第4話 サバイバル訓練
合格発表から一週間後。
ぼくらは専用の訓練施設に集められた。
山奥の広大な演習場。鉄条網で囲まれ、迷彩服の大人たちが立っている。
自衛隊だ。テレビや本でしか見たことがない、本物の兵士たち。
「これより――古墳探索隊、訓練を開始する!」
隊長らしい大柄な男が号令をかけた。
ぼくらは百人ほど。全国から選ばれた子供たちが、一斉に姿勢を正す。
制服もなく、服装は普段着なのに、その場の空気は軍隊のように張り詰めていた。
◇
最初に行われたのは基礎体力作り。
腕立て伏せ、スクワット、ランニング。
走っている途中で息が上がる子もいたが、誰一人やめさせられなかった。
「仲間と共に最後までやり抜け」――それが教官の口癖だ。
「律、足止まってるぞ!」
「うっせえ、蒼……! でも、オレも最後まで走る!」
律は顔を真っ赤にしながらも、何とか走りきった。
ぼくも足が棒みたいになったけど、途中で夢の階段を思い出した。
あそこに行くためなら、まだ走れる――そう思えた。
◇
次に教わったのは、野外サバイバル。
火のおこし方、簡易シェルターの作り方、食べられる野草や水の確保方法。
教官は「古墳の中がどうなっているか分からない。あらゆる状況を想定しろ」と言った。
小柄な女の子が木の枝を組み合わせて火をつけると、みんなが拍手した。
名前は
一ノ瀬
(
いちのせ
)
美琴
(
みこと
)
。頭の回転が速く、知力テストではトップクラスだったらしい。
「ふふん、知識があれば生き残れるのよ」
彼女は胸を張って笑った。
律がぼそっと言った。
「オレは体力担当だな……蒼、お前は?」
「さあ……でも、役に立ちたいよな」
その時、美琴がこちらをちらっと見て言った。
「あなたは冷静さがあるわ。チームに必要な人材よ」
顔が少し熱くなった。
訓練はきついけど、不思議とワクワクしていた。
◇
そして、いよいよ武器の訓練。
銃といっても本物の弾丸じゃない。
電撃銃――スタンガンのようなエネルギーを放つ特殊兵装だった。
小型で、子供でも扱えるように設計されている。
「撃ってみろ」
教官の合図で、的に向かって引き金を引く。
バチッと青白い光が走り、的がビリビリと震えた。
大人の兵士たちが、うなずいている。
律は「すげえ! ゲームみたいだ!」と大はしゃぎだった。
でも教官は厳しい顔で言った。
「忘れるな。これは遊びではない。君たちは命を守るためにこれを使うんだ」
その言葉に、空気がぴんと張り詰めた。
ぼくらは改めて理解した。
古墳の中は、本当に危険なんだ。
◇
夜。演習場のテントで横になる。
全身が疲れ切っているはずなのに、なかなか眠れない。
耳の奥で、また声がした。
『もうすぐだよ。君たちで来て』
夢と現実の境目が、どんどん曖昧になっていく。
不安も恐怖もある。
だけど――その奥に、説明できない期待があった。
律が隣の寝袋から小声で言った。
「なあ蒼。オレたち、やっぱり選ばれるべくして選ばれたんだな」
「……そうかもな」
天井のランタンの明かりが消され、闇に包まれる。
古墳の闇と同じ、静かで深い暗さ。
ぼくの心臓は、高鳴りをやめようとしなかった。