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第4話 サバイバル訓練

合格発表から一週間後。

 ぼくらは専用の訓練施設に集められた。

 山奥の広大な演習場。鉄条網で囲まれ、迷彩服の大人たちが立っている。

 自衛隊だ。テレビや本でしか見たことがない、本物の兵士たち。


「これより――古墳探索隊、訓練を開始する!」


 隊長らしい大柄な男が号令をかけた。

 ぼくらは百人ほど。全国から選ばれた子供たちが、一斉に姿勢を正す。

 制服もなく、服装は普段着なのに、その場の空気は軍隊のように張り詰めていた。



 最初に行われたのは基礎体力作り。

 腕立て伏せ、スクワット、ランニング。

 走っている途中で息が上がる子もいたが、誰一人やめさせられなかった。

 「仲間と共に最後までやり抜け」――それが教官の口癖だ。


「律、足止まってるぞ!」


「うっせえ、蒼……! でも、オレも最後まで走る!」


 律は顔を真っ赤にしながらも、何とか走りきった。

 ぼくも足が棒みたいになったけど、途中で夢の階段を思い出した。

 あそこに行くためなら、まだ走れる――そう思えた。



 次に教わったのは、野外サバイバル。

 火のおこし方、簡易シェルターの作り方、食べられる野草や水の確保方法。

 教官は「古墳の中がどうなっているか分からない。あらゆる状況を想定しろ」と言った。


 小柄な女の子が木の枝を組み合わせて火をつけると、みんなが拍手した。

 名前は


一ノ瀬



いちのせ



美琴



みこと



。頭の回転が速く、知力テストではトップクラスだったらしい。


「ふふん、知識があれば生き残れるのよ」

 彼女は胸を張って笑った。

 律がぼそっと言った。

「オレは体力担当だな……蒼、お前は?」


「さあ……でも、役に立ちたいよな」


 その時、美琴がこちらをちらっと見て言った。

「あなたは冷静さがあるわ。チームに必要な人材よ」


 顔が少し熱くなった。

 訓練はきついけど、不思議とワクワクしていた。



 そして、いよいよ武器の訓練。

 銃といっても本物の弾丸じゃない。

 電撃銃――スタンガンのようなエネルギーを放つ特殊兵装だった。

 小型で、子供でも扱えるように設計されている。


「撃ってみろ」


 教官の合図で、的に向かって引き金を引く。

 バチッと青白い光が走り、的がビリビリと震えた。

 大人の兵士たちが、うなずいている。

 律は「すげえ! ゲームみたいだ!」と大はしゃぎだった。

 でも教官は厳しい顔で言った。


「忘れるな。これは遊びではない。君たちは命を守るためにこれを使うんだ」


 その言葉に、空気がぴんと張り詰めた。

 ぼくらは改めて理解した。

 古墳の中は、本当に危険なんだ。



 夜。演習場のテントで横になる。

 全身が疲れ切っているはずなのに、なかなか眠れない。

 耳の奥で、また声がした。


『もうすぐだよ。君たちで来て』


 夢と現実の境目が、どんどん曖昧になっていく。

 不安も恐怖もある。

 だけど――その奥に、説明できない期待があった。


 律が隣の寝袋から小声で言った。


「なあ蒼。オレたち、やっぱり選ばれるべくして選ばれたんだな」


「……そうかもな」


 天井のランタンの明かりが消され、闇に包まれる。

 古墳の闇と同じ、静かで深い暗さ。

 ぼくの心臓は、高鳴りをやめようとしなかった。

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