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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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友美と和菜の職業体験


「どうしてこうなった」

 友美から「三平へのプレゼントを手に入れる素敵な方法がある」と提案され、最初はいぶかしんだ。弟のプレゼントはどうにか入手したいと思っていたわ。あの子にはいつも苦労かけているし、せめて誕生日ぐらいは喜んでもらいたいもの。


 でも、意味ありげに「いい話があるのですよ」と迫ってくるのだ。逆に怪しいと疑うのが普通でしょ。それでも、しつこく友美は勧誘してくるものだから、なし崩しに了承したのだ。


 その結果が、エプロンを着てカウンターで直立する私だった。


 まったくもって、意味が分からない。いや、個人商店というのは理解しているわ。このお店、商店街に買い物に行った時に、幾度か見かけたことがあるもの。

 でも、売っているものが特殊すぎた。文房具に駄菓子はまだ理解できる。でも、ゲームのカードにゲームセンターの景品のフィギュアって、本当にどういうお店なのよ。


「ほら、キムっち。ボサっとしてないで、カードを並べに行くよ」

「あのさ、友美。これが本当に誕生日プレゼントを手に入れる方法なの?」

「そうそう。労働の対価で好きなものを得る。社会の基本ね」

 ショートカットのサバサバしたお姉さんが、こともなげに重そうなダンボール箱を運んでいる。テキパキとした所作に、私はただただ圧倒されるばかりだ。


 友美の話だと、ここは高野商店というカードショップらしい。たまに、彼女との会話で聞くお店ね。小鳥遊さんと一緒に行っていたはず。

 どうやら、一日このお店の手伝いをしたら、お礼にカードのデッキをもらえるという。

「日給換算だと最低賃金下回ってるけど、建前上は職場体験だから問題ないでしょ」

「そういうものですかね」

 しゃべりつつも、芽衣というお姉さんは、レアっぽいカードをケースに並べていく。私は、傍のテーブルでレアとそうでないカードの仕分けをしていた。


 友美曰く、「枠がキラキラしてるのがレアカード」らしい。コモンとかアンコモンとかとは一瞥で分かるので、そこまで難しい作業ではない。

 ただ、興味のないカードをひたすら捌いていくのだ。自分が機械仕掛けになったかのようで意識が薄れていく。


「あー、このカード入荷してるんだ。あたしが欲しいよ」

「なら、キープしておこうか?」

「うーん、でも、予算オーバーなんだよな。一万超えるでしょ、これ」

「一万!?」

 おおよそ、ゲームのカードとは思えない値段が飛び出してきたものだから叫びをあげてしまった。何十日分の食費よ、それ。


「その反応、ここに来たばかりの唯ちゃんを思い出して懐かしいわ」

「唯ちゃんも、最近は驚かなくなったもんね。へー、ドルギルスが2万ね、とか言ってたし」

「2万って。桁がおかしいんじゃないの?」

「初期の頃の壊れカードだから、そのくらいの値段でもおかしくないよ」

「割と人気なのに、再録されないから、値段が青天井になってるのよね。ドルギルス入りのアンデット、使ってみたかったわ」

「だから、デュエバのスマホゲームやってた時に、ドルギルスアンデット使ってきたのか」

「ス、スマホゲーム?」

 ダメだ、全然ついていけない。こんな紙切れに、本当に数万の価値があるのかしら。


 休日だけど、大会のようなイベントも無いということで、来客はまばらだ。作業の合間に芽衣さんが接客をこなしているけど、それで十分に間に合っている。初対面の時はちゃらんぽらんな印象を受けたけど、滞りなく業務を進める姿は格好いい。


「ほらほら、手が止まってるよ」

 私としたことが、うっかりホケーとしていたみたい。

「友美。あの、芽衣というお姉さん、カッコよくない?」

「芽衣姉ちゃんがカッコいい? うーん、どうだろ。どっちかというと、おもしれーじゃない?」

「そう? スタイルもいいし、これぞスレンダーって感じじゃない」

 出てるところは出てるし、何を食べたらそうなるのか。参考まで聞いてみたい。ただ、友美は、「芽衣姉ちゃんがカッコいい、ね」と意外そうな表情をしていた。


 午前中の業務は滞りなく終わり、昼休憩に入る。

「ほい、おつかれ。私のおごりだよ」

 どさりと置かれたのは定食屋の弁当だった。これ、自転車でも数十分はかかる距離で売っているやつよね。一体、いつ買ったのかしら。


「普段はやらないけど、せっかく友ちゃんたちが手伝ってくれるもんね。久しぶりにウ〇バー頼んじゃった」

 合点がいった。そういえば、さっきヘルメットを被ったお兄さんが来ていたわ。


 焼肉弁当という、部活動の後でも重たい代物が鎮座している。こんなに食べきれるかしら。双葉たちへのお土産に持って帰りたいぐらいだわ。

 圧倒されていると、私の前に白色のジュースが置かれた。目を白黒させていると、芽衣さんがウィンクする。

「飲み物も必要でしょ。飲みなよ、カルピスソーダ」

「ありがとうございます。でも」

「どうして、カルピスソーダかって。なんとなく」

「芽衣姉ちゃんはジュースソムリエでね。たいていの人の好みは見破られるのだよ」

 自慢げに言いながら、友美はコーラを嚥下する。眉唾ものだけど、カルピスソーダは好きなので、あながち間違っていないのかもしれない。


 予想通り、焼肉弁当は重すぎた。残り四分の一というところで口を押えていると、既に容器を空にした芽衣さんが手を差し伸べた。

「さすがに多すぎたかな。無理して食べないでいいよ、私がもらうから」

「いえ。おごってもらったのに、残すわけにはいきません」

 箸を握ろうとすると、「チチチ」と指を振られた。

「変なところで意地を張らないでいいって。それでリバースされた方が迷惑だからさ」

「でも」

「キムっち、お言葉には甘えておくべきだぞ」

 同じく弁当を空にしている友美が言う。私より体格小さいくせに、どこにそんなのが入るのよ。


「友ちゃんは昔からよく食べるよね」

「別名、ピンクの悪魔だかんね。ラ〇キーの進化系じゃないぞ」

「はいはい、敵をおやつにして食べちゃうやつでしょ」

「そっちでも無いってば!」

 芽衣さんと気兼ねなく言い合っている姿に、胸がチクりとしたのは何故だろうか。結局、食べきれなかった弁当は二人に仲良く片付けてもらった。


 午後も滞りなく、同じような作業を繰り返す。基本的に単調作業の繰り返しだから、あくびを誘発してしまう。いや、ダメよ。職場体験とはいえ、誕生日プレゼントのためですもの。頬を叩いて気を引き締める。

カード紹介

アトランティック・リヴァイアサン

クラス:オーシャン ランク1 コスト9

攻撃力500 体力500

このカードが場に出た時、相手プレイヤーにXダメージを与えるか、体力X以下の相手サーバントを1体破壊する。Xは自分の手札の枚数×100である。

プラスパワー12:この効果を発動する前に山札からカードを6枚引く。

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