犯人
事件が起きたのはそれから1週間後の夕方だった。
通り魔事件、被害者は吉川美帆。意識不明の重体で病院に運ばれた。
そして犯人は捕まっていない。
「美帆っ!」
「明君」
「おばさん、美帆は」
「命は助かったわ。あとは意識が戻るのを待つしかないそうよ」
疲れたようにいった。
病室の前で明は座り込んだ。
「明君、美帆に何があったか知らない?最近おかしかったのよ」
美帆の母親が不安そうに聞いた。
「え?」
「それに、あの子自分に何かあったらこれを明君に渡してくれって」
バッグの中から手紙を取り出した。
「手紙・・・?」
明は恐る恐る手紙を開いた。
明へ
最近つけられてる気がする
そして、冷たい目でみられるの
きっと私が疑ってることに気づいたんだと思う
待ち伏せされてたこともある
だからその内きっと2人で話さなければならなくなる
お願い、彼から離れて
これを読んだということは私に何かあったのよね
わかったでしょ?
彼は異常よ
最後にいわせて
復讐なんか考えちゃダメ
犯人探しなんかせずに普通に暮らして
大好きだよ、明
それで終わっていた。
「っくそ!」
信じてやれば良かった。
もう少し・・・美帆の様子の変化を気にかけてやればよかった。
気づけば走って病院を抜けだし、日も落ちた町の中で悠を探していた。
「どこだよ・・!!」
そして、ふと立ち止まる。
悠がどこに住んでいるのか、小学校、中学校はどこなのか、休日は何をしているのか、今までどんな生活をしていたのか、何も知らないことに気がついた。
「悠・・」
学校生活しか知らない、だからそれに気付くと自然と明の足は学校に向かっていた。
悠はその頃深雪を突き落とした学校の屋上にいた。
「これで終わりだ」
そうゆっくり呟いた。
明かりも消えた学校の屋上に人がいるのを見つけた。
なぜか悠だという確信があった。
そして目の前にはまるで明を待っているかのようにドアが開いていた。
「はあ、はあ、はあ・・」
怪しむ事もなくただひたすらに明は屋上にむかって駆けあがった。
「ん?意外と遅かったな」
息切れしている明を見ていつもの様子で話しかけた。
「お前が美帆をあんな目にあわせたのか!?」
悠の様子を無視し、つかみかかるように言った。
「あれくらいじゃ死なないって。生きてるだろ?」
その言葉はすべてを肯定していた。
「美帆を刺したのはお前か!!深雪先生を殺したのも、今までの殺人の犯人もお前か!!」
「そうだといったらどうする?」
「!!」
悠は笑っていた。でも、目は何も見ていなかった。
「あーあ、バレちゃった」
ナイフを取り出した。そこにいるのは明の知っている悠ではなかった。
「首を突っ込まなければいいものを」
クルクルとナイフで遊ぶ。
「じゃあ、先生も秋も」
「ああ、俺がやった」
「!」
「深雪先生をここから突き落とし、吉川さんを通り魔的に襲ったのは俺」
ナイフの刃先を明の方に向けた。
「さて、死んでもらおうか」
「なっ!!」
そして切りかかってきた。
「何で!」
「んー」
「何でだよ!何でそんなことしてんだよ!」
明は悠の攻撃をよけながら叫んだ。
「秘密」
「馬鹿やろう!なんで人を殺すんだよ!先生が何をしたっていうんだ!美帆が!」
「別に何も恨みはないさ、ただ生きていると不都合なだけだよ」
話ながらも悠の攻撃は止まらない。
「ぐぅっ」
お腹に蹴りがヒットした。
連続して蹴りを入れようとしてきたが、かろうじてよけきった。
「悠!」
悠は無表情で暴力を続けた。
「しぶといなー」
明らかに面倒くさそうだ。そして、みぞおちを殴られる。
「がっ」
「はぁ・・」
ため息が聞こえたかと思うと倒れかかる俺を掴み、顎を蹴りあげた。
「!!あ゛っ」
ドンと屋上に倒れた。
「いって・・・」
冷たい目で俺をみると俺の上にまたがって殴った。
「うっ」
「・・・」
しばらくしてナイフを首に突き付けた。
「なっ・・・!!」
「死ね」
そう言われて悠と明の視線がやっと重なった。
「くそっ。・・・ん?」
しかし、覚悟を決めたところで手が震えているように見えた。
「悠?」
「最後に言い残すことは?」
「・・・何で」
「殺すのか、か?」
「それもだけど」
悠が不思議そうに首を傾げる。
「何、怖がってるんだ?」
「え?」
「何でお前が・・泣いてるんだよ!!」
最初は冷たい目に見えた。でも、そのうち泣きそうだと思った。
「悠!」
「・・・るせぇ」
ぼそっと呟く。
「何?」
「う・・るせぇ・・」
ナイフを落とし襟元を力強く掴んだ。
「首を突っ込むなっていっただろ!馬鹿やろう!」
「え?」
「危険だって!殺されるっていっただろ!」
手があきらかに震えていた。
「どうした?」
様子が変わった。先ほどまでの殺人犯ではなくただ何かを恐れている高校生に見えた。
「殺さなくちゃいけないだろうが!」
「殺さなくても・・・」
「駄目なんだ!犯人だとバレたら口封じしないといけないんだよ!」
「なんで!自首しろよ!」
「俺の意思はない!そういう決まりだ!」
悠の心からの叫びは止まらない。
「吉川さんにも言われただろ!黙って俺から離れれば良かったんだ!」
美帆が悠のことを疑っているのは当然気づいていた。それも最初から。
「そしたらこうはならなかった!」
悔しそうに言う。
「お前だって察していたくせになぜ離れなかった!」
「!」
「俺が怪しいっててわかっててなぜっ!」
悠は美帆だけでなく明のことも感づいていた。
「・・・友達だろ」
「は?」
「友達だから・・・信じたかった、犯人じゃないって。そしてもし犯人なら自分から名乗りでてほしかったんだ」
美帆に言われる前から明も薄々と気づいていた。
美帆の言葉で確信にいたっただけのこと。だから、明は後悔した。
「友達?」
「そうだ」
「ふざけるな!」
「は?」
「初めて・・・なのになんで!」
悠はうつむいた。
「初めて友達出来たのに・・・だから・・・殺したく無かったのに・・・」
顔をあげた悠は泣いていた。
「せっかく・・生まれて初めて友達できたのに!」
「え?」
「殺したくないのに・・・なんで犯人探しなんか!」
何度ももう犯人探しはやめようと言っていたことを明は思い出していた。
「俺はお前を殺したくないんだ!」
ポロポロと涙があふれていた。
「何してんだよ!」
「初めてって・・嘘だろ?」
「今まで誰も信じられなくて・・・一緒に馬鹿やって本当に笑ったことなんてなかったんだ!だから明と会えて嬉しかったのになんで・・・殺さないといけないんだよ・・・なんで・・・」
襟元の手にいっそう力がこもる。
「殺さなくてもいいだろう?」
いつの間にか明の方が冷静になっていた。
「自首しよう?」
「無理だ」
「何で?」
「自首をすすめたお前が他の奴から殺される」
「他?」
「誰かに殺されるくらいなら・・俺が殺す」
そう言いながら悠の両手が襟から首へと伸びた。
「こうやって・・」
手は首をしめようとしていた。
「俺が殺そうって決めたのに・・・死んで欲しくない」
「悠・・・」
ごめんと悠は呟いた。
「バックに誰かいるのか?」
「・・・」
「協力する!助けるからもうこんなことはやめろ!」
「明・・・」
「何?」
「馬鹿だな、お前」
「何だよ」
「そんなこと出来るわけないだろ」
「やってみないとわからないだろ?」
「ふっ。まー、そうゆう所が気に入ってたんだけどな」
涙を拭い寂しく笑った。
「やっぱり殺せねぇ」
落したナイフをしまい、真剣な顔で言った。
「いいか?俺のことは忘れろ、今聞いた話も全て」
「いきなりなんだ?」
「聞け!」
悠の様子に明は押された。
「そして、こんなことに首を突っ込まずに平穏にいきろ」
「?」
「誰かに言った時には必ずお前は殺される、だから全てを忘れて普通の日常に戻れ。そしたら、殺されなくてすむから」
「どういう意味だ?」
悠は明の質問には答ずに言う。
「頼むから馬鹿な考えは起こすなよ」
悠は立ち上がり明から一歩離れた。
「お前・・何する気だ?」
明もゆっくり体を起こした。
「明の知らなくていいことだ」
「死ぬ・・・のか?」
「死なないよ」
明は遠くを見ていた。
「俺は大丈夫。ただこれから先二度とお前に会うことはない」
「え・・・」
「次会う時は殺す時だ。次は必ず殺す」
悠は手を伸ばし俺を立ち上がらせた。
「だから、生きろ」
ぎゅっと手を握った。その手は悠の別れの印に見えた。
そして悠は扉の方に歩きだした。
「あ、そうそう」
その口振りはいつものクラスメイトで親友の様子。
「いい加減吉川さんに告白しろよ、お幸せに」
ニヤリと懐かしい笑みを最後に残して彼は明の前からいなくなった。




