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1.ティルナ村

 遠くから小鳥の声が聞こえる。

 柔らかな朝日が窓から差し込み、俺に朝であることを教えてくれる。

 これは夢なのだろうか? 俺は魔王に負けて死んでしまった。

 だから、天国……?


「にいちゃ! まだ寝てるの? ねぼすけさんだぁ!」

「ねぼすけー!」


 のしっと俺の身体に乗っかってきた感触がある。

 ゆっくりと目を開けると、見知った顔の子どもが笑いながら俺の身体の上ではしゃいでいた。


「え……? なんで天国にお前たちがいるんだ?」

「エランにいちゃ、ねぼけてるー!」

「もう、朝だよ! 今日も畑行くんでしょ?」


 どういうことだ? 幻なのか、それとも……?

 俺はゆっくりと身体を起こしながら、子どもたちの頭を撫でてみた。

 しっかりと触れている感覚もある。


「もしかして……やりなおしの玉のおかげか?」

「なにそれ? にいちゃまだねぼけてる!」


 子どもたちにぺちぺちと顔を叩かれる。生きている嬉しさがあふれだし、二人をぎゅっと抱きしめた。


「く、くるしいよー」

「にいちゃ、どうしたの?」

「ああ、うん。なんでもないんだ。支度するから、どいてくれな」


 俺が笑うと、子どもたちは元気にはーいと返事をしながら部屋から出て行った。

 まだ信じられないが、俺の記憶は確かに魔王に負けてやられてしまったところで終わっている。

 だから、最後の願いが通じたのだろう。


「ということは、今日はもしかして……啓示を受ける日なのか?」


 確か神から啓示を受けた時も、晴れた日に畑仕事をしていた時だった。

 やりなおしの玉は俺が旅立つ前まで戻してくれたのかもしれない。

 俺に勇者の資格があるかどうかは分からないが、どちらでもいい。


「やりなおせるのなら、それでいいんだ」


 俺はベッドから降りると、服を着替えてくわを背負う。

 勇者でなくても構わない。俺は大切な人を守れるのなら、それでいい。

 確かに俺は畑仕事のおかげで力もついたし、村の中では一番身体が大きい。

 元々捨て子だった俺を、村の人たちみんなで大切に育ててくれた。

 俺はその恩返しがしたくて、必死に畑仕事を手伝った。

 その結果、今では身長も伸びて畑仕事も楽にできるようになった。


「だから、力だけはある。ただ……それだけだった」


 俺は勇者に選ばれたとき、嬉しくなって初心を忘れてしまったのだろう。

 この世界を平和にしたいと思ったけど、一番は……この村のみんなの平和を守りたかったんだ。


「そうだ。俺は守りたかったんだ。なのに……いつの間にか目的を見失った」


 魔王の言っていた通りだった。伝説の剣と勇者の鎧をもらって、強くなったつもりでいた。

 確かにあの武器と防具は素晴らしいものなのだろう。

 俺がどんなに乱暴に扱っても、最後の最後まで壊れなかったのだから。

 だけど、それは俺の力じゃない。武器と防具の力だったんだ。


「バカだな。俺はただ人より少し力があるだけの平凡な人間なんだ」

「今更、何を。お前は頭より身体が先に動くヤツだろ」


 畑を区切る杭の上に座っている、幼なじみのテインス・ロフテアが無表情で俺を見つめていた。

 コイツは冷たく見えるが、心根はいいヤツだし常に先のことを考えているヤツだ。

 俺と同じくコイツも捨て子で、同じくらいの時期に村の近くに捨てられていたらしい。

 

 テインスはいつも左目を薄紫の前髪で隠している。オッドアイという左右ちがう瞳の色で、耳も少し尖っている。

 村の人たちが言うには、ダークエルフと人間のハーフじゃないかと言うのだが村の人は種族に対して偏見もない。

 だが、テインスだけが瞳の色が違うことを気にして右目のアッシュグレイの瞳だけを出していた。


「相変わらずテインスはズバっというよな」

「お前こそ、マホガニーのツンツン頭とそのくりっとしたオークルの目で小難しそうな顔をされてもな。見た目からどう見ても悩みがなさそうだろうが」

「テインス、それは言い過ぎ……でもないか」


 俺がハハハと笑ってごまかすと、テインスは眉を潜める。

 俺の様子が普段と違うことに気付かれてしまったらしい。

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