第6話 怒りのグラビティアクセル!
あれ、3000字越えた……
前回のあらすじ!
三十歳の魔法使いの人(略して魔人)センゴクは少年を庇ったら異世界召喚されてしまった。
センゴクが通されたのは、大きな広間だった。
構造は、横よりも縦に長い。
広間の脇にずらりと男、時折女が並んでいた。
皆、程度の差はあれど豪奢な服を着ている。
天井は高く、シャンデリアが部屋を照らしている。
床には長いレッドカーペット。そしてその先は階段になっていて、数段高い位置から見下ろせるような位置に、剣を携えた男と女、それらを両脇に配し、冠を被った髭を生やした壮年の男性がこれまた豪奢なつくりの椅子に座っていた。
センゴクは、ああ、これはもしかして王様という奴で、あれは玉座で、王の隣で武器の携帯を許されているのは、騎士に相当する身分の者であろうと当たりをつけた。
「コード・アクセス」
センゴクは小さくつぶやいて、魔法を発動させた。
といっても、広間に何ら影響を与えるものではないが。
「良くぞ参られた、異世界の勇者よ。余はメイファン国、国王ファービュラス三世である」
老いた、しかし威厳に満ちた名乗りだった。
為政者の風格を漂わせた老王は、理性と精力の篭った目でセンゴクを品定めするように見た。
「ああ、どうも。メイファン国王、勇者として呼ばれたらしい、槙島千国だ」
センゴクは膝をつくでもなく、頭をさげるでもなく、只淡々と己の名乗りを上げた。
もし普段のセンゴクを知るものが見れば、驚嘆するか、珍しいもの見たと、皆口をそろえて言うだろう。
そのあまりの――。
「貴様、無礼であるぞ!」
「王の御前で、なんと不届きな!」
「あんな田舎者が勇者などと……」
がやがやとざわつきが広がっていく。そのすべてが、センゴクへの非難だ。
無論センゴクとて、いい気はしない。
「鎮まれ」
大きくは無い。だが、不思議と広間にその声は響き渡り、ざわつきが無くなった。
「勇者と聞いたが、具体的には何をする」
センゴクが不遜に問いかけた。
「そなたには、魔王を倒していただきたい」
「ま・お・う、ね……」
老王は頷いた。
「うむ、強靭な生命力を誇る魔族どもの王だ。どれだけ殺しつくそうとも、奴らは、一定周期で必ず甦ってくる。それを撃退し、世を平和に導くのが、勇者の務めなのだ」
「なるほどね……よくわかったよ」
「うむ、今まで召喚した勇者たちも皆快く引き受けてくれたそうだ。この世界の平和と未来の繁栄のため、存分にその力を振るうが良い、勇者よ」
「違う……違うよ、王様」
機嫌よく話す老王に、センゴク目を閉じて頭を振った。
王の言葉を否定する動作だ。
「俺は、勇者ではない」
「なんだと……?」
「俺は」
センゴクが、その双眸を開いた。
もし普段のセンゴクを知るものが見れば、驚嘆するか、珍しいもの見たと、皆口をそろえて言うだろう。
そのあまりの――キレっぷりに……!!
「魔法使いさ」
センゴクが魔法使いの名乗りを上げた瞬間、広間全体に重圧がのしかかった。
皆不意を突かれ一様に驚き、自然と跪く格好となる。
それは騎士や王、そしてセンゴクが最初に出逢った、ドレスの女性……王女も例外ではなかった。
「重力2倍だ。意外と足に来るだろう?」
センゴクの重力魔法、グラビティアクセルだった。
センゴクの意志に従い、無限に重力を倍化させるこの魔法は、究極的にはブラックホールを発生させる代物だ。
「き、貴様の仕業か、一体何を――」
かろうじて老王が口を開いたが、
「口を開くな、今話しているのは俺だ」
重圧が、さらに重くのしかかった。重力2.5倍だ。
「さて、聞け、お前達。俺はいま完全にキレている」
「わ、我らが一体何をしたと……!」
王の横にいた、騎士の男……近衛隊隊長が2.5倍の重力に逆らって声を発した。
「わからないか? それがお前達の罪だ」
重力5倍。隊長は歯を食いしばり頭を床につけた。
「さて、こうしてありがた~い謁見とやらをさせてもらっている間に、お前達の心を読み、この国の、世界の歴史を勉強させてもらった」
センゴクが、この部屋に入って最初に投じたのは、読心の魔法だった。
「魔王の話は本当のようだが……勇者の扱いが酷いなあ。召喚すれど送還のすべは無い。魔王を倒した後は王国の貴族に叙されるが、それも形だけ。軟禁され王国の権威を示す政治の道具にする。召喚された勇者に身寄りは無い、だから断ろうとすれば、社会的に命はないと脅しをつける。それでも拒むものがいれば、実は、王女が最初に俺につけようとしたチョーカーが、爆発する仕組みだ。翻訳機も兼ねたそれは、通常であればつけなければならないからなあ。もっとも俺の場合は、言葉がわかるから、その隙も理由も得られなかったがな」
一息に流暢にセンゴクは裏側を語った。
勇者様、助けてくれと願う。
ならば、それ相応の扱いというものがあってしかるべきだとセンゴクは思った。
もしも、彼ら召喚者たちが本気で明日を嘆き、絶望の果てに勇者を召喚したのであれば、センゴクは魔法をこの世界のために使おうと考えた。
だが、実際には、一方的に負担を押し付けるだけの、理不尽極まりないものだった。しかも自由も無く、勇者の意志など尊重されない。
それではまるで、兵器どころか奴隷扱いだ。
身勝手に拉致・誘拐しておきながらのその仕打ち。
とてもではないが、協力する気などセンゴクには起きなかった。
そして、何より。センゴクがこうして入れ替わりに来なければ、あの少年が、この世界の犠牲になっていた。
それがセンゴクの怒りを頂点にもっていった。
「自分たちの無能を棚に上げ、異世界の住人に犠牲を強いるなど言語道断だ。恥を知れ、外道」
重力10倍。いよいよ意識を失うものも出始めた。
「ま、こんなもんかな」
不意に、重圧が消え去った。センゴクが重力魔法を解除したのだ。
センゴク以外の皆は、息も絶え絶えだった。
「お、お許しください、勇者……いえ、魔法使い様」
よろよろ立ち上がりセンゴクに歩み寄ったのは、召喚されたとき最初に出逢った女性、王女である。
王女はセンゴクの前で跪いた。
「ご無礼を、お許しください……ですが、魔王の脅威に晒されているのは事実でございます。どうか、その比類ないお力をお貸し頂けないでしょうか」
王女は両指と頭を地面に突き、懇願した。
王女は、この中で言えば、比較的聡明だった。
彼女は重力拷問の中で、ちゃんとセンゴクの言葉を聞き、反省の意を抱いたのだ。
だが、それでもこの世界で魔王をどうにかできるのは、召喚された者、すなわち勇者だけだった。
少なくともこの世界の者たちにとっては常識である。
太陽が東から昇るくらいの当たり前のことだったのだ。
「王女さん、顔を上げて」
センゴクは腰を下ろし、王女に手をかざした。
淡い光が王女を包み、王女から倦怠感や先ほどまでの苦痛のダメージが消え去っていく。
王女は、センゴクのその行いを、許しを得られたものだと、顔を輝かせた。
「ま、魔法使いさ――」
様、とはいえなかった。センゴクが王女の頬を思いきり叩いたからだ。
叩かれ、赤く腫れる頬を押さえ、呆然とセンゴクを見る王女。
「甘えるな。だからわかっていないというんだ、お前達は」
センゴクが王女に投げかけたのは、冷たい怒りだった。
「……コード・アクセス」
センゴクは立ち上がり、広間に光の門を作り上げた。
「そ、それは召喚の……」
王女が呆然とつぶやいた。
「これは俺の世界へ還るためのゲートだ。ま、こんな形に真似なくてもいいんだけど」
魔法陣もなく、手順も無く、ただ一言だけで発動させたセンゴク。
それが示すのは、明確な格の違いだ。
「ああ、そうそう。この世界を解析して、あらゆる次元から隔離したから。もう召喚はこの世界のどんな場所でも出来ないよ」
それは、センゴクが突き付けた、彼らへの絶望勧告だった。
「そ、んな……では、私たちは、どうすればよいのですか……!」
王女は泣き顔で、センゴクを見た。そこにあるのは絶望だ。だが、それがスタートだ。お前達の世界は、異世界の誰かの絶望で成り立っていたというのに、そこにあぐらを掻いていたのだから。
こんな制度は、いつかどこかで破綻するものだと、どうしてだれも気づかなかったのか。
「考えろ。考えて、考え抜くんだ。自分達の世界の存続のために自分達で出来ることを。それが普通で、当たり前のことなんだから」
そう言い残してセンゴクは光の中に消えて行った。
彼らの世界がどうなったのか、知る者は誰もいない。
ちなみに彼らの世界の魔王は、ドラクルーという名前だそうだ。
……あの中で唯一王女だけは、純粋に勇者という存在に憧れ、慕っていた。
……そんな彼女に免じて、考える時間ぐらいは作ってやってもいいだろうと、センゴクは、持て余していた無用の長物をちょっとクリーンに改造して魔王にプレゼントすることを決めた。
おじさんが光に飲まれて5分後くらいに、またおじさんが光から出てきた。
少年「あ、おじさん! 大丈夫だった!?」
センゴク「どやぁ」
少年「……なんでドヤ顔なの?」
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懸賞でVRMMOが当たったセンゴク。さあ、同僚と一緒にレッツプレイ!
次回、VRMMOで遊ぼう