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第2話 子供しか入れない

その夜は、ほとんど眠れなかった。

 目を閉じるたび、あの黒い門と、夢で見た階段が浮かんでくる。

 そして、耳の奥に残っている声――。


『君たちで、来て』


 何度も何度も、その言葉が繰り返された。



 翌朝、学校に行くと、もう大騒ぎだった。

 昨日の出来事が全国ニュースで流れたせいで、全校集会まで開かれることになったのだ。


 体育館に集められた子供たちは、そわそわと落ち着きがない。

 先生たちも、どこか顔が強ばっていた。


「……みんなも知っていると思うが、昨日、穂坂円丘古墳で“入り口”が開いた」


 壇上に立った校長先生の声が響く。

 ざわめきがいっそう大きくなる。


「大人は入れない。子供しか、通れない。これは政府の正式な発表だ。決して近づいたり、勝手に入ろうとしたりしてはいけない」


 “政府の正式な発表”。

 その言葉を聞いて、ぼくの背筋にぞくりとしたものが走った。

 つまりもう、ただの怪談や噂じゃなくなったんだ。


 となりで律が、声を潜めて言った。


「な、蒼。やっぱりそうだろ。オレら、呼ばれてんだよ」


「……分かってる」


 頭では分かっていても、心臓は落ち着かない。

 自分がとんでもない場所に足を踏み入れようとしているのを、体が理解しているんだ。



 放課後。校門の外には、見慣れない黒塗りの車が停まっていた。

 スーツ姿の大人が二人、名札をぶら下げて立っている。

 「内閣府特別調査班」と書かれていた。


 彼らに呼び止められたのは、ぼくと律だけじゃなかった。

 夢を見たと噂されている子供たち、十人ほどが集められた。


「君たちは昨日の古墳の現場で、異常な反応を示した。恐れることはない。ただ、君たちにしかできないことがあるんだ」


 柔らかい声で言うけれど、その目は真剣そのものだった。

 そのまま市役所の会議室へと案内され、さらに別の大人たちが待っていた。白衣の学者、自衛隊の制服、そして役人。


「実験をさせてほしい。安全は確保している。君たちが本当に中に入れるのか、確認したい」


 ぼくらは、黙ってうなずいた。

 拒否なんてできる空気じゃなかった。

 けれど……本当はぼくだって、確かめたかった。



 再びやって来た古墳の前。

 昨日と同じ黒い門は、まだそこにあった。

 まるで地球の奥にぽっかり空いた穴のように、静かに口を開いている。


「まずは私が」


 一人の考古学者が名乗りを上げ、防護服に身を包んで門へ歩いていく。

 だがやはり、透明な壁に阻まれた。足が中に入らない。肩を押しつけてもダメだ。

 彼は悔しそうに首を振った。


「次は、こちらの子に」


 呼ばれたのは、研究者の息子だという十二歳の少年だった。

 ぼくらと同じくらいの年齢。白衣を着た父親に背中を押されて前に出る。


 少年は一歩、門へ。

 黒い面がゆらぎ、すんなりと体を受け入れた。

 足が闇に消える。二歩、三歩。問題なく進んでいく。


「……入った……!」


 その場の大人たちが一斉に息をのんだ。

 父親が震える声で呼びかける。


「どうだ、中は!? 何が見える!?」


 少年は振り返った。けれど、その表情は不思議なほど無表情だった。

 ゆっくり首を横に振る。


「……何も、ありません」


 そう言って戻ってきた。

 門から出ると、その顔は急に疲れ果てたように青ざめていた。

 父親が慌てて肩を支える。


 だけどぼくは気づいた。

 ――少年の目が、一瞬だけ“何か”を訴えていたことに。



 その日の夜。

 政府は正式に発表した。


《全国に存在する古墳には、同様の地下構造が確認された。調査の結果、十二歳以下の子供のみが内部に入れることが分かった》


 ニュースキャスターが真剣な顔で読み上げる。

 画面には日本地図が映り、赤い点がいくつも灯っていた。

 全国の古墳、そのほとんどが“門”を持っているというのだ。


 父さんは黙り込み、母さんはテレビに釘付けになっていた。

 ぼくの心臓は、また早鐘を打つ。


 耳の奥で、声がした。


『十二のうちに。君たちで』


 もう、逃げられない。

 これは――始まってしまったんだ。

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