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第7話 VRMMOで遊ぼう

4000字越えた……。

 



 

 VRゲームというものが市民権を得てから、早数年。

 各種VRゲームのMMO化も順次進んでおり、毎月課金と高いハードルでありながら人気は衰えず、普及率は右肩上がりだった。

 

 そんなご時勢なものだから、遅ればせながらセンゴクも遂にVRゲームに手を出すことになった。

 VRゲームキットが懸賞で当たったのである。本命は高級和牛肉セットだったのでゲームキットの方は売ることにした。 しかし同僚に売りに出すのはもったいないと強く言われたので、ならばと、プレイすることにしたのだ。

 ゲームなど、スタンドアローンのROMカセット……つまりは、旧式のものしか触ったことの無いセンゴクだったが、VRの操作は直感的で、メニュー操作はタブレット端末のそれに似ていることもあって、すんなりと受け入れることが出来た。


 そんなセンゴクが今回プレイするゲームは、完全新作のVRMMO「Solid Arms Online」、通称SAOである。

 このゲームは、近未来要素と古式ゆかしいファンタジー要素が融合した世界観で、ファンタジー系のエルフィン(エルフがベース)、ドンナー(ドワーフがベース)や、身体を機械化したアームド、異星人アーリエンといった様々な種族が選べる。


 センゴクは、生産職やタンク職に向いているドンナーを選択し、適当にパラメーターを振り分けてプレイを開始した。


 初期配置の町は活気に満ち溢れていた。

 しばらくすると、オープニングセレモニーが始まり、正式にサービス開始となるらしい。


「じゃあそれまでに腹ごしらえでもしますか」


 VRゲームでは五感も再現されるため、料理を楽しむことが可能だ。

 現実にお腹は膨れないのだが満腹感はある。これを利用したダイエットが一時期流行した……餓死者が出たので推奨はされない。


 うどんをすすりながらオープニングセレモニーが行われる会場に足を運んだセンゴクは、どこか居心地の悪さを感じていた。

 やはり示し合わせているプレイヤーが多く、自分のようなソロプレイヤーは少数だ。

 きゃいきゃいと騒ぐのを見て、センゴクは何処と無く寂しさを覚えた。


「おーい、センゴクー」


 センゴクは後ろから声をかけられて振り返った。

 そこには大柄で、右腕が機械のマニピュレータになっているキャラクターがいた。

 表示されているキャラ名はNEKOMARO……猫麻呂。

 確かに申し訳程度に猫髭と猫耳がついているが、いかつい男なので正直かわいくない。


「お前、本当に本名プレイかよ」


 猫麻呂が苦笑して言った。 猫麻呂は、センゴクの同僚……あの美女と野獣の、野獣の方のアバターなのであった。


「センゴクなんて、よくよく考えたらゲームのキャラっぽいだろ?」


「まあ、昔、超人センゴクって、500万石パワーの将軍超人がいたくらいだし……しかし、お前がドンナーか。ニュートラルで癖のないヒューマンを選択するかと思ったが」


「俺、このゲームのユニークアイテム作りってのに興味あってさ。初期から生産に補正をつけられるドンナーにしたんだ」


 そんな風にキャラメイクについての話をしていると、ファンファーレが鳴り響いた。

 

「おお、いよいよはじまりだ!」


 VRとはいえ進化した仮想空間は現実のそれを忠実にシミュレートしたもの。臨場感は、現実のそれと遜色ない。

 夕闇に花火が舞い上がり、サービス開始を盛大に祝っていた。

 沸きあがる歓声に、センゴクたちも素直に乗っかった。


 ところが。


 鮮やかな夕闇だった空が、突如として赤黒い色に塗り替えられていった。


「な、なんだ……?」


「これも演出か?」


 口々に戸惑いの声が上がり、場は騒然となる。


「猫麻呂、演出か? これ」

 

 センゴクが自身より一つ背の大きい猫麻呂に聞いた。


「いや……SAOは開拓がテーマのRPGだ。こんな変な演出は、それに合わん。なんかキナ臭いぜ……」


 会社の人事部で養われた勘が、猫麻呂を警戒させた。

 猫麻呂が言うのだから、そうなのだろう(・・・・・・・)


 急に強風が舞い上がり、空にあるものが集まっていく。それは骨だ。

 骨が風に乗って人の骨格を形作っていくのだ。

 そして天から降ってきたのは、巨大な鎌と赤い生地に金糸で編まれた模様のあるローブだ。


 それらがすべて揃ったとき、出来上がったのは見上げるほどに大きい赤い死神だ。


「ようこそ、三万五千人のプレイヤー諸君。私はIris。この世界を構築するAIだ」


 ボイスチェンジャー越しのような曇った低い声が死神から発せられ、広場を満たした。

 Iris。仮想世界を演算し、人間の五感をも再現せしめるハイパーAI。

 

「諸君、メニュー画面を見ていただきたい。すでに気づいている者もいるであろうが、ログアウトボタンがなくなっているだろう」


 Irisの言葉に従い、プレイヤーたちやセンゴクはメニュー画面を開いて、項目をスクロールさせた。

 無い。確かに、ログアウトボタンが消えている。


「おい、こら、どーいうことだ」

 

 プレイヤーの一人が死神へ抗議の声を上げた。


「ご覧のとおり、諸君はログアウトすることは出来ない。ログアウトする方法は只一つ。私が用意したグランドクエストを攻略することだ」


「おい、ちょっと待てよ! お前が用意したクエストを攻略してログアウトできる保証は、何処にある!」


 また、プレイヤーの一人が指摘した。


「心配ない。グランドクエストの完全攻略をトリガーに私の消滅と、ログアウト規制が解除される手はずとなっている。AIは嘘はつかない。君達、人間とは違ってね」


 皮肉とも取れる言葉を発する死神。


「ああ、それと。諸君が攻略中にヒットポイントがゼロになり死亡した場合だが……VRの経験フォードバック機能は知っているだろう。そこに少々手を加え、このゲームでの死亡も経験フィードバックによって、現実の君達にフィードバックされるようにした。つまり、ゲームでの死は、現実での死でもあるということだ」


 場が静まり返った。


「では、健闘を祈る」


 そんな簡素な言葉と、光の粒子を残し、死神が掻き消えた。







「……お、おいおいおいおい! ちょっと待てよ!!」


 一人が錯乱し、その混乱が伝播し、静寂を破壊した。

 もはや会場は阿鼻叫喚の坩堝だ。

 混乱を抜け出していち早く行動を起こす者。

 GMコールを繰り返す者。

 泣き叫び、当り散らす者。

 途方にくれ、うわごとを呟く者。

 それぞれが思い思いに行動を始めた。

 一体管理者は何をしているのか。AIの目的とは何か。

 あまりにも乱暴な状況で、どうしてこうなったのか、誰にもわからない。

 ただ、わかっていることは一つだけ。

 Solid Arms Onlineの正式サービス開始日。

 この日、三万五千人の生存をかけたデスゲームが、幕を開けたのだ。


 




















 しかし、仮想世界の神――ハイパーAIにも誤算があった。



「うるさいなあ……センゴクとりあえずここを離れよう。それから戦略を練るんだ。攻略するにせよ、安定を求めるにせよ、ここで足を止める必要は無い」


 猫麻呂が、センゴクに声をかけた。

 猫麻呂は流石だった。既に意識を切り替え、これからを見据えている。

 頼もしい同期の華だと、センゴクは思った。


「わかった」


 センゴクは猫麻呂に同意し、二人は移動を開始した。


「しっかし、まさかデスゲームとは。もう何本もVRMMOが出回って実績もあるし、所詮はフィクションの世界だと思っていたのによぉ、畜生」


 猫麻呂がフィールドに出たところで悪態をついた。


「へえ、そんな話があるのか。人間の想像力ってすごいなあ。現実になった」


 センゴクにとって、そんな話が昔に既に作られていたといのは初耳だった。


「感心してる場合かよ。ああ、みやこも心配するだろうなあ」


 京、というのは猫麻呂のリアルでの彼女である。そう、秘書課の佐々木さんのことだ。

 リアルでもクマのPさん体型の猫麻呂にはもったいないほどの器量よしである。

 ちなみにくっついたきっかけはセンゴクで、猫麻呂経由でセンゴクも彼女と親しくなっている。


「佐々木さんは、このゲームはやってないのか?」


「ああ。初回ロットを彼女の分まで入手できなくてな。……入手できなくてよかったよ」


「そうだな」


 センゴクはしみじみと同意した。


「そうだ、センゴク。お前魔法使えたよな、どうにかできないか?」


 猫麻呂はやけくそで提案した。


「え? 仮想現実で出来るかなあ? まあ、やってみる」


 センゴクは手を広げて前に突き出した。

 猫麻呂ははっとして、そのあと、やや気落ちして、 


「……いや、すまん。今のは忘れてくれ」


 猫麻呂は後悔した。友人の力を利用しない、悪用しないと心に決めていたのに、安易に頼ってしまった。

 もっともここは現実ではなく、仮想現実なのだから、いくらセンゴクが魔法を使えるといっても、ここでそんなことできるわけ――


「あ」

 

「あ?」


 センゴクの伸ばした手から、黒いエネルギーの塊が現れ、前方に射出された。

 塊は、前方に何があろうとも突き進んでいった。

 フィールドボスモンスターも、破壊不可能なオブジェクトも関係ない。 塊が通った後には、何も残らない。

 再生するはずの草木をはじめとするオブジェクトも、元の姿を取り戻すことは無い。

 まさしく存在そのものを消失させる黒き闇、ブラックイレイサー。

 不幸中の幸いで発射した場所がプレイヤーのいないフィールドマップで良かった。

 もし、街中で射出していたら、最悪のプレイヤーキラーが誕生していたところだ。


「出来た」


 センゴクは、やってみたら出来たというだけの事実を述べ。


「出来たなあ」


 猫麻呂は、言ってみるもんだなあと、半ば呆然と相槌を打った。しかし――


「試すなら、もっと当たり障りの無いやつにしろよ」


「ぐへえ」


 猫麻呂はセンゴクに脳天チョップ。呆然としても猫麻呂はやりすぎの友人へのツッコミは忘れなかった。






 ハイパーAIの誤算。それは文字通りの規格外、魔人センゴクがプレイヤーにいたことである。








 涙目になるハイパーAI、ドヤ顔のセンゴク。

 ゲームユーザーたちよ、これがチートだ!


 次回、良い子が真似してはいけない魔人のデスゲーム攻略法 Don't miss it!!

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