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第11話 魔法使いにも抗えない




――面倒くせえなあ……。

「面倒くせえなあ……」


「ぶっ飛ばすぞ、槙島。思ったことをそのまま口に出すな」


 センゴクが部長にその話を持ちかけられたのは、特に変哲も無い定時を少し回った頃だ。






「米国支社に、俺が?」


「ちょっとトラブルでな。人手が足りんから寄越せと。ったくこっちだってカツカツなんだが、まあ仕方が無い。お前、英語できたよな。TOEIC、600点だったよな。いけ」


 乱暴すぎる。ささやかながらセンゴクは抵抗を試みる。


「はっはっは、部長。それは入社したての頃の話ですよ。もう期限切れです。というかパスポートも持ってませんが?」


「知ってる、それは会社の金で取らせてやる。で、英語は出来たよな」


「いや、だから」


「出来たよな」


「……はい」


「ようし、詳細は追って連絡する。……頼りにしてるぞ」


 強引過ぎる。でも絶対、彼は部下への労いと信頼を忘れない。だからこそこの御仁は大卒でもない生え抜きで部長職を務められるのだ。

 魔法使いにも抗えない上司はいる。


…………

………

……



「そんなわけでアイリス。アメリカに行くことになったから。通訳よろしくな」


 センゴクは自宅の机においた台に立てかけたタブレット端末に向かって話しかけた。


『承りました、マスター!』


 タブレットから元気良く答えたのは、AIのアイリスだ。

 むん、と握り拳を作って気合を入れている。かわいい。Prpr。


『しかし、マスターは魔法が使えるので言葉には不自由しないはずでは? ああいえ、お役に立てるので私は嬉しいのですが』

 

 センゴクの役に立てるとはいえ、それが本当にセンゴクのサポートになっているかというのは微妙な問題だ。

 なにしろセンゴクは魔法使いだ。本職の魔法使いに失礼なくらい魔法使いだ。究極的には、誰の助けを(・・・・・)も必要としない(・・・・・・・)

 センゴクは、穏やかな笑みを浮かべてアイリスに答える。

 

「魔法はさ、マスターキーみたいなものだよ。普段使いはしない非常用ってやつ。アイリスが役立ってくれるのなら、無理に使う必要は無いだろう?」

 

『なるほど。そういうお話でしたら、納得できます』


 アイリスは、センゴクの話に納得しつつも、その分別の良さと自制心に驚嘆を禁じえないでいた。

 

 人間と言うものは、欲望を糧とし幸せのために生きている。

 そうアイリスに教え込んだのは、彼女の開発者だ。

 そしてアイリスは、開発者の欲望と幸せへの探求が生み出した存在だ。

 現在はセンゴクを宿り木としているが、アイリスは、今も自己改良、自己進化を続けている。

 それは将来、彼女の目的を果たすためだ。存在理由を全うするためだ。

 ならば、センゴクの欲望とは、幸せとは何なのだろうか。

 万能の力をその身に宿すセンゴクに、叶えられないものは無い。だがセンゴクは、魔法を非常用だと言う。

 つまり、魔法ではセンゴクの願いは叶えられないということだ。

 

 アイリスは人ならぬ身でセンゴクのことを考える。

 理屈で図れぬ部分を考える。

 それもまた、アイリスには必要なことなのだから。

 


 そして2週間後、センゴクはアメリカに中期の出張に出かけた。


















「うっわ、なにこの翻訳インターフェイス!? ちょーかわいい!」


「えっ、なにこれ自作? オリジナル?」


「完成度激ヤバっ! パテントだせよ、売れるぜ!」


「っていうかグッズ作ってウチから出そう、そうしよう」


「メイド服着てよ、メイド服!」


『はわわ! マスター、人が群がってきます! なにこれ怖い』


 アイリスが現地で馬鹿受けした。


 ……アイリスに翻訳を頼むと現地のスタッフがアイリスに夢中で仕事にならないので結局センゴクは翻訳魔法を使った。 


 しかしアイリスを同伴しなかったらスタッフのモチベーションがだだ下がりなので、アイリスは結局センゴクに付き従うことになった。

「やっぱ魔法使うから、アイリスは留守番な」

「しょぼーん」

「うそうそ、PC作業でサポートよろしく」

「はい、お任せください!」

(なんかチョロいな……)


 現在のセンゴクの英語力は200点

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