貴方の居場所はありません。出て行って下さいませ。元夫様。
「俺がいない間、ご苦労だったな。アルフィーナ。安心してくれ。これからは俺がこの伯爵家を仕切る。だから、お前は出て行ってくれていいんだぞ。出ていくのが嫌なら、置いてやる。仕方なく」
二年ぶりに夫であるファルクが帰って来た。
ふらっと家を出て行ったきり、戻って来なかったファルク。
ファルク・エルド伯爵令息である彼は無責任な夫だった。
アルフィーナは大人しい茶の髪に緑の瞳の女性だ。
元ラルク伯爵令嬢で、両家の伯爵達が交流があり、二年前に嫁いで来た。
ファルクは夜な夜な遊び歩いているどうしようもない男だった。
結婚の籍をいれた翌日には金を持って家を出て行ってしまい、戻って来なかったのだ。
金髪碧眼で美男のファルクは女性にモテる。
歳は23歳。
どこかの女性の家に転がり込んでいるのだろう。
それでも、アルフィーナは結婚してしまったからには、伯爵家に戻る訳にはいかない。
家に戻っても、兄嫁のあたりがきつくて、戻るのが嫌だったのだ。
だから、この伯爵家に居座るしかなかった。
エルド伯爵はそんなアルフィーナに、
「すまないね。息子が出て行ってしまって。せっかく結婚したのに。申し訳ない」
アルフィーナは首を振って、
「いいんです。私、エルド伯爵家の為に出来るだけ頑張ります」
屋敷の中を仕切れるように、アルフィーナは頑張ったのだ。
使用人達とも仲良くなった。
皆、「若奥様。若奥様」
と言って可愛がってくれたのだ。
だから、寂しくない。皆、いい人達ですもの。
でも、エルド伯爵は時々、出て行った息子ファルクが金の無心の手紙を送ってくるので、金を与えているようだった。
亡き伯爵夫人を愛していたエルド伯爵。
息子を甘やかしに甘やかしていた結果がコレである。
結婚してファルクが出て行って、半年過ぎた頃、エルド伯爵はアルフィーナに、
「息子と離縁して私と結婚してくれないか?アルフィーナ」
プロポーズをしてきた。
二人で食事を共にし、生活を共にしてきて、アルフィーナもエルド伯爵の事が好きになった。
伯爵は色々と教えてくれた。時には二人で庭を眺めて、季節の花々を楽しんだ。
ラルク伯爵家では両親は兄ばかり可愛がって居場所がなかったアルフィーナ。
兄嫁が出来てからは、兄嫁に冷たく当たられて辛かった。
嫁いできて夫はいなかったけれども、このエルド伯爵家で初めて自分の居場所を見つけたのだ。
歳は離れているけれども、それでも、家を出て行ったファルクより、ずっとずっとマシだと思ったのだ。
顔合わせから、ファルクは暴言を吐いてきた。
「お前みたいな冴えない女と結婚したくない」
アルフィーナも嫌だと思ったのだ。
だが、さっさとアルフィーナを家から追い出したい兄嫁や、兄の意向により、父がこの話を進めてしまった。
だから、嫌でたまらない相手でも結婚するしかなかったのだ。
籍だけいれた結婚だった。
翌日にはファルクは家出してしまったのだ。
こんな夫、いらない。
夫は出て行ったきり帰って来ない。
エルド伯爵様はとても紳士で優しくて。
私は伯爵様となら結婚してもいいわ。
エルド伯爵のプロポーズをアルフィーナは受けることにした。
結婚して一年半、エルド伯爵は馬車の事故で突然、亡くなってしまった。
幸せだった。エルド伯爵に愛されて、アルフィーナも彼の事を愛していて。
この突然の死に嘆悲しんでいた。
そんな最中、帰って来たのだ。元夫が。
「俺がいない間、ご苦労だったな。アルフィーナ。安心してくれ。これからは俺がこの伯爵家を仕切る。だから、お前は出て行ってくれていいんだぞ。出ていくのが嫌なら、置いてやる。仕方なくな」
と、ファルクがお腹の大きい美しい女性を連れてそのように言ってきたのだ。
実の父が亡くなったというのに、喪服も着ないで、アルフィーナの前に現れた。
だからアルフィーナは言ってやった。
「貴方は廃籍されております。出て行って下さいませ」
ファルクは怒りまくり、
「何だと?俺はこの家の息子だぞ。お前は離縁してやる」
「それなら、貴方との離縁は成立しております。わたくしはエルド伯爵様と再婚致しましたの」
「でも、俺はこの家の嫡男だ。お前は父の後妻、未亡人ってことになるじゃないか」
「ですから、廃籍されております」
「血筋は?俺がしっかりとエルド伯爵家の血筋を引いている。俺の子が伯爵家の血を引く子になるはずだ」
お腹を大きくした美しい女性がにこやかに、
「私、妊娠しているの。ファルク様との子よ。だから出て行って下さるかしら?」
アルフィーナはにこやかに、使用人に命じると、乳母が赤子を抱きかかえて出てきた。
「私と伯爵様との子です。男の子ですわ。ですから、そちらの女性の子は、廃籍されたファルク様との子ですもの。我が伯爵家とは関係ありません、ですから、出て行って下さいませ」
ファルクがごねそうだったので、重ねて言ってやった。
「貴方の居場所はありません。出て行って下さいませ。元夫様」
ファルクと女性は、使用人達に追い出された。
屋敷の外で喚き散らした。
「俺は伯爵家の息子だっ。俺をこのような目に遭わせていいのかっ」
女性も、
「そうよそうよ。私達をこのような目にっ」
門が閉められた。
アルフィーナは喚き散らす二人を窓から眺めて、執事に命じた。
「あの二人を私の目の見えない所にやって頂戴」
「かしこまりました」
ファルクは変…辺境騎士団へ通報しておいた。
彼は顔だけは美しいから彼らの好みに合うだろう。
彼らは屑の美男を教育する変…辺境騎士団なのだから。
女性の方は子がお腹にいるということで放っておいた。
ただ、その子がファルクの血を引いていようがいまいが、もし、親子してこの伯爵家に来るのであらば容赦はしないと思った。
可愛い息子を抱き上げながら、エルド伯爵の事を思った。
「もっと生きて欲しかったですわ。伯爵様」
思い出されるのはエルド伯爵との穏やかな日々。
アルフィーナは涙を流すのであった。




