第10話 不審者未満と不審者
「機種が多すぎてわからん」
休日、大型電気店でセンゴクは大き目のタブレット端末を物色していた。
『そうですね、こちらのメーカーの方が私としては好みですが、拡張性という意味では――』
最近増えた同居人(?)、ハイパーAIのアイリスのお出かけ用の端末選びだった。
仕事に餓えたアイリスが、家の中では仕事が無いため、センゴクに自分を持ち歩くように進言したからである。
無論、センゴクとてタッチパネル式の小型携帯端末を持っているのだが、少々彼女にリソースに乏しい手狭な機種だ。
かといってノートパソコンだと、ややかさばる。
相談……というよりアイリスの進言どおり折衷案を取って、比較的大容量のタブレット端末を選択したのである。
『……申し訳ございません、マスター。私がお役に立ちたいと言い張るばかりに、わざわざ端末を新調していただくなんて。かえってご迷惑を……』
アイリスは、今センゴクの小型端末に意識を移している。
画面越しに、申し訳無さそうに頭を下げていた。
「いいよいいよ。同僚にもたまにはちゃんと金を使えって言われてるくらいだし。結構貯金もあるから、これくらいは安い買い物さ」
『あ、ありがとうございます、マスター……』
気風のよさに感激して、アイリスは頬を染めた。まさに可憐な美少女である。
一方画面に映る美少女アバターに話しかけるセンゴクは不審者すれすれだった。
これで身なりまで乱れて異臭を放ち、
「デュフ、デュフフフ、アイリスたんprpr、デュクシ、デュクシ」
などと呟いていたら間違いなく通行人は黙って道を譲り、警察の職務質問を受けざるを得ないところだ。というより、通報される。
見た目が幸が薄そうで清潔感だけはあるセンゴクなのでその事態はかろうじて回避していた。
『ところでマスター、さっきからマスターを尾行している女性がいるのですが……』
アイリスが物騒なことを報告してきた。
「あ、やっぱり?」
センゴクも一応気づいていたので同意した。
魔法を使わなくてもそれくらいはわかる。
『はい、店内の防犯カメラをジャックして確認しましたが、行動から見て、間違いなくマスターを目標にしているようです(※良い子の皆は真似しないでネ!)』
アイリスが、防犯カメラが捉えた尾行者の姿をセンゴクの小型携帯端末に映し出した。
「ああ、やっぱりこの人か……」
その女性は、センゴクが気づいていた人物と一致していた。
緑がかった黒い色した長い髪で標準的なビジネススーツを着込んでいる。
まったく面識が無かった。そもそも女性の知り合いなど、片手で数えるほどしかいない。
女性に興味が無いわけではない。しかし、その類の欲望が薄いのがセンゴクなのだ(それでもエロ動画を根こそぎう消されれば泣く)。
「こういうときは……」
センゴクはぐるりと振り返って、物陰に慌てて隠れた女性の下までつかつかと歩いていく。
この手の手合いは直談判あるのみだと、センゴクは内心ドキドキしながら、接近した。
「あの、俺に何か用ですか」
「……え? い、一体なんです?」
女性は知らん振りした。
だが、不自然なほどに汗が噴出している。
というか震えている。あからさまに青い顔になっていた。
「あ、あの大丈夫ですか」
「ひゅいッ!? な、何がですか?」
――ひゅいってなんだ!
声が上ずっていた。あからさまに怪し過ぎる。
――面倒になってきたなあ……。
「お体が優れないみたいですね。すみませーん、店員さーん、ちょっと来てください」
センゴクは店員を呼びつけた。
「ふぇええ!? ちょ、まッ……」
女性は何故か大層慌てた。
店員が何事かと駆け寄ってきた。
「どうされました?」
「この人、なんか体調崩しているみたいなんです。ちょっと介抱したいんで、場所を貸して欲しいんです」
センゴクは店員にこの面倒な女性を押し付ける気であった。
「はぁ……わかりました」
「ひょおおッ!? け、結構です! 失礼しま~す!」
女性は機敏な動きで他の客を掻き分けて立ち去った。
「逃げた……」
「あの、お知り合いですか?」
「いえ、全然」
店員の問いにセンゴクは即答した。
知り合いと思われたのなら心外だとセンゴクは思った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
先ほどまでセンゴクを尾行していた女性は。人気の無い路地に入りこむと携帯電話を取り出して、通話ボタンを押した。
「私よ。ええ、ええ。ちょっと予定が狂ってターゲットと接触してしまったけど、おかげで確証が取れた。間違いなく、槙島千国は魔法使い。彼が私たちの主、預言書に記されし<万象の魔法使い>よ……!」
彼女の名前は石動モナコ。
御年30歳の処女にして、魔法使いである……!
喪女って書くか迷った
モナコ「はっ、ちがうしい、わざとだしいー?」