0.絶望の勇者
※ブロマンス要素を含むお話になる予定です。気になる方はご注意くださいませ。
(バディに近い関係性なので、恋愛は含みません)
俺は勇者だ。神に選ばれし勇者のはずだ。
王から伝説の剣と勇者の鎧を賜り、今までどこに向かっても敵なしだったじゃないか。
なのに……どうして! どうして、魔王に剣が届かない……?
「フン。勇者とは名ばかり。力押しで私に勝てるとでも?」
「うるさい! 俺は強いんだ! お前程度、俺の力があれば……」
先ほどから繰り出している攻撃は全て魔王に防がれている。
魔王は手に武器も何も持っていないというのに……見えない壁のようなものに阻まれて刃が通らない。
何度剣を振るっても、致命傷を与えるどころかかすり傷すらつけることができない。
だが、俺には強い信念がある。今まで救ってきた人たちは俺を褒めたたえてくれたじゃないか。
あなたは勇者です。間違いなく強い勇者です、と。世界を救うのはあなたしかいないと言われたんだ。
「お前は何か勘違いをしている。お前のその力は武器に頼っただけの児戯だ。全く……話にならない」
「俺は、俺は……っ!」
俺は高く飛び上がると、天高く剣を振り上げて必殺の一撃を繰り出した。これで倒れなかった魔物はいない。
これなら、魔王にも決定打を与えられるはずだ。
「……愚かな」
魔王の嘲笑なんて無視すればいい。
一人で何も問題なかった。今まで剣を振るって人々を救ってきた。それこそ、勇者の証に他ならない。
だから、俺が魔王を……。
だが、その必殺の刃は届くことなく……伝説の剣は、バキンッという音と共に折れた。
「なっ……」
「若造よ、思いあがるな。勇者とは賢い者だと思っていたが……これでは暇つぶしにもならない。私の真意も知らぬ者に……」
強いはずの剣が折れた時、俺の心もポキリと折れた。
冷や汗が吹き出し、身体が震えだす。
すぐに絶望感が全身を襲ってきて、ガクンと両膝をついてしまった。
魔王はそんな俺を見下ろし、そして……俺の胸に手をかざすと、魔法で生み出した氷の刃で俺の胸を貫いた。
「カハッ……」
「さらばだ。今度生まれ変わることがあるのならば、もっとマシな生き物になるのだな」
心臓を一撃で貫かれてしまった。血は口からあふれ出てすぐに呼吸ができなくなってくる。
魔王が俺に背を向けて去っていく。その姿を見ながら身体はぐしゃりと床へ落ちた。
「は……はは……」
俺はどこで間違えてしまったのだろう?
遠のいていく意識の中、今までの出来事が頭の中を駆け巡る。
最後に写ったのは、俺が生まれ育った村のティルナ村だった。
俺は絶望感と無力感に苛まれ、むなしく死んでいくのだと理解する。
諦めて死を受け入れようとしたその時、コロコロと透明の玉が俺の顔の側に転がってきた。
この玉は……そうだ。俺が旅立つ時にもらった、やりなおしの玉だ。
やりなおし……もし、やりなおすことができるのなら――
「俺は……今度こそ、世界を平和に……」
震える指先を伸ばして、やりなおしの玉に触れる。この玉の効果は分からないが、自分の過ちを恥じてどうか道を間違える前に戻して欲しいと願う。
玉がキラリと輝いた気はしたが、俺の意識は闇に飲まれていった。