第12話 ねえちょっとだ~れ? コイツに酒飲ませたの~?
センゴクがアメリカ入りして、1ヶ月。
やべえ、外人コエー、ノリわかんねーと泣き言を言っていた期間も過ぎ、すっかり現地スタッフとも打ち解けていた。
「マイクー、手を抜くなよー、こらジャスミン、うちのアイリスを着せ替え人形にしない、っていうかアイリス、お前も簡単にリクエストに応じちゃだーめ」
それなりに手を焼くのは別としてである。
仕事上がりの時間は決まっており、過度な残業をする奴など、こちらにはいない。
センゴクも当初は慣れない環境で四苦八苦し、日本人はやっぱりワーカーホリックだよ、とからかわれたりもしたが、仕事が軌道に乗り始めた今は、残業もしなくなっていた。
しかし長い外国生活ではどうしても用意しにくいものもある。
「あーあ、日本米が恋しくなってきたなー」
定時になり、力が抜けたセンゴクから出た言葉は、故郷の味だった。
「なんだよセンゴク、ホームシックか?」
センゴクの独り言に乗ってきたのは現地スタッフで一番最初に仲良くなったマイクだった。
「かもなー、あー丼もの食いてえ」
「だったら、今日の晩飯一緒に牛丼屋でもいくか? もしくはジャパニーズ・カレーでも付き合うぜ」
「いやあ、アレ食ったけど、なんか違うんだよな。微妙にジャポニカ米から外れてるっていうか」
「かぁー! ジャップは一々細かいなあ」
「うっさい、ハゲ。お前らみたいに大雑把じゃないんだよ」
「ハゲ言うな。剃ってんだよ。んじゃあ、俺の行きつけのバーに連れて行ってやるよ。そこ裏メニューでうまい飯を出すんだ」
「わかった。そこにしよう」
マイクはその日の出来事をこう語る。出来の悪いホラームービー……のコメディであったと。
「ち、まさかセンゴクが酒を飲むとこんなに絡んでくる奴だったとは」
マイクは渋るセンゴクに酒を飲ませたのだが、酒を飲んだセンゴクはとにかく絡んできた。ぐちぐちくちくちと、あることないことペラペラしゃべり、マイクが一つ言葉を出すと、100倍になってトークが返って来る。
そしてこの状態のセンゴクはとにかく酒を飲む。その細い身体に何処にブラックホールがあるのか、というくらい底なしだ。
気が付けば日も変わっていたので、泣きじゃくるセンゴクを肩に担いでバーを出たマイク。
だがマイクは気が付かなかった、外ではサイレンの音が鳴り響き、物騒な破砕音が時折聞こえていたことを。
「あん……なんだこれ」
夜なのに、空が赤い。そして煙が上がっている。これらが示すのは火事起きているということで、しかもそれは一箇所ではなかった。
「おいおい、どうなってんだ……おい、センゴク起きろ!」
「むにゃ……やめろアイリス。その方式はヤバイ! 宇宙の法則が乱れる!……むにゃ」
「FUCK! おいクソジャップ、わけわからん寝言言ってる場合じゃねえんだよ!」
マイクがセンゴクを揺さぶっていると、ふらふらとおぼつかない足取りの女がマイクたちに近寄ってきた。
「HEY! そこの姉ちゃん、一体どうなってるんだコイツは。ちょっと教えてくれよ!」
マイクがこれ幸いにと状況を聞きだそうとする。
「…………」
だが女は反応しない。しかしマイクたちに近づいて来る。
「おい、姉ちゃん」
マイクが再度声をかけた。
「Ah,AHaaaaaaaaaa~~~」
返礼は女のうめき声と噛みつきだった。
「うわぁ!」
マイクは担いでいたセンゴクの肩を振りほどき、襲い来る女の手を掴んで抵抗した。
「くそ、何だこのアマ! トンでもねえ力だ」
「Ah,Ah,Ahaaaaaaa」
暗がりで見えなかったが女は白目をむき、肌は青白く、傷だらけ。生気を感じさせず、理性も感じない。
これではまるでリビングデッド――
「ドラァ!!」
女が横からの衝撃に吹っ飛んだ。
女はそれきり、ピクリとも動かなくなった。
「せ、センゴク……」
マイクを助けたのはセンゴクだった。
「こいつはいけねえな……急ぐぞマイク。どうやらシティによくないモノが運ばれちまったみたいだぜ」
「はっ……?」
マイクは、センゴクの豹変振りに目をむいた。
目には力があり、口調もはっきりしている。
だが、なんというか……そう、男前過ぎるのだ。
なんというか、キリッとしすぎている。
「いくぜ、マイク!」
「お、おいセンゴク! どこにいくんだよぉ!」
やけに強気なセンゴクが走り出した。
「ドラァ!」
リビングデッドが吹っ飛ぶ。
「ナリィ!」
リビングデッドが吹っ飛ぶ!
「ドラドラァッ!!」
人ではない異形のモンスターが吹っ飛ぶ!!
「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラDORAYAKIDAISUKIIIIIIIII!!」
対弾・対衝撃コートを着込んだ白亜の大男が風穴だらけになる!!!
「Oh My God……」
一体何度命の危機に晒されたのかわからない。だが、その度に、センゴクのパンチが、キックが、リビングデッドにモンスターたちを吹っ飛ばしていく。
そして、センゴクの前ではセキュリティも無力だ。
「アイリス、ロック解析」
『YES Sir!!!』
なぜか高級将校のコスプレとしたアイリスが、電子ロックを次々と解除していくのである。
そして状況の推移もめまぐるしい。
駆け込んだ先の病院をセンゴクが突き進んでいく先に、巨大なシャフトが貫く、研究施設があったのだ。
そこで明らかになる数々の陰謀。
2時間と経たずの怒涛の展開にマイクは考えるのをやめた。
だが、判っていることは一つだけある。
「許さないぞ、グッドスピード製薬!!」
それは未だに酔っているらしい、このジャパニーズ・サラリーマン、センゴクから離れることは即刻死に繋がると言うことだけである……!
次々明らかになるグッドスピード製薬の陰謀、アメリカ政府高官との癒着。
酔ったセンゴク『を』果たして彼らは止められるのか……!?
次回、<お前らに、明日を生きる資格はねえ!>
センゴクの魔法が、アメリカの大地を揺らす……!