第3話 選抜試験
政府の発表から数日後。
日本中が古墳の話題で持ちきりになった。
テレビも新聞もネットも、ニュースはそればかり。
だけど一番ざわついていたのは、やっぱりぼくら子供たちだ。
「なあ蒼、見たか? 政府が“選抜試験”やるってよ!」
律がスマホを突き出してきた。画面には大きな見出し。
《12歳以下限定 古墳調査のための子供特別隊 編成開始》
記事によると――。
全国から希望者を募り、身体能力・知力・精神力の試験を行い、合格した子供だけが「古墳探索隊」として選ばれる。
もちろん、親の同意が必須。
訓練や安全対策も国が全面的に行う、と強調されていた。
「おいおい、マジで国が子供にやらせる気かよ……」
クラスのみんなもざわざわしている。
やる気満々で「絶対受ける!」と言うやつもいれば、震えながら「怖いから絶対やだ」と泣き出す子もいた。
ぼくは……。
心臓が高鳴っていた。
やめろ、と頭では思っても、胸の奥では“やらなきゃ”と声が響く。
◇
数日後、体育館に臨時の会場が設けられた。
机が並び、スーツ姿の大人たちがクリップボードを持って待ち構えている。
国から派遣された調査班らしい。
ぼくらは順番に呼ばれ、試験を受けていった。
最初は身体能力テスト。
50メートル走、持久走、懸垂、反復横跳び……まるでスポーツ選抜のようだった。
訓練用のマットの上では、バランス感覚を測るテストまである。
小柄な子が次々と脱落していく中、律は軽やかにクリアしていった。
「へっ、余裕だな! 蒼も負けんなよ!」
息を切らしながらも、律は笑っていた。
ぼくは必死に走った。脚がもつれそうになっても、夢で見た“階段”を思い出すと、自然と足が前へ出た。
次は知力テスト。
机に置かれたのはパズル、記号の並び替え、暗号めいたクイズ。
「古墳の謎解きに必要だから」と説明される。
律は頭を抱えていたが、ぼくは意外と冷静に取り組めた。
夢の中で見た模様が、問題に出てきた記号に似ていたからだ。
「霧島くん……すごいな」
監督官が小さくつぶやいたのを、聞き逃さなかった。
◇
最後は精神力テスト。
薄暗い部屋に入れられ、ヘッドフォンをつけられる。
流れてきたのは雑音と奇妙な囁き声。
「耐えられるかどうか」を見るらしい。
ぼくは深呼吸を繰り返した。
――あの夢の声と比べれば、怖くなんかない。
部屋を出ると、律が青ざめた顔で待っていた。
「オレ、途中でギブアップしちまった……。けど蒼、お前は行けそうだな」
その言葉に胸がざわついた。
本当に行けるのか。行っていいのか。
けれど、心の奥ではもう答えが出ていた。
◇
その夜、家族会議になった。
父さんと母さんの顔は険しい。
母さんは泣きそうになりながら言った。
「危険すぎるわ。大人でも入れない場所に、子供を行かせるなんて」
父さんは唇をかみしめて黙っていた。
だけど、やがて静かに言った。
「蒼。お前は行きたいのか?」
ぼくは迷わずうなずいた。
「……行くべきだと思う。あの声が、そう言ってるから」
母さんは泣きながら顔を伏せた。
父さんはしばらく沈黙したあと、重々しくうなずいた。
「分かった。だが絶対に、生きて帰ってこい」
ぼくは強くうなずいた。
耳の奥で、またあの声がささやく。
『よく来たね。君たちで』
◇
数日後、正式な合格発表。
選ばれたのは全国で百人ほど。
ぼくと律も、その中にいた。
テレビで大々的に報じられる。
《子供探索隊、結成》
《古墳の謎を解くのは次世代の使命》
ぼくらは、もう引き返せない場所に立っていた。