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第三話 地上界に赴くにあたって必要なこととはいえ、わたしはこれでも天使なんです。

 ミカエル様と楽しく?口論をした後にラエルに促されて魔法具であるピアスを身につけてみる。もともと魔除け用にピアスをしていたのでそのピアスを取り替えるだけで、難なく身につけたがわたし的にはあまり変わった気配が感じられないな。二人の反応を窺うべく視線を向けるが、見るまでもなくガン見されてました。


「ふぅーむ。失敗ではなさそうですが……。変化が起きませんね。魔法具に込めた魔力とリディエルの魔力が反発しあって、相殺されたのでしょうか。いやいや、天使の力とラエルの魔力が反発するだなんて…………」

「うーん。リディ、天使の力はどう? 封じられてる気はする?」

「やってみる」


 天使を人間に変えるらしい魔法具を身につけても一向に人間に変身せず、背中にある翼も健在だ。意識を研ぎ澄ませるように天使の力をゆっくりと放出するように集中する。すると不思議なことに天使の力は少しも感じられずミカエル様たちに視線を向ける。


「無理です。天使の力はちゃんと封じられています。わたしの魔力までは封じられてはいないようですが……」

「……我々の翼は天使の力の源。天使の力が封じられているのならその翼もまた、霧散するはずですよ。なのにリディエルの翼は変わらずに背にある……」

「……ミカエル様? 確かリディは誕生する前から強い天使の力を秘めていたから、ミカエル様が直々に儀式に参加されたんですよね。ならばこの魔法具ではリディの特に強い天使の力までは抑えられないのではないですか」

「……ん?」

(魔法具作成なんて、わたしには畑違いの分野だ。二人の会話なんてちんぷんかんぷんなんだけど……)

「なるほど。確かにその魔法具は並みの天使のレベルに合わせてましたね。盲点でした。いまからでは魔法具を作り直す時間もなさそうですし、まあ特例ということで……」

「ミミミカエル様っ?! どうして黒い笑みを浮かべながらこちらへ来るのですか」


 にっこりとどこか色気の含んだ笑顔はさぞかし目の保養になるだろうが、生憎とわたしには堕天使も真っ青な黒い笑顔にしか見えない。見目麗しく力の強い天使であるミカエル様にそんな気なんてこれっぽっちもないし、だってあの笑顔を見た瞬間にぞぞぞわっ、と背中に鳥肌が立ったんですよ。あぁ、嫌な予感しかしないんだけど。


「リディエル………。観念なさい。なに、殺生はしませんから。ほんの少し貴方の力を封じるだけです。そんな小鳥のように小さく震えなくとも大事な弟子である貴方に危害など加えませんよ」

「そう言うのならばミカエル様! その浮かべられている黒い笑みをどこかに置いてくださいっ」

「頑張れリディ。これも神の試練だよ。大人しくしてたらあとで林檎あげるから、ミカエル様の犠牲になって……」




いやぁー。

犠牲ってなによラエル!

どうしてこれも試練、なんて簡単に言うのよ。

このミカエル様の真っ黒い笑顔を見てないの?

なんか仕留められそうだと思っているのはわたしだけ?

大好物の林檎をもらえるならミカエル様に殺されたっていいかも、とか一瞬でも思ってないですよ。




 じりじりと真っ黒な素敵笑顔のミカエル様に距離をつめられたわたしはあえなく捕獲され、トラウマになりそうな記憶を植えつけられることになる。こう、ぐわしっ!と音がしそうなほどに掴まれた頭蓋から響く音に半泣きになったのは一生の不覚だ。


「ふむ。優秀なのもいろいろと気遣いますね。手間がかからなくて大変助かったのは事実ですがこれはこれで少し寂しいものですね」

「あー、いやミカエル様? リディ、放心状態で聞いてませんよ?」

「大丈夫でしょう。リディエルは私の自慢の弟子です。すぐに立ち直りますよ。そんな柔に育ててませんからね」

「きちく天使め。詐欺だ。美形が何しても許されると思ってるからそんな非道なことが出来るんだ……。

ラエルも助けてくれたっていいじゃない。だから草食ってお姉様方に言われてるのよ」

「リディエル。思ってても口には出さないように、と私は教えましたよ。口は災いの元と言いますから」

「……了解です。ミカエル様。公私混同して申し訳ありませんでした」


 魔法具だけでは魔力を抑えられず、ミカエル様のお手を借りたおかげでわたしはすでに人間と呼べる存在になってしまた。必要な事とはいえ生まれたときから背中にある翼がなくなったり、銀髪の髪が漆黒に染まったりといろいろと変化しすぎだと思う。いじける暇もなくミカエル様に奮い立たされ、おろおろとわたしとミカエル様を見つめるラエルから林檎を催促する。

 いきなり姿が変わってしまったわたしに対して罪悪感を感じているみたいだけど、わたしにしたらそんなことよりさっき言ってた林檎の方が大事だ。だって、くれるって言ったもの。なら貰わなきゃね?


「ラエル。耐えたんだから林檎頂戴。そしたらラエルのことも許すから」


 どんなに意地汚かろうがわたしの林檎に対するこの愛だけは誰にも否定させない。つややかな光沢にその赤い実から香る甘い匂い。それに酔いしれる至福のとき。このときばかりは天使やってて良かったと強く実感できる瞬間だ。この林檎ちゃんの為にわたしはあの頭ぐわしっ!を耐えたのだから……。あ、思い出したら目から鼻水が出そう。


「…っ! ああ、そうだね。林檎好きのリディの口にあえばいいけど……。確か……果肉が赤い林檎だったと思うよ。


なんか

『赤肉品種によくある「渋み」とか「綺麗なだけ」とか「生食なましょくには向かない」とかいう問題点をなんとか克服して、生でも食べられる自慢の林檎です。えーと、林檎好きによる林檎好きの為の取説』



……だって」

「本当!」


 ラエルの手にある見事な赤い果実とその林檎の説明を書いてあるだろうメモを持つ手を思わず眺める。新たな試みの成果である赤肉品種の美しい果実をわたしが手にしてもいいのだろうか。いや、これは正当なる報酬なのだからこの何とも言えない背徳感なんて知らないもん!だ。ラエルから受け取った三つの林檎を大事に抱えて、覚悟を決める。




もう、いまのわたしは完全に人間だ。

 ミカエル様と魔法具オタクのラエルがつくった変身のピアスを身につけたいまは。

 天使の姿に戻れないわけではないけれども、それでも余程のことがない限りは戻らないだろう。人となってしまったわたしだが味覚は天使の頃と変わってなければいいけど……。あれ、そういえば人間であるわたしはどうやって地上に降りるんだ?


「ミカエル様。わたし、人間になってしまったのでどうやって地上界に降りたらいいですか? 人間のままだと地面に激突して昇天しますけど…」 

「その辺はラエルに任せてあります。地上界に降り立ったら私を信仰している貴族の男が貴方の後見人になりますから、いろいろと地上界の事を教わりなさい。


時間がなくて詳しいことまでは教えられませんでしたから。彼には貴方のことは私の愛娘と言い含めてますから無碍むげには扱われないでしょう」

「ミカエル様の信仰………」

(怪しい人間じゃないだろうか……?

きっとあの腹黒さに気付かずにミカエル様の猫かぶりに騙された人間なんだな…)

「いいですか、リディエル。

貴方の天使の力を封じましたがそれはあくまで一時的なもの。魔法具は必ず外してはいけませんよ。

それと地上界に身を置くなら堕天使や魔族に連なる血筋の者には注意なさい。天使の力を封じたとしても彼等との接触で体調を崩してしまうかもしれないですから」


 つらつらとわたしを心配するような言葉をありがたくもいただき、気を引き締めるようにその言葉に頷いた。ルシファーの手下?ともいえる人間を特定する以外は魔族とも関わるつもりはない。それはミカエル様のお言葉がなくとも変わらない。




これでもわたしは天使なんですから。

そして奴等は天使を惑わし堕天に誘う、悪しき種族なのだから。





そんなわたしの意気込みもあまり意味をなさないのだけど……





主人公無類の林檎好き。むしろ林檎狂い、ともいえる。

天界ではリディエルの林檎好きはかなりの有名。そのためリディエルの為に美味しい林檎の品種改良を進んでやる天使がいるとか………。

 作者は赤肉品種の林檎を食べたことはないですが、見た目が華やかで可愛らしいですよね。テレビでしか見たことないけど…。

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