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第四話 人間の身体はいろいろと不便です。

 ようやく地上界に行こう!となったので人間となったわたしはどうやって降りるのだろうとミカエル様に聞いたところ、こうなった。


同期であり本音を言い合える仲であるラエルに横抱き。



 ちなみに相棒の鴉こと、クロウは自力で地上界まで飛翔するようだ。言いたいことはさて、山ほどあるがこれ以上出立の時間を遅らせるわけにもいかず、しぶしぶ大人しくラエルの腕の中で待機をする。

 ラエルには林檎も貰ってしまったし、ミカエル様の信奉者(仮)を待たせるわけにもいかないし。単独で潜入任務にあたるため地上界では頼れる者もなく、人間の世界のことはミカエル様の手配した信奉者(仮)を頼らざるを得ないのだ。初対面で嫌われたくはない。切実に。人間関係最悪でサポートもなしに、ルシファーの手の者を探すなんてそんな孤軍奮闘、なんて笑えない。

 普段通りであれば自分の翼で空を飛ぶが、他人に抱えられた状態で飛ぶのはかなり心臓に悪い。そんなわたしの心境を汲み取ったのか、クロウも気遣うようにわたしを見てくるし。流石わたしの相棒。言葉にしなくても察してくれるところは本当に優秀だ。



 短くはない時間、他人の腕の中で空を飛んだが人間の身で地上界に降り立てば使い勝手の悪い人間の身体では精霊たちの姿さえ、朧気にしか確認できない。あれか。人間はこんな魔法が扱いづらい身体で魔法を極めようとしているのか?天使側からしたら時間の無駄だ、と一刀両断してやりたい。ヒラ天使であるわたしでさえ、人間になれば精霊の存在を掴むのに苦労するのに。これじゃ天界戦争の際に人間がたくさん犠牲になったのも仕方ないだろう。まあ、己の種族の限界を知りつつも尚も精進する心意気だけは悪くはないと思うけど。

 ラエルに横抱きをされて降りた場所は人里離れたところに建てられた建物の近くで、周囲には人間の気配などなく辺りには澄んだ空気と小さな動物の気配ぐらいだった。

 ミカエル様の信奉者が協力してくれると言っていたがどんな人間なんだろう。人間の世界の貴族とは言っていたが、ミカエル様の腹黒い性格も見抜けてなさそうな迂闊な人間っぽいし、頼りになるのだろうか。任務の幸先が悪そうだなぁ、と若干遠い目をしかけたわたしを隣に居たラエルが軽く小突いてくる。


「そんなに気負わなくてもさミカエル様の選んだ人間なんだよ? たぶん、まともな人間じゃないかな?」

「ラエルはその人間を知ってるの?」

「全然知らないよ。ぼくはあんまり地上界にはこないし。

だいたい信頼のおける人間じゃなかったらいくらミカエル様でもリディをそんなところに置いておくなんてこと、しないでしょ」

「いや。あの(・・)ミカエル様だよ?

笑いながら修行中の天使の尻に魔法を遠慮なく放つ御方だよ?

何十年か前にも

『可愛い子には旅をさせろと言いますからリディエル、ちょっとそこまで(地上界に)行ってヤンチャしてる堕天使と魔族を狩ってきなさい』

とバリバリの笑顔で言われたんだけど!」


 拒否したら背後に魔神が見えた、とつぶやけばラエルもその光景が目に浮かんだのかリディエルも苦労してきたんだね、と生暖かい視線と同情を向けられた。


「まあさすがに天界からの潜入任務だし、そんな無茶ぶりもしないと思う……よ?

今回のルシファーの件は上級天使たちも何とか成功させたいと思っているだろうし、単独任務とはいえ魔族とか堕天使の姿もあまりないだろうと判断したからこそ、単独での潜入なんだし」


 それと潜入任務の報告書は数日分まとめて相棒パートナーに届けさせてね、とラエルは言い残して薄情にもさっさと天界に帰りやがりました。

 薄情すぎるぞ、ラエル。果実酒を二人で飲んだときに約束したじゃないか。

 たとえどちらかが堕天する日がこようとも唯一無二の友であり続けよう、と誓ったはずなのに。堕天もしてない、職務に真面目な友を一人地上界に置いてあっさりすぎないか。いや別に涙して見送れとまでは言わないが、任務に旅立つ友人に餞別が林檎三個だけなんて……。



もう少し林檎をふんだくれば良かった。


 

 どうせ天界から出ないのだからラエルは食べ放題だし。

ああ、地上界の林檎も美味しければいいのに、と現実逃避をしながら目の前にある建物に向かって歩き出す。




 ふむ。近づいてみれば人里離れた場所に建てられたとはいえ、趣味は悪くはなさそうな外観だった。ささやかながらも手入れの行き届いた庭もあるし、腕の良い庭師を雇っているのだろうと思われる。天使の目から見ても植物の状態も良く、この地に住まう精霊たちもさぞかし暮らしやすい環境なのだろうと伺える。是非、その庭師とは良い友好関係を築きたいものだ。気合を入れるべく両頬を軽く叩き、人族の平均的な胸元で拳を握る。


「……さて、お宅に突撃しますか。

クロウにも悪いことをしたね。地上界の任務に付き合わせて」


 天界を出るまで傍にあった相棒パートナーのクロウは今まで一言も喋らずにただ、大人しくついてきた。嫌ならついてこなくてもいいと何度言っても頷かなかったので地上界まで連れてきてしまったが。


「お前のいない天界に俺が留まる理由はない。お前の行くべき道なら俺はついて行くだけだ。


たとえその先が冥界へ続く道だろうと」

「相変わらず男前な鴉だわ。

クロウが相棒でわたしは嬉しいよ。地上界なら翼が黒くても目立たないし、天界よりは過ごしやすいかもよ?

女の子の可愛い鴉ちゃんのよりどりみどりだね、きっと」


 天界では黒の身体を持つクロウが肩身の狭い思いをしているのを知りながらも、わたしはクロウを相棒パートナーとし続けた。天界の天使には必ず己の相棒パートナーとなる者を決める取り決めがあり、他の天使たちが皆白い生き物を選ぶなかわたしは漆黒の鴉であるクロウを選んだ。まあ漆黒と言っても羽毛は黒と白の二色で、光加減によっては黒い羽毛が青にも緑にも見えるところが気に入っているので、飛翔する時なんかはとても美しいのだ。

 白い鳩だとか白梟によくいちゃもんをつけられても上手く流す辺りは流石ともいえる。クロウの種族はカササギ、といって鳥類の中では脳が大きく知能の高い種族なので相棒パートナーとしても不足はないし。ああだ、こうだ、と言ってくる古臭い思考を持つ天使たちもわたしが実力でねじ伏せ黙らせたし。クロウはもう少し自分に自信を持てばいいのに、と常々思う。


こんなに優しい鴉なのに。




 せめてこれから過ごすであろう場所で窮屈な思いをしなければいいのにな、と考えながら素朴ながらも質のいい扉をノックした。



鴉、とありますがクロウの種族はカササギです。気になった方はググればわかると思います。

本当に飛翔するときの翼の配色がキレイなんです。そこが気に入って漆黒の鴉からカササギへと変更しました。


補足そのいち。

黒と白の羽毛を持つクロウは聖にも魔にも染まらぬ、半端な存在として厭われます。

白梟にも嫌われるのは捕食対象と見られないからです。

※ググったら梟は鴉を食べる、と表記されてて……。

天使のパートナーとなりえる白梟はそんな半端な鴉は(腹を壊しそうな)食べないよ、ということで嫌っているのだと思います。

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