4.さすまた
俺は笑って隣のテインスを見た。
テインスは、俺の顔をみて呆れたように長く息を吐き出していた。
「はぁ……お前、全部人任せにしてるだろう? 分かったよ、仕方ない。エランの面倒はオレが見る。大丈夫だ、ザルじい」
「テインスは口は悪いが賢い子だ。ワシも二人ならば安心して送り出せる。分かった。エランがそう言うのなら、このさすまたを持っていくといい」
「ザルじい、ありがとう! テインス、頼りにしているぞ」
テインスはしかめっ面のまま鼻を鳴らしてきたが、この表情は照れ隠しも混ざっている顔だ。
ザルじいが渡してくれたさすまたを握ると、何故かぽかぽかと温かい気持ちになってくる。
「そのさすまたは、昔、じいさんが若かった頃に美しい乙女を助けた礼にといただいたものだそうだ。酔った時に聞いた話で、真実かどうかは定かではないがな。じいさんは大事にしていたな」
「さすまたは武器としては微妙だよな。だが、エランが持っていくっていうならオレは止めない。止めても無駄だからな」
「大切なものを欲しいとねだってごめんな、ザルじい。でも、今の俺にはこれがいいんだ」
俺がさすまたを握りしめて笑いかけると、ザルじいも笑って頷いてくれる。
「エランが旅に出るというのに、何も持たせない訳にも行かないし別に構わん。十分準備していくのだぞ」
「分かった。俺にできることをやってくる! 必ずティルナ村に戻ってくるよ」
「気をつけてな。テインス、頼んだぞ」
「ああ」
俺はさすまたを右手に握り、左手で手を振りながらザルじいの家を出た。
横にいるテインスは、俺をちらちらと見ながら不服そうな顔をしている気がする。
「エラン、やりなおしの玉ももらっておいた方がいいんじゃないか? 前の時はやりなおしの玉をもらっていたから戻ってこれたって言うのに……なんでもらわないんだ?」
「確かに、俺はやりなおしの玉のおかげでこうして生きて戻ってこられた。だけど、今回はもらわなくても大丈夫。何かあってもテインスが助けてくれるだろう?」
「オレのことを過信しすぎだ。オレは神様でもなんでもない」
テインスは文句も多いから誤解されやすいが、単純に心配してくれているだけだ。
俺やティルナ村のみんなも、テインスの優しさは分かっている。
「テインスは神様じゃないかもしれないけど、俺の相棒だろう? 俺のことをいつも助けてくれる大切な相棒だ」
「それは、お前が何も考えずに突っ走るからだ。村の子どもが高熱を出したとき、危険な森の奥まで行って薬草を取りにいって帰ってこないと思ったら……足を滑らせてお前が崖下に落ちてけがをしたこともあった。それはオレがエランを見つけられたから何とかなったが、運が良いことが続くとは限らない」
「分かってる。でも、二度目の人生は前とは変わる気がするんだ」
「それも勘か? 全く、お前は勘を頼りにしすぎた。直感ってやつをな」
テインスの言っていることは正しい。
今度もし同じように命の危機があったとしても、やりなおしの玉がなければ人生をやりなおすことはできないからだろう。
でも、俺はもうやりなおしをせずに前へ進みたい。
これから起こってしまったことは、受け入れたい。そう思っていた。
「言っておくが、オレはエランと違ってお人好しじゃない。万が一のことがあれば、お前の意見なんて無視だ。ザルじいからやりなおしの玉をもらって、やりなおしさせるからな」
「そうだな。その時は……テインスに任せる。テインスがやりなおしをしたい時は、俺は判断できないときだろうし」
「全く、軽々しく言ってくれるもんだ。人の気も知らないで」
テインスの肩をポンっと叩くと、思いきりにらまれる。
でも、俺もテインスに何かあったら……やりなおしをしたいと願うだろうな。
俺たちは旅支度を整えるために、一旦別れた。
さすまたを持っていると村の子どもたちに囲まれてしまったが、大人たちが気遣って子どもたちを引きはがしてくれた。
彼らにも、話をしないといけない。
旅立ちの支度ができたら、みんなにあいさつをしに行かないとな。




