3.旅立ち
俺は村の長老であるザルメ・フォンテールこと、ザルじいに今まで俺の身に起こったことを伝えに行くことにした。
ただし、俺がザルじいにもらったやりなおしの玉のおかげで戻れたことは伏せておくつもりだ。
俺のことで無駄な心配をかけたくないし、俺のことを知っていてくれるのはテインスだけで十分だと考えたからだ。
ザルじいは村をまとめている長老で、気のいいじいさんだ。
俺とテインスを拾ってこの村においてくれた恩人だし、性格も温厚で村のまとめ役に相応しい人物だ。
だからこそ、このティルナ村はずっと外敵から守られてきた。
「ザルじい、いるか?」
「ん? エランか。どうした、こんな陽の高い時間から。いつもなら畑仕事をしている時間だろう?」
ザルじいはちょうど家の中にいた。何か帳簿らしきものを付けていたみたいだ。
俺とテインスに気づくと、顔をあげてくれる。
俺はザルじいに近づいて、話し始めた。そして、勇者として選ばれたことと神の啓示を聞いたことだけ伝える。
「なんと……エランが神の啓示を受けただと? 神の啓示を受けたものはバルセリオン城へ行き、王に出立を認めてもらうと聞いているが……」
「そのことなんだが、俺はバルセリオン城へは行かない。俺程度の者が行っても王に認められる自信がなくてさ。ただ……俺に少しでも力があるのなら。この村のみんなを守りたい。世界を救う手助けをしたいと思ってる」
「ふむ……エランにしては何やら考えがあるようだ。なれば、ワシも無理強いはせん。お前の好きなようにやってみなさい」
「ありがとう、ザルじい」
俺が笑うと、ザルじいも仕方ないヤツだと言って笑ってくれる。
この心の広さも、ザルじいのいいところだ。
「ザルじい、オレもエランと一緒に行く。コイツだけじゃ心配だ」
「そうか、お前たちは昔から仲も良かった。テインス、お前ならばエランを手助けできるだろう。村の若者を二人旅立たせるのは寂しいものだが……いつまでも小さな村の中だけに留まる必要もない」
「ザルじい……俺、世界を見てくる。そして、俺が選ばれたことに何の意味があるのか調べてみたいんだ」
魔王の言葉の意味。魔王の真意が何かを知りたい。
一度目は分からなくても、二度目なら……テインスと一緒なら分かるかもしれない。
魔王は本当に人間に害を及ぼしていたのか? 一度目の旅では言われるがままに魔物を倒していたから気づかなかった。
だから、今度はそれも含めてしっかりと世界を見て回りたい。
「村の皆にはあいさつはしていくんだぞ。それと……旅立つ前にお守り代わりになりそうな物でも……」
そうだ、お守り代わりだといってやりなおしの玉をくれたんだ。
そんなすごい宝物があったことにも今では驚いているし、そのおかげで俺はこの場にいる訳だが……。
今回はもらう訳にはいかない。あの玉があれば万が一のことがあったとしても、この村は助かるはずだ。
「ザルじい、そんな大切な物は受け取れないよ。だけど、もし俺に何かくれると言うのなら。そこに飾ってあるさすまたを譲ってくれないか?」
俺は昔からこの村にずっと置いてあるさすまたを指さした。
壁にかかっているさすまたは、襲ってきたものを倒すのではなく先の曲がった部分で身体を押さえるものだと聞いていた。
前回は武器で斬ることしか考えていなかったが、今回はなるべく誰も傷つけたくない。
魔物も……本当に害を及ぼすものがいたならば倒すべきかもしれないが……戦っていたはずの俺の記憶はあいまいだ。
剣と鎧を身に着けてからは、目の前の敵を倒すことしか考えていなかった気がする。
「何? さすまただと? あれは武器ではないぞ」
「分かってる。でも、俺は誰かを傷つけたい訳じゃない。守りたいんだ。だから、それでいい」
「はあ? あのなぁ……オレらを襲ってくるのは魔物だけじゃない。獣が出たらどうするつもりだ?」
テインスは俺を見ながら文句を言うが、今回の俺にはテインスがいる。
テインスなら……どうすればいいのか見極めてくれるはずだ。




