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第二話 ミカエル様に口で勝てないのはわかりましたから!

 ゴーイングマイウェイな鬼畜上司に言い渡された任務を不承不承ながらも頷き、潜入任務にあたって必要となるものを必死でかき集めるべく素早く自宅へと戻ったわたしを遠目に眺める天使の視線さえ全て無視した。

 同情なんかいらないやい、てか同情するならこの立場を代わってくれ!と切実に訴えたい。そんな事言ってもどうせどの天使も我が身が可愛いのか、ただ単にミカエル様に傾倒してるのか『リディエルを信用してるからこそ、お任せになるのですよ』ってばっかりだし。そんな慰めにもフォローにもならん言葉が聞きたいんじゃないんだけどさ。

 自分を少し哀れんで何とか溜飲を下げたわたしは生まれてからずっと過ごしてきた白い家の扉を乱暴に開け放つ。もう何百年と過ごしてきた家を惜しむ暇さえなく足音を立てないように、けれども急いで自分の部屋へと向かい、いくらミカエル様の命令とはいえ長く待たせると地味に命の危機なので手早く必要なモノをかき集める。

 直属の上司であるミカエル様はわたしが潜入任務の際に必要なアレコレを済ませていたらしく、わたしの準備が出来次第地上界へと向かう手筈をととのえた所で仕事を振るなんて流石は鬼畜天使で。渋りながらも引き受けた手前、上司を待たせるなんてことは出来なくて、雑念を振り払いながら林檎やら林檎やら林檎やらを鞄に詰め込んでいく。

 生まれてからずっと過ごしてきたこの部屋ともしばしの別れとなるも、わたしは感傷を振りきるように天界ここに置いていった。任務さえ終えれば家に帰ってこられるのだから、と自分に言い聞かせて、最後に我が家を振り返りミカエル様から贈られた七色の石がはめ込まれた短剣とわたしの相棒である鴉のクロウをつれて、地上に降りる門を目指して背中の翼をはためかせた。

 わたしは人に姿を変え地上界に身をおく。他でもない育て親が直々にわたしをこの潜入任務に指名したことにわずかに高揚感をおぼえながら、育て親である上司が待つ下界へと続く門へと急いだ。背にある翼で飛びながら天界最下層に位置する下界への門まで行くとそこには上司と同期の天使が手持ちぶさたで待っていたようで。遠目でもはっきりとわかるその美形っぷりに若干、鬱になりかけるも顔にはださずにすぐ傍まで降り立った。


「思ったより早いですね」

「任務を引き受けた手前、上司を外で待たせる訳にもいかないですから」

「そうですよ~ミカエル様。彼女は真面目なんですから」


 うんうん、と同期であるラエルの言葉に頷くも勘の鋭い上司はそのクリムゾンのような切れ長の瞳をきらめかせながらわたしをじっと見つめる。



まずい。

アレは間違いなくバレてる。

わたしの本音に。


(強いていえばどえすな鬼畜上司を待たせたら……どうなる、か。そこが心配で心配で特急で荷造りしてきた)と。




 そんな何とも言えない雰囲気を壊すようにラエルが明るくわたしに話しかけてきた。ナイス!ラエル!!!と心の中で喝采を送るわたしを覗き込む緑の瞳と目があい、首を傾げる。


「ミカエル様に頼まれてた人に成り下がる魔法具を渡すね。使用方法は至ってシンプル。二つで一対となるこのピアスを身につけるだけ。ただし効力がきくのが二つのピアスを身につけている間だけだよ。どちらか片方だと魔力が不安定になったり、背中の翼を隠せなくなるから気をつけてね」


 ラエルの説明を聞きながら手渡されたピアスをまじまじと見つめるが、強い魔力が込められてる以外は普通のシルバーのピアスだ。本当にコレだけで天使が人に紛れて暮らせるのだろうか。そんなわたしのもの言いたげな表情を読んだのかラエルが更に言い募ってくる。


「まあ疑うのも無理ないよ。アレだよ、人の言葉で言う百聞は一見にしかず!ってことで、ささっ、リディ着けてみて」

「安心しなさいリディエル。その魔法具の作成したのは私とそこのラエルです。失敗していてもせいぜい魔力が暴発する程度です」

「ちょっ?! ミカエル様! 暴発するって言われて誰が着けますか」

「貴方は既に任務を受けましたね? ならば拒否権などありませんよ。たかが魔力が暴発する程度で腰が引けてどうするのです。貴方はこれから汚れた俗世に身を投じ、邪に染まる人間を見定める任務があるというのに」

 

 お父さまは悲しいです、とわざとらしく嘆くフリをされあまつさえこんな不肖の弟子を持って神にあわせる顔がありません、とのたまいやがる。



あれ? おかしいですよミカエル様。

さっき執務室では自慢の弟子と言っていたではないですか。なのに、舌の根が乾かないうちにまったく正反対のことを言うなんてさすが鬼畜上司。なんか、わりと演技派なんですねミカエル様。



うん。あれだ。

わたしはミカエル様との口論では絶対勝てないや。

むしろこの最強なお人に勝てるのは神ぐらいではないでしょうか……。




相棒の鴉……空気だ。哀れすぎる。

補足。天使は白く清い存在を愛する傾向にあるので全身漆黒の鴉が相棒に選ばれることはものすごく珍しい出来事なのです。

それともうひとつ補足を。

天使のほとんどが固有名詞の末尾に「~エル」とつきます。覚えにくいかもしれませんがどうか見捨てないようお願いします。

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