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第1話 誕生、魔人センゴク





「魔法が使えるようになった」


「いきなり何を言い出すんだお前は」


 昼の社員食堂で槙島千国(センゴク)は、同僚に秘密を打ち明けた。

  

 センゴクは御年三十歳の営業主任だ。

 酒は苦手、風俗に行かない、賭け事をしない、そして彼女いない暦三十年。

 真面目かといえばそうでもなく、これといった趣味も無い。

 休日にやることといえば、ネット動画を漁り、ねこ動画に癒されるという程度。

 ないない尽くしの男だった。



 かつての同級生たちが次々と結婚していく中、家族や会社からの妙なプレッシャーに晒される今日このごろだ。

 そんなセンゴクが突然魔法を使うなどと告白した。

 

「いやいやこれがマジなんだって」


 センゴクは掛けそばをすすりながら、世間話のように話した。

 嘘のないその様子にいよいよノイローゼになったかと同僚は心配になった。


「センゴク、病院、行ったほうがいいんじゃないか」


 同僚は、本気の心配からの忠告をした。


「お、信じてないな」


 センゴクがちょっとむくれた。その年でむくれても可愛くない。


「じゃあ、ちょっと証拠を見せるぞ。コード・アクセス」


 センゴクが人差し指を立てて、七味唐辛子の入ったビンを指して、2、3回振った。

 その動きに合わせて七味唐辛子が宙に浮き、センゴクの掛けそばの中へ七味が投入されていった。

 センゴクがもう一度指を振ると、七味は元の場所へ戻っていった。


「どうだ」


 魔法を使い終わったセンゴクがドヤ顔をした。

 

「いや、それ超能力だろ」


 同僚のツッコミどころが明後日の方を向いていた。


「念働魔法だよ。サイコキネシスとはまた別だよ」


「その程度で魔法とか言われてもな……」


 同僚は全然信じていない様子だった。


「じゃあ、これでどうだ、コード・アクセス」


 センゴクがまた人差し指を振るった。

 すると食堂のすべての七味唐辛子の瓶が、宙に浮き、センゴクの元へ集結、そしてセンゴクの掛けそばの中へ一斉に七味唐辛子が投入された。

 そばが真っ赤になった。

 センゴクが指を一振りして、七味唐辛子たちは元の位置へと戻っていった。


「どうだ」


 センゴクはまたドヤ顔をした。


「七味から離れろよ」


 同僚は図太かった。動揺一つ見せない。


 だが周囲は別だ。七味が謎の空中軌道を描き、センゴクの元へ集まったのはちょっとした怪現象として映ったのだ。

 

 騒然となる食堂を余所に、センゴクたちは会話を続けた。


「まあなんか凄い力を手に入れたのはわかった。どうしてそんなことに」


「うむ、良くぞ聞いてくれた」


「お前、それが言いたかっただけだろう」


「先日、俺の三十回目の誕生日でな。自分へのご褒美にホールケーキを買って帰ったんだ」


「ご褒美って、お前は丸の内のOLか」


「それで、ろうそくを立ててな、火をつけて、部屋を真っ暗にして、それで火を吹き消したんだ」


「怖いよ、お前」


「それで部屋が真っ暗になった瞬間に、頭の中にぴかっと閃くものがあった。なんというか、世界が開けた感じがしたんだ。そして電気をつけたあと俺は魔法を使えるようになった……」


 センゴクは一気にまくし立て、水を一口飲んだ。


「とまあ、そういうわけだ」


「タンスの角に小指ぶつけて死ね」


 幾らなんでもその説明は無かった。

 だが、センゴクは一切話を省略していない。

 とにかく、魔法が使える、という絶対の自信が身体に宿ったのだ。


「よしわかった、お前はどうしても魔法を信じないんだな」


「何がわかったんだよ。何も言ってないだろう」


「俺は、某48と名のつくアイドルのセンターのスキャンダルを掴んでみせる」


「ファンたちに殺されるぞ」




 その週の週刊誌に、48と名のつくアイドルのセンターのスキャンダル写真が公開された。

 無論、センゴクのタレコミだった。


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