりと収まるように一匹のウツボカズランがいた。
次回の分とで一話分にしようと思っていたら半端に長くなってしまいました。そんなわけで分けましたが、うまく切れる場所がありませんでした。というわけで今回は短めです(汗




