第5話 喚んでないよ、センゴクさん!
営業の外回りで、センゴクが道を歩いていると。
道のど真ん中にある光の門に吸い込まれそうな少年を発見した。
「ううっ! ちょ、何だよこれ。だ、誰か助けて!!」
だが少年の声は周りの人間には届いてない。
誰も彼もが少年の横を素通りしていくばかりだった。
だが、無視しているという感じではなかった。
「誰にも見えていない? 俺だけかよ」
センゴクは、正義漢ではない。助ける義理も無い。
だが、目の前で必死に助けを求めて手を伸ばす、そんな姿を見せられたら。
「誰だって、助けたくなるよなぁ。コード・アクセス!」
センゴクは加速の魔法を使い、地を蹴った。
少年が光に飲み込まれそうになる寸前にセンゴクが伸ばした手が、少年の手を掴んだ。
しかし、光の吸引力は並みではない。センゴクも、少年と一緒にのみこまれてしまいそうになるほどだ。
「うっ、ぐう、君、この手を離すなよ!!」
「は、はい……!」
いたいけな少年がこんなに苦しそうにしている。センゴクの胸のうちに怒りがわいてきた。
「ふざけやがって、コード・アクセス」
センゴクは、引っ張り上げる力を魔法で強化した。
「んんんん、そおい!!」
あまりの膂力に少年の肩が外れたが、センゴクは、少年を光の門から引き剥がすことに成功した。
「ん、っとととと」
だがセンゴクはバランスを崩し、引き剥がした少年と入れ替わりになるような形で、光の門へと倒れこんでいく。
「お、おじさん!!」
思わず少年が叫んだ。
悲痛な表情でセンゴクを案じる少年に、センゴクは笑みを返した。
「大丈夫、俺は魔法使いだから! あ、あと俺はおじさんじゃなくて、おにい――」
センゴクが全てを言う前に、センゴクの身体が光の中にすべて吸い込まれていった。
そして光は役目を果たしたとばかりに、すっとその姿を消してしまった。
「あ、ああ……」
少年はその場にしりもちをついて、呆けるしかなかった。
まぶしさに目がくらむ。ようやく目が慣れてきた頃、光が止んだ。
センゴクの視界に入ってきたのは、石つくりの壁と、華やかなドレス姿の女性を中央に並ぶ、ローブを着た者達。
足元を見ると、円の中に六芒星と幾何学模様が描かれた魔法陣らしき図。
「■■■■■■」
黒いチョーカーを手にした女性が一歩前に出て、にこやかな笑顔で何かを話してきた。
しかし言語体系が違うのか、内容がまったくわからない。
英語ではない、中国語や、ハングル、中東の言語でもない。まったく別の体系だ。
少年、光の門、魔法陣、石造りの部屋、ドレス姿の美女。
符合するキーワードは、20年ほど前に見た、御伽噺にそっくりだ。
――ああ、これが異世界召喚という奴か。
魔人(魔法を使う人の略)が、異世界にお呼ばれした。
「■■■■■」
女性が、黒いチョーカーを差し出すようにして、何かを話している。
――しかしわからん! 女性が何を言っているかさっぱりわからん!
だからセンゴクは、とりあえず翻訳魔法を使った。
これでセンゴクの話す言葉は相手に誤法無く伝わり、相手の言葉も齟齬無く聞くことが出来る。
「ああ、もしもし。これでわかるよね」
「まあ!」
――まあ! じゃねえよ。
ローブ姿の男たちも、驚きにざわついたらしい。
「ようこそおいでくださいました。勇者様!」
ドレスの女性が、嬉しそうに言った。
勇者って。勇者って。
三十歳のおにいさん捕まえて勇者はねーよと、センゴクは思った。
センゴクの怒りが、異世界にこだまする!
次回、怒りのグラビティアクセル! Don't miss it!!