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第3話 選抜試験

政府の発表から数日後。

 日本中が古墳の話題で持ちきりになった。

 テレビも新聞もネットも、ニュースはそればかり。

 だけど一番ざわついていたのは、やっぱりぼくら子供たちだ。


「なあ蒼、見たか? 政府が“選抜試験”やるってよ!」


 律がスマホを突き出してきた。画面には大きな見出し。


《12歳以下限定 古墳調査のための子供特別隊 編成開始》


 記事によると――。

 全国から希望者を募り、身体能力・知力・精神力の試験を行い、合格した子供だけが「古墳探索隊」として選ばれる。

 もちろん、親の同意が必須。

 訓練や安全対策も国が全面的に行う、と強調されていた。


「おいおい、マジで国が子供にやらせる気かよ……」


 クラスのみんなもざわざわしている。

 やる気満々で「絶対受ける!」と言うやつもいれば、震えながら「怖いから絶対やだ」と泣き出す子もいた。


 ぼくは……。

 心臓が高鳴っていた。

 やめろ、と頭では思っても、胸の奥では“やらなきゃ”と声が響く。



 数日後、体育館に臨時の会場が設けられた。

 机が並び、スーツ姿の大人たちがクリップボードを持って待ち構えている。

 国から派遣された調査班らしい。

 ぼくらは順番に呼ばれ、試験を受けていった。


 最初は身体能力テスト。

 50メートル走、持久走、懸垂、反復横跳び……まるでスポーツ選抜のようだった。

 訓練用のマットの上では、バランス感覚を測るテストまである。

 小柄な子が次々と脱落していく中、律は軽やかにクリアしていった。


「へっ、余裕だな! 蒼も負けんなよ!」


 息を切らしながらも、律は笑っていた。

 ぼくは必死に走った。脚がもつれそうになっても、夢で見た“階段”を思い出すと、自然と足が前へ出た。


 次は知力テスト。

 机に置かれたのはパズル、記号の並び替え、暗号めいたクイズ。

 「古墳の謎解きに必要だから」と説明される。

 律は頭を抱えていたが、ぼくは意外と冷静に取り組めた。

 夢の中で見た模様が、問題に出てきた記号に似ていたからだ。


「霧島くん……すごいな」

 監督官が小さくつぶやいたのを、聞き逃さなかった。



 最後は精神力テスト。

 薄暗い部屋に入れられ、ヘッドフォンをつけられる。

 流れてきたのは雑音と奇妙な囁き声。

 「耐えられるかどうか」を見るらしい。

 ぼくは深呼吸を繰り返した。

 ――あの夢の声と比べれば、怖くなんかない。


 部屋を出ると、律が青ざめた顔で待っていた。

「オレ、途中でギブアップしちまった……。けど蒼、お前は行けそうだな」


 その言葉に胸がざわついた。

 本当に行けるのか。行っていいのか。

 けれど、心の奥ではもう答えが出ていた。



 その夜、家族会議になった。

 父さんと母さんの顔は険しい。

 母さんは泣きそうになりながら言った。


「危険すぎるわ。大人でも入れない場所に、子供を行かせるなんて」


 父さんは唇をかみしめて黙っていた。

 だけど、やがて静かに言った。


「蒼。お前は行きたいのか?」


 ぼくは迷わずうなずいた。

「……行くべきだと思う。あの声が、そう言ってるから」


 母さんは泣きながら顔を伏せた。

 父さんはしばらく沈黙したあと、重々しくうなずいた。


「分かった。だが絶対に、生きて帰ってこい」


 ぼくは強くうなずいた。

 耳の奥で、またあの声がささやく。


『よく来たね。君たちで』



 数日後、正式な合格発表。

 選ばれたのは全国で百人ほど。

 ぼくと律も、その中にいた。


 テレビで大々的に報じられる。

 《子供探索隊、結成》

 《古墳の謎を解くのは次世代の使命》


 ぼくらは、もう引き返せない場所に立っていた。

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