第9話 生涯現役とかじいちゃんが言い出した
異世界リィーンベル。その特異点とも言えるヘブンズバレー。
そのヘブンズバレーにあり、勇者やその家族、その仇敵であるはずの魔王も交えて立ち上げたフェリクス村。
その村長である魔法使いは、ある昼下がりに、こんなことを言った。
「娯楽が少ないな」
と。
さもありなん。
地球人類よりも自主が多彩かつ多様で複雑で、加えて人類の生存圏だって、地球に比べればずっと狭いのだ。
そしてその地球にしたって、多様な娯楽に溢れる様になったのは20世紀のことだ。
つまり地球人類史においても、最近の出来事なのである。
そんな地球の、神々が住まう天界では、魔法使いセンゴクには二つ名が与えられている。
――万象の魔法使い。
が、それにあたる。
曰く、コードと呼ばれるものに接続することで行う奇跡の数々。
このコードというものは、センゴクの感性で名付けられたものであり、天界でも観測できない代物だった。
だがもう一つ、二つ名とは別の、危険対象としての忌み名もまた存在した。
――無知万能。
全てを知り、全てを能う存在が本来の神としてのありようだ。
全てを知るとは、それそのままの意味ではなく、神としての揺ぎ無い境地、悟りを意味する。
だが、センゴクにはそれが無い。
センゴクはごく自然に、己の感性に従って生きてきただけだ。
それだけで、力のみで神の位階まで上り詰めた。
神とは普遍であり、不変たればこそ。
それが変化し、成長する存在など言語道断。まして気まぐれに神々の黄昏を引き起こせる者を危険視しないほうがおかしい。
まあ、そんなわけで自分の作った世界なんだから管理もしなさいと放逐にも近い形で移住したセンゴクだが。
まあ、そんなセンゴクの世界である。リィーンベルはやはりズレている。
心力とは読んで字の如く心の力。
心の広さ、深さ、豊かさが力に直結する。逆にネガティブな方向に行っても、ある壁を突き破れば花開くのだがそれはさておき。
魔王が地球の娯楽に触れ、引きこもっていることそのものがパワーレベリングに成ってしまったように。
この世界において、娯楽とは、ちょっとしたドーピング効果があった。
なので。
「あれ? 最近運動してないのに身体が軽い」
「肌がつやつや」
「にきびが治った」
「不妊症が治った」
などなど、村人達は、以前にもまして健康体になっていき。
「ハリケーンデストラクション!!」
「スプラッシュサンダー!!」
嵐が巻き起こり、雷がとどろく。
そんな超人サッカーを始めとする、スポーツという名の天変地異がヘブンズバレーで日夜繰り広げられていた。
そんなスポーツという名の別の何かの中で、唯一の例外が存在する。
「よし、野球をしよう」
村人達の血の気が引いた。
星を滅ぼすだけのエネルギー平気で撒き散らす、最強のスポーツ。それが野球だ。
誰もセンゴクの領域にまで踏み込めないから、チームを組んでのリーグ戦にはまだ至っていないが。
そんな中で、唯一、センゴクの領域に至れるものが二人だけ居る。
一人は、センゴクの妻、電神アイリス。
そしてもう一人は。
「いいね、やろう、お父さん!」
センゴクの息子、マキシマ・イズモである。
母親譲りの銀髪に、日本人の醤油顔がなんともミスマッチ。
より青年期に近づけば母親の端整さが出てくるのだが、それはさておき。
暇を持て余した神とその息子の、頂上決戦。
一歩間違えれば世界が滅びかねない暇つぶしが、なんの予兆も無く始まる……!!




