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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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少子高齢化に歯止めが効かない理由


「質問。どうしてこうなった」

「こうなることを想定して協力してくれたんじゃないの?」

「埒外。ここまで忙しいとは思わなかった」

 私は敦美と共に悲鳴をあげていた。個人宅の中で。


 遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえる。

「敦美。こっちは手が離せないから、善詩乃ちゃんのこと見てくれる」

「了解。と、いいたいところだが、無理」

「ねえねえ、姉ちゃん。この問題はどうやんの」

「解説。分数同士の足し算は」

「各務さん。私が見るから、善詩乃のこと見てあげてください」

「感謝。任せる」

 三平の宿題は次女の双葉が引き継ぎ、敦美は大泣きしている善詩乃の元へ駆けつける。


 私は私とて、悠長に観察している暇はない。さっきから掃除機をかけているのだが、一向に終わらないのだ。一軒家を隅から隅まで掃除するって、意外と重労働なのね。

 それに、まだまだやることは残っている。水回りの掃除もだし、もうすぐ洗濯が完了するから、それを干さないといけない。そんなことをやっている間に昼になるだろう。

「ああ、料理もしないと、か」

 母親は毎日、こんなことをこなしているのだろうか。まさか、少子高齢化の原因はコレではないでしょうね。


「質問。唯、おっぱいは出ないか」

「この忙しい時にふざけてるんじゃないわよ」

 敦美がとんちんかんなことを聞いてくる。中学生が授乳できるわけないでしょ。


「真面目。善詩乃が泣き止まない。おそらく、お腹が空いている」

「アレじゃないの、アレ」

「明確。アレでは分からない。はっきり言う」

「うんちよ、うんち!」

「驚愕。唯が下ネタ言うとは思わなかった」

 私だって、言いたくて言ったわけじゃないわよ。その後、敦美は恐る恐るオムツを確認し、ほっと胸をなでおろしていたという。そして、双葉が哺乳瓶の助け舟を出したところで、どうにか騒乱は収まった。


 キムっちこと和菜の家の手伝いを申し出たものの、午前中で既に疲労困憊していた。正直、エマージェンシーカードを使いたいぐらいだわ。エルダは来てくれないかしら。

 ただ、ここで根を上げるわけにはいかない。和菜が安心して遊びに出かけられる。その証明をするためには、彼女無しで家事を完璧にこなさないといけないのだ。


 テレビからやたらと軽快な音楽が流れてくる。正午に放送開始するバラエティー番組のテーマソングだったはずだ。もう、そんな時間。浦島太郎になった気分だわ。


「なあ、お腹空いた」

 三平が呑気に訴える。私だって減っていると反論したかったが、昼ご飯を用意するのも仕事の内だ。幸いにして、三平の相手が一段落したのか、敦美が合流してくる。


「提議。唯は料理ができるのか」

「バカにしないで。家庭科の成績には自信あるわよ。そういう敦美はどうなのよ」

「黙秘」

 目が泳いでいるわよ。これは、孤立無援と考えた方がいいわね。


 ため息交じりの態度を察したのか、敦美が率先して冷蔵庫を開ける。この子、むきになってないかしら。血眼で中身を探っているけど。

「カレー粉があるわね」

「拒否。それはやめる」

「いいじゃない、カレー。比較的簡単にできるわよ」

「拒否。断固、拒否」

 どうして、カレーを嫌がるのかしら。あの料理が嫌いな人なんて珍しいけど。


 だが、数秒後になんとなく理由が察せられた。敦美が無言でオムツを指差していたのだ。気持ちは分からないでもないけど、食事前にそんなものを想起させないでもらえるかしら。


「ならば、ポトフはどうかしら。カレーと似た材料でできるはずよ」

 ちょうど、コンソメの素も常備してあった。他の具材も大丈夫そうだ。


「質疑。ポトフとは。あ、ありのまま、今起こったことを話すぜの人じゃないのか」

「むしろ、その人の方が知らないわよ」

「驚愕。ポルナ〇フをご存じない」

 むしろ、ポトフを知らない方が驚愕よ。あれって、初心者向けの料理で挙げられるはずなのに。


「簡単に言えば、フランスの家庭料理の一種で野菜スープね。そんなに難しくないから、レシピ通り作れば間違いないはずよ」

「了解。ならば、いってみよう、やってみよう」

 教育番組だけど、全く別の内容のものじゃなかったかしら。それを言うなら、ひとりでできるもんでしょ。


「じゃあ、まずは野菜を切ろうかしら」

 ザック。そう言った矢先、仰々しい音が響いた。


 恐る恐る、隣に視線を移す。すると、敦美が山姥顔負けの勢いでじゃがいもを一刀両断にしていた。

「あの、敦美」

「切断。野菜を切ればいいのだろ」

「そうだけど。いや、そうじゃなく、明らかに危ないわよ」

「切断。切れているだろ」

 乱雑に、だけど。


「学校で習わなかった? 包丁を使う時はにゃんこの手って」

「想起。そんなことを言っていた気がする」

 少なくとも、妖怪がニワトリを仕留める時の切り方を学校で教えるわけはないわ。


 彼女に包丁を握らせると、怪我をして余計な手間を増やす。そう判断し、敦美には下ごしらえをお願いした。気を取り直して、玉ねぎの皮をむく。だが、敦美が手にしていた物に、私は瞠目する。

「あなた、何を入れようとしているの」

「無論、バヤリース。この世で至高の飲み物。スープを作るのなら、入れて間違いはない」

「間違いしかないわよ!」

 野菜スープにオレンジジュースを混入させて美味しくなるわけないでしょ!


「申請。肉と野菜だけでは栄養が足りない。これも混ぜる」

「牛乳って、闇鍋やってるんじゃないわよ!」

「欲望。早く背が高くなりたい。だから、牛乳は必須」

 身内では敦美が一番身長が低かったはずだけど、牛乳を飲めばすべて解決するなんて思わないでよ。


 その後も、ガスコンロの火力を増そうと新聞紙を突っ込もうとしたりとか、塩をタッパーごと入れようとしたりとか、とにかく、てんやわんやだった。

 とりあえず、一つだけ分かったことがある。敦美に包丁を握らせてはならない。もし、彼女に一任させていたら、ジャ〇アンも白目をむくレベルのゲテモノができていただろう。


「敦美。あなたは手伝わなくていいわ。代わりに、三平の相手をしていなさい」

「不満。せっかく、やる気になっていたのに」

「いいから。そっちの方が私としては助かるわ」

 不満たらたらの敦美だったが、三平が「暇だぞー」と騒いでいたのが功を弄した。それに誘われるがまま、敦美は台所から離脱した。


「唯お姉さん。大丈夫?」

「双葉ちゃんか。あとは煮込むだけだから、変なことしなければ、失敗しないと思う。あ、そうだ。洗濯物も干しておかないと」

「わたし、やろうか」

「いいの!?」

「それくらい、よく手伝ってる」

 双葉は腕まくりをして主張する。なんだろう。暴風が去った後だからか、ちょっと目元がうるんだ。


「双葉ちゃん、こんどうちに来ない?」

「どうして?」

「ああ、いや、気の迷いだから。忘れて」

 双葉は小首をかしげて、トテテとベランダへと駆けていく。その後ろ姿を眺めつつ、和菜が羨ましくなるのだった。

カード紹介

語り部翁

クラス:ワンダラー ランク1 コスト2

攻撃力100 体力100

このカードが場に出た時、山札から3枚を公開する。その中にある魔法カード1枚を手札に加え、残りを墓地に置く。

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