妖精の国では大問題
たいまつのオレンジの光に照らされて玉座の間が淡く浮かび上がっていた。
ふわりふわりとたいまつの灯が揺れる。それに合わせて玉座の間に集まっていた人影を揺らす。
集まっているのは数人の兵士……そして玉座に腰掛ける年老いた王だった。
兵達は皆膝を付き、一人が代表して顔を上げて口を開く。
その言葉を聞く度、王の顔がだんだんと青ざめていく。
「なにぃ! リリィが巨人に連れ去られただと!」
玉座の上で、報告を聞いた年老いた王はそう怒鳴った。
白い白髪に白い髭、妖精の中では珍しく骨太の体格をした王には年齢を感じさせる深い皺が刻まれている。
その声に驚きの報告をしていた甲冑姿の兵達はビクリと体を固くした。
「お前達はそれをみすみす見逃したというのか!?」
代表して説明していた熟練の兵は王の指摘にそうではないと返事を返す。
小麦焼けの肌を持つ精悍な顔立ちの妖精だった。
「はっ、リリララノナ様が……その、自発的に。約束は果たさねばならないからと」
その言葉に王は狼狽する。そう命じたのは自分であるという自覚は合った。
誤算だったのは本当に巨人が現れたという一点だ。
暗い玉座の間を照らすたいまつの炎が王の額の浮かんだ汗を照らし出す。
「それは。いや、巨人がそもそも現れたのだな!?」
娘が連れ去られたという事実を確認するため、王はそう質問をし、小麦色の妖精は膝を着いた姿勢のままそれに答える。
「そうです。見上げるほどの巨体で有りました」
「……であるか。そして蜜を寄越したのだな?」
「はい。二時間もかからぬうちに、人丈に勝らんばかりの大瓶を十四。それよりも小さな瓶を四つ。非常に濃い蜜で、通常希釈で6倍ほどかと」
「……おおよそ、どの程度と見る?」
「おそらく一つの村が冬を超せるかと」
兵の報告に王は唸る。娘が連れ去られた事実もそうだが、その量にも問題が有る。
足りない。むしろ、それでは巨人の恩恵を受けたものとそうでないものに不平不満が溜まるばかりだ。
「あの子は使命感もそうだが、思い込みが激しいところが有る……。厄介な事になった」
思わず王はそうこぼす。
「いかがなさいましょうか?」
その問いかけに、王はしばらく沈黙し、言葉を選びながら口を開く。
「……探索隊を組め。巨人に”攫われた”姫を救出せよ」
兵はその言葉にしばし迷い、自らの立場をふまえてそうするしか無い返事を返す。
「……御意。明日、明朝より姫様の救出へと参ります」
「よし。吉報を待つ」
王の言葉に兵は頭を下げた。
それが事実とは違う言葉で成り立つ命令だとしても、妖精の王たる言葉は絶対である。
彼は一万五千の王都に住む、のべ三十二万五千の民の頂点であるのだから。