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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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敦美VS三平 ジャンクデッキ


 心外だ。せっかく、空前絶後の料理スキルを披露し、美酒佳肴を堪能させてやろうと思ったのに。わたしを存外に扱ったことを後悔するといい。

 ぶつくさ文句を呟きつつ、わたしはリビングへとんぼ返りする。そこでは、暇を持て余した三平がテレビを見ながら、足をプラプラさせていた。


「お、敦美じゃん」

「訂正。年上だから、お姉さんぐらいつける」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

 このイガグリ頭は。だが、ここで怒っては大人げない。わたしは大人な女性なのだ。なので、穏便に済ませよう。


「提案。昼ご飯までまだ時間がある。それまで遊ぼう」

「本当! じゃあ、デュエバやろうぜ」

 パァと目を輝かせる。それは、こちらとしても願ってもない提案だ。こういうこともあるのではないかと思い、自前のデッキを用意していたのだ。


「あ、それ、アニメのやつ」

 わたしがデッキケースを取り出すと、三平は目ざとく指摘した。これは、アニメ第二期、世界トーナメント編で主人公たちが使っていたものと同様のもの。通販限定で割とレアだったりする。

「確認。もしかして、アニメも見ていたりするか」

「うん! トーナメント編でしょ。あれ、面白いよな!」

 おお、なかなか見どころがある。

「それ持ってるってことは、姉ちゃんデュエバ強いの?」

「無論。なんなら、カードを見るか」

 即答したのは、最近楯並くんに勝って、調子に乗っているからだ。それはさておき、自慢のコレクションを見たいと言うなら、期待に応えねばならぬ。


 自慢のカードファイルを広げると、三平は食い入るように前かがみになってきた。

「すげー! レアカードがいっぱい。姉ちゃん、アークバトラーじゃないよね」

「無論。他人のカードを奪ったりはしない」

 強奪したレアカードを見せびらかす嫌な敵がアニメに登場していた。アークバトラー屈指の小物として定評がある。


 しばし、カードを閲覧していた三平だったが、思い出したかのように「バトルだ、バトル」と騒ぎだした。まったく、せわしない奴だ。苦笑しつつも、わたしもデッキを出して応じる。せっかく戦うのだ。小学生相手に大人げないとは思うが、フォーチュラーのデッキで挑もう。


「手番、デブリ・ロッカーを召喚。託宣能力発動。偶数カードなので、攻撃力と体力を200上昇させる」

「ええ、いきなり、それ」

 三平は不平を訴えるが、勝負は非情なのだ。2ターン目に攻撃力と体力が共に300のサーバントは、そう簡単に除去できまい。


「じゃあ、俊足コヨーテ召喚。直接攻撃」

「瞠目。クラス:ビーストか」

 速攻能力を持つ、2コストのサーバント。友美がたまに使っているカードだ。速攻デッキはやや分が悪いが問題は無い。


「除去。魔法カードショック。コヨーテを破壊。そして、デブリ・ロッカーで攻撃」

「じゃあ、鉄壁男爵クロード召喚」

「驚愕。ウォーリア、だと」

 唯が欲しがっていたけど、レアリティが高くてデッキに入っていないカードだ。あのクラスなら3枚フル投入してもおかしくないぐらいの優秀な一枚。デコイ持ちで、場に出た時にカードを1枚引ける。


 その後もバトルは続くが、相手のデッキには大いなる違和感があった。なんというか、使うクラスがてんでバラバラなのだ。レジェンダリーの高コストサーバントが出てきたと思ったら、アンデットの除去能力を持ったサーバントが出てきたり。


 戦う中で、一つの可能性に思い至った。

(もしかして、相手が使っているのはジャンクデッキ)

 デュエバの本当の初心者が組みがちなデッキだ。このゲームは一つのクラスに絞ってデッキを組むのが定石。ランク2以上のサーバントを出しやすくなるし、そもそも、そのように編成するのを前提にカードの能力が調整されている。


 それをガン無視して、とにかく強そうなカードをクラス関係なしに突っ込んだのがジャンクデッキである。ランク2以上のサーバントなんて滅多に召喚できず、デッキとしても何をやりたいのか分からない。まさにジャンク(ゴミ)なデッキなのである。


 私もネタ半分で組んだことはある。けれども、三平の場合は本気で挑んでいるようだ。こうなる原因は二つ。ゲームのイロハをまるで分かっていない。あるいは、1つのクラスで統一できるほどカードを持っていない。


 彼の場合は、おそらく後者だろう。わたしが繰り出した大型サーバントの処理に四苦八苦している様を前に、憐憫すら覚える。

 そして、終局。エマージェンシーカードの「フュージョニック・サイン」を発動。右京と左京をフュージョンし、「永劫の巫女朱雅玖シュジャーク」を召喚。当然のことながら除去を受け付けず、そのまま「巫女の術式・豪傑不遜」のバフで勝利した。


「くっそー、負けた。姉ちゃん、強すぎだろ」

 三平は文句たらたらだ。威張ろうかとも思ったが、相手のデッキがデッキだっただけに、苦虫を嚙み潰したような表情になってしまった。なんだろう、全力でスライムを倒してしまったような。そう言うとスライムというか三平に失礼だが。


 ぶつくさ言いながらも、三平はデッキを広げている。どうやらカスタマイズするつもりらしい。その様をのぞき見していて、ふと目に留まったカードがあった。

「着目。暴竜ドラグンを入れているのか」

「そうだよ。こいつ、お気に入りなんだ」

 ゲーム後半に、何ら効果を持たないバニラカードを出す。よほどの有利盤面でないと、そんな暇はない。よって、さっきのバトルでも手札で腐らせていたかもしれない。


 そこで、ふと天啓が舞い降りた。クラス統一デッキを組むのは難しい。だとしても、十二分に戦う方法は存在する。

「質問。ドラグンのように、能力を持たないサーバントカードは持っているか?」

「コボルトみたいなの? それならいっぱいあるぞ。パック剥いてると、勝手に溜まるし」

 それもそうだ。いわゆるバニラカードは単独では実力不足。よって、最低レアのコモンのカードがほとんどだ。


「提議。そんなカードをありったけデッキに入れてほしい」

「ええ。そんなの、絶対に弱いじゃん」

「無論。でも、問題ない。餞別でこのカードを譲ってやる」

 不平をぶつけてきたが、わたしがとあるカードを提示した途端、態度を一変させる。確か、漫画版のデュエバで使っていたキャラがいたから、その回を知っていれば効果は把握しているはずだ。


「すげー。これ、レアカードじゃん。もらっていいの」

「許諾。デュエバの仲間を増やせるなら安い投資」

 わたしが渡した数枚のカード。それを軸にすれば、最低限、同じ土俵に上がれるレベルのデッキはできるだろう。


 ほぼ一からデッキを組み直していたためか、予想以上に時間がかかってしまった。

「敦美、ご飯できたわよ」

「驚愕。もう、そんな時間か」

「じっくりと煮込んでいたけど、逆にそんな時間まで何やってたの」

「最強のデッキを組んでいたんだ」

 三平が得意げに主張する。が、直後に漂うポトフの香りに食い気を発動したようだ。「飯だ、飯だ」と大騒ぎする。


「それで、最強デッキなんて眉唾ものだけど、本当にそんなのができたの」

 ポトフを配膳し終わった唯が訝しそうに尋ねてくる。わたしは胸を張って応えた。

「教授。カードゲームは入れるカード一枚で大きく変貌するもの。たった一種類のカードが加わることで環境最強デッキになった例は枚挙にいとまがない」

「昔の戦に鉄砲を持ち込むようなもの?」

「合意。そう考えて差し支えない」

 歴史物語において、鉄砲の存在は戦局を一変させるキーになる。わたしが渡したカードもそうなっているはずだ。


「ねえねえ、飯の後にバトルしようぜ! 早く、新しいデッキを試したいんだ」

「分かったから、黙って食べなさい」

 落ち着かない三平を双葉が窘める。そんな様はまさに姉弟。唯も同じことを考えていたのか、ほっこりしていた。

カード紹介

鉄壁男爵クロード

クラス:ウォーリアー ランク1 コスト3

攻撃力200 体力300

デコイ

場に出た時、カードを1枚引く。

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