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第十一話 ここはクロノティアという魔法王国だそうです。

今回【】の使用してますがリディアが読んでいた本の内容を示しています。

 殺人的な量の本を一心不乱に読みあさること三時間。まったく休憩を入れずに読書しているのに眼前の本の塔、もとい本の壁は一向になくならない。じわじわと疲労が蓄積するもこの先どれも必要になる事ばかりなので手を抜くわけにもいかず、読み終えたページをめくる。

 何かあったときように地上界の言語を学んでいて良かったと育て親に感謝したがこんな莫大な量の本を読むと分かっていたらその感謝さえ、今はありがたくない。




いけない。やってしまった。




 途中で考え事をしてしまい、その際に集中が切れたのか読んでいた本を閉じてしまった。どこまで読んだのかページ数を覚えいるはずもなく、仕方なしに始めの項目から読みはじめる。

 復習を兼ねるためと思えば、うん。少しはモチベーションが上がるもの。室内には誰も居ないし、いっそ音読でもしてみようか?音にすれば覚えやすいとも聞くし。エレナは何か軽く食べれるものを作りに行っていないし。待ってる間に少しでも叩き込んでおこう。

「えーと」




【この地上をルミナス大陸として。魔法先進国であるクロノティアは最も魔法が発展している国であり、世界でも有数な魔法学園が存在している。魔法を志す者にとっては憧憬の地でもある】

(ふんふん。わたしが行く魔法学園はどうなんだろう?)



 乏しい想像力で思い描くもあんまりイメージが掴めなかったので、さっさと続きを読むために本に意識を向ける。出来もしないことに時間をかけている暇はないので黙々と活字を目で追った。




【クロノティアと隣接する国について。

クロノティアの北西に位置する砂漠の国、フォルセタートは近年まで魔法を邪法と見做みなしていた風潮が根強く蔓延しているため、なかなか魔法が受け入れられないのが至極残念である。その風潮を打破したのは現国王であるラディシュ・ディオル・フォルセタート王である。昔からの友人である水魔法使いを自国に呼び寄せ、砂漠の地に緑と水の奇跡をもたらしたために徐々に魔法が国民に受け入れつつある状況を作った人物である】

(ほー。人間もいろいろと大変なのね。そこの地域担当してる力天使ヴァーチャーだれだっけ?サボり魔の天使なのかな。恵み少なさそうな記述だけど)



 と、若干ズレたことを考えるがこれも職業病なので致し方ない。地上界にいる今では誰が担当なのか知りようはないが、少し気になる国だ。いつか己の目で確かめたい。自分の担当地域ではないが先程の記述を見てしまったから。

 気を取り直して次のページをめくるとこれまたクロノティアの隣国のことだった。読んでいくと王家の血筋が突然絶えてしまったために当時の騎士が国を何とか存続させようと、信頼できる人を国の長とした元首制である騎士団国を新たに掲げたらしい。

 


 まあ、王室の人間が亡くなり、混乱に陥った国を存続させたその騎士の手腕は見事だと思う。何事も初めての試みだっただろうし。その先を読んでいくと王室が滅んだのはつい最近の事のようで、なんと二十年も経っていないようだ。

 惜しむらくは一体どのような理由で少なくはない数の人間が死に絶えたのかの記載がないことだ。流行り病とかにかかったと思わせるような記載もないし、ある日突然死に絶えたなんて少しおかしいような気がする。

 そこまで読み終わったところでエレナが軽食の準備が出来たのでダイニングに来て下さいと声をかけてきた。その声に返事を返しながら読んでいた本を机上に置いて、立ち上がる。今まで同じ姿勢で座っていたために背中が強張り、肩が凝ってしまっていたのでかなり集中していたのだなと思わず苦笑が漏れた。単独任務とは言えあまりにも適応しすぎな自分を褒めてやりたい。人間の気配がする場所でこんなになるまで集中してたなんて。




とりあえずは一時の休憩のためにエレナが待つダイニングに向かった。




******************



 昼を少し過ぎたペレスフォード家のダイニングではエレナとわたしと見知らぬ男が顔を見合わせていた。少し空腹感を覚えていたわたしは目の前に出された林檎の香りがただようケーキにくぎづけである。そればかりは仕方ないとエレナたちには諦めてもらうしかない。愛しい林檎を前にして平静を装うなんて無理。

 座って紅茶が出されるもわたしの意識は眼前の林檎ちゃん。フォークを右手に装備して、いつでも食べられるように構えるわたしを見つめる四つの瞳がかろうじてわたしをそのスタンバイ状態に押し留める。食べたいんだけど何も発さない二人が黙してこちらを見つめる様子にやれ、どうしたものかと窺う。



これでは蛇の生殺し状態で、わたしもつらい。

あれか。わたしが林檎狂いと知りながら試されているのだろうか。




 なんか熊を片手で倒せそうな男の人が段々と眉を下げている顔をしているが、これはケーキを食べないかな?食べないの?みたいな表情を浮かべているようだ。その姿がまるで捨てられた小動物みたいで少し和んだのは秘密だ。なおも見つめられながら覚悟を決めて目の前のケーキをフォークで突き、一口食べてみる。何度か咀嚼をしていくとふわりと鼻先をくすぐる薔薇に似たような香りがごくわずかだかただよう。ケーキの生地は林檎の味がするのだがこの香りは一体なんだろう?とまばたきをして、エレナと見知らぬ男を交互に見つめる。

「ものすごく美味しいですけど、この香りは何を?」

「そのケーキは昨日アップルパイを焼いたペレスフォードお抱えのコック、ノイシュが作ったものです。ランセさんが栽培しているハーブ園から摘んだばかりのゼラニウムというハーブを乾燥させたものをつかって焼いたケーキなんです。良かったですね。ノイシュ」

「はい。お嬢様のおかげです」

「じゃあ、この香りはゼラニウム? なんですか?」

 わたしの心と胃袋をキッチリ掴んで離さないアップルパイを焼いたコックを見つめて問うと、口下手なのかエレナをちらりと見て困ったようにオロオロしていた。

「はい。ローズゼラニウムは薔薇に似た芳香のハーブなんです。ふふ。すみませんリディア様。ノイシュは腕の良いコックなのですが如何せん口下手なもので」

「そうなんですか。ノイシュさん、とても美味しかったです」

 話すのが得意ではないのなら先程黙ってわたしを見つめていたのもうなずける。そう思いケーキの感想を伝えると男臭い顔に似合わない、可愛らしい笑顔を向けられた。

「ありがとうございます。リディア様。お気に召していただいたでしょうか?」

「もちろんです!わたし、林檎ならいくらでも食べられます!」

 この美味しいケーキなら満腹時でも食べられる、むしろこれを食事でもいいとノイシュに告げるとエレナとともに柔らかな微笑みを向けられた。

「ゼラニウムには気分の落ち込みを和らげ、心を明るく高揚させる働きのあるハーブですからわざわざノイシュがリディア様のために作られたんですよ。慣れない場所で頑張ってらっしゃるリディア様を思って」

「っお嬢様!!それは言わない約束です!」

 にこにこと笑顔を浮かべるエレナにバラされたノイシュは恥ずかしいのかわずかに頬を染めていた。

 わたしのために徹夜でアップルパイを焼き、その次の日には沈静効果のあるハーブを使って林檎のケーキを焼いてくれたなんて。この泣く子も黙りそうな容姿のコックさんは見た目と違い、気遣いのできる優しい人間だったようだ。






そんな二人の姿を見て、わたしは良い人間たちに巡り会えたことを嬉しく思っていた。





ペレスフォードお抱えコック情報。

ノイシュ・ラドフィス(38)

泣く子も黙るような厳めしい容姿で乙女趣味の持ち主。笑うと可愛い。・・・誰得なんだろう?


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