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第13話 素面に戻ったとき、思い返して身悶える

遅くなりました、ごめんなさい





 研究所の中枢部。センゴクの高笑いが響いていた。


「圧倒的じゃないか、我がAIの性能は!」


『いえ、この程度。マスターも同じ事をできますから』


 と、謙遜する割りに嬉しそうに頬を染めるアイリス。

 とんでもないことを聞いた気がしたが、マイクは聞き流した。


「しかしコイツは……ひでえな、おい」


 アイリスが集めたデータを閲覧するマイクの顔が徐々に青くなっていく。

 それは非道な人体実験の数々。

 とあるウイルスにまつわる詳細なデータだった。

 当初は人体蘇生用のウイルスとして研究を進められていたが、回復力が強すぎて、大概の人間はウイルスを接種するとリビングデッド=ゾンビになってしまう。

 逆にその強い回復力に目をつけたグッドスピード製薬は、生物兵器への転用を画策し、その狙いは見事に当たっていた。

 次々と開発が進む生物兵器。

 それがセンゴクが殴り倒してきた異形のモンスター達だ。

 

「ふん、とんだ害獣が紛れ込んだものだな」


 中枢部のドアを開けて入ってきたのは、白衣を着て金髪をオールバックにした男だ。

 手には拳銃とカプセル銃。カプセルの中に入っているのは例のウイルスだろう。


「だが、その戦闘力は脅威であるが……実に興味深い」


 男がカプセル銃を撃った。

 カプセルの弾丸はセンゴクの胸に打ち込まれた。


「せ、センゴク!!」


『マスター!』


 男がしてやったりと品の無い笑顔を浮かべた。


「貴様のその身体に、θウイルスが注入されれば、一体どうなるんだろうなあ……」


 途端、センゴクが、胸を押さえ苦しみだした。


「うお、おお、おおおおおおお」


「せ、センゴク……!?」


 センゴクの筋肉が肥大化し、血管は浮き出ている。

 

「あ、が……がん……がん」


 センゴクの異常な様子にマイクは後ずさる。

 

「まじ……ぶ、あつい……がーーーーーーーー!」


 センゴクが一際大きな声で叫んだ。

 

「…………」


 センゴクは俯き沈黙した。


「せ、センゴク……?」


 マイクは逃げ出したかった。だが、今まで彼がいなければここまで生き残ることは出来なかった。

 だから、彼を見捨てることなどできない……!


「ふいー」


 センゴクが顔を上げた。

 肥大化した筋肉は元に戻り、血色がいい健康体そのものだ。


「抗体でーきた」


「なん、だと!?」

 

 オールバックの顔が驚愕に歪む。

 高圧縮のθウイルスを打ち込まれたセンゴクがピンピンしていることもそうだが、抗体が出来たという。

 先天的なものならまだしも、後天的な抗体を作ることなど不可能な代物のはずなのだ。


「ば、馬鹿な……こんなことが。き、貴様一体……!?」


 男が後ずさり、逃げ出そうとするが、しかし扉は開かない。


『私がロックしました』


 アイリスとセンゴクの連携は完璧だ。

 なにしろアイリスは、自発的に考え、行動できるAI。

 彼女の中の正義に従うのなら、この男を逃がすことはありえない。


「俺は、魔法使いだ」


 センゴクの冷酷な声が、男の震えを止めた。

 行き過ぎた恐怖は、人間の動きを凍らせるのだ。


「ヒューリック=グッドスピードだっけか。お前が、θウイルスをばら撒いた張本人か」


 オールバック……ヒューリックは頷くもことも否定も出来ない。


「この世に死んでいい人間はいない……だが」


 センゴクは両腕を広げた。そして。


「この世には。殺さなくちゃどうにもならない……そんな人間が確実に存在する。法では裁けず組織に守られた安全な場所で、しかし非道を行う悪党が」


 ぱん、とセンゴクが両手を合わせて打ち鳴らした。


「ぴ、ぴぎゃええええええええ」


 情けない悲鳴とともに、ヒューリックは破裂した(・・・・)


「う……へ……?」


 マイクの頬に、飛び散ったヒューリックの血が付いた。

 マイクは理解が追いつかず、そのスプラッタな光景に、意識を手放すことを選択した。

 

「おっと」


 センゴクは倒れるマイクを支え、そっと台の上に横たえた。


『マ、マスター。お酒は抜けたんですね?』


「ああ、アイツが打ち込んだθウイルスでな」


 センゴクはθウイルスの活動を極々安全な領域にまで抑えこんだ。

 結果、センゴクの体内のアルコールは完全分解され、センゴクは完全に素面になったのだ。

 素面になったセンゴクは完全にキレていた。

 自分はなんで、こんな外道どもを悠長な手段で長い間生かしていたのだろうと。

 この騒動を察知したときに、すぐにでも魔法を全力で行使すべきだったのだと。


「コード・クアドラブルアクセス」


 魔法に注ぎ込む魔力量は通常の自乗の自乗の自乗の自乗分だ。

 法外な魔力を注ぎ込まれて発動する魔法を人は、奇跡(・・)と呼ぶ。


「浄化の蘇生魔法、トゥルー・リヴァース」


 センゴクの放った魔法は地球上からθウイルス及びその派生ウイルスを全て消し去り、同時に感染者を正常な状態に戻して行った。

 それだけでなく、今宵θウイルスによって死んでいった者たちを直接・間接問わず全て五体満足な形で生き返らせた。

 さらには破損した建造物などもすべて元通りになった。


「コード・ダブルアクセス」


 センゴク再び詠唱した。今度は。


「無窮の殲滅魔法、アイン・ソフ・オウル・リベンジャー」 


 その日、地球上に無数の光線が降り注いだ。

 光線はθウイルスに関わり悪用した者、生物兵器製造に関わった者、今後悪用する可能性のある者を未来から逆算して検出し、その全てを貫き、蒸発させた(・・・・・)

 無論、光線が貫く瞬間だけ体感時間を遅らせて、途方も無い苦痛を味合わせてである。


「ふう……お掃除完了」


 センゴクは、額の汗をぬぐった。とてもいい笑顔で。

 センゴクに良心の呵責など一つもなかった。

 魔法使いに与えられた力とは、魔法使いの胸一つ。

 魔法使いこそが、ルールであり、秩序なのであった。










 一夜明けて。


「ん……」


 マイクは自宅で目覚めた。

 気分は思いのほか爽快だ。

 その割りに昨晩のことを思い出そうとすると妙な悪寒がするのでマイクは考えるのをやめた。


 さあ、今日も一日、ジャパニーズサラリーマンにこき使われる一日が始まる。



センゴク「え? 続編? ないない。俺手は抜いてないもん 6まで行くはほど無能じゃないもん」

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