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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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敦美を勧誘しよう

 作戦は大方固まったけど、私は携帯と睨めっこして硬直する羽目になってしまった。

「ぜんざいは急げって言うし、かけてみなよ」

 友美はそんなことを言って促す。ぜんざいじゃなくて善よ。かけてみなが、あんこをかけるとか、そういう意味になってるわ。


 おそらく、敦美は学校を終えて帰宅している頃だろう。電話するなら絶妙なタイミングだ。そもそも、知らない番号からの着信に応じるかしら。そんな不安もあったが、友美は「大丈夫」とやけに太鼓判を押して来る。


 気が進まないが、私は教えられた番号をプッシュする。トゥルルルという通話待機音が鳴るたび、口の中が乾いていく。どうにか唾液で保湿を促す。そして、一分近く経とうかとした時に、待機音が半端なタイミングで途切れた。

「もしもし」

 電話越しに聞こえるくぐもった声。敦美だ。


「もしもし、敦美?」

「その声は唯!? 本当にかかってくるなんて!」

 いつもの口調を忘れているわよ。


「その口ぶりだと、かかってくるのが分かっていたみたいね」

「予知。友美から先に連絡がきた。知らない番号から電話がかかってくるけど、すごい人が相手だから気にせず受けていいって」

「あの子ったら」

 私は額に手を添える。根回しするぐらいなら、自分で誘いなさいよ。


「質疑。用件は何?」

「あ、えっとね、敦美に頼みたいことがあって。えっと、バイトしない?」

「拒否。闇バイトはいけない」

「端から、社会問題化している方だと思わないでくれるかしら」

 若年層から誘われるバイトだと、それを思い浮かべるかもしれないけど。そもそも、バイトなんて口走ったけど、報酬は出ないからボランティアと言うべきかもしれない。


「えっと、友美の友達にキムっち、和菜という子がいるのだけれど、その子のことを助けてあげたいの」

「紛議。友美のお節介か。なら、巻き込まないでほしい」

「そう言わないで。ほら、えっと、デュエバの全国大会に関わるかもしれないし」

「疑念。まさか、新たなメンバーの候補?」

「まあ、そんなところ」

 そっち方面から勧誘を進めようと思っていたので、自動的に話が運んだのはめっけもんだ。


「別に気負う必要はないのよ。ちょっとした家事を手伝うだけだから」

「驚愕。永沢の家を放火するのか」

「放火って、そっちの火事じゃないわよ。それこそ闇バイトじゃない。掃除とか洗濯とかの方」

「安堵。それなら安心」

 この子、本気で言ってるわけではないのよね。


「提議。それで、協力したところで、何の見返りがある」

「見返りって」

 図々しいわね。そう思うけど、当たり前の疑念でもある。私は直接依頼されたこともあって、実質無償で手伝うことになっているけど、敦美にとって今回の話は寝耳に水もいいところだ。まして、和菜は他校の縁もゆかりもない生徒。そんな人物のために働かされるのだから、聖人君主でもない限り、報酬も無しに動くとは考えにくい。


 ただ、敦美が乗ってきそうな報酬となると、即座に思い浮かばない。デュエバのカード。安牌ではあるが、カードコレクターとして定評のある彼女。私が有しているカードでは満足しないだろう。


「そうね。今度、勉強教えるとか」

「却下。進研〇ミで間に合っている」

 そっち派なのね。考えなくとも、家事手伝いの報酬が勉強というのは魅力的ではないわね。他に、敦美が興味ありそうなこと。


 無意識のうちに鞄を漁っていると、とあるモノが視界に入った。「クラスで毛嫌いしている女子を痴漢から助けたらベタぼれされた話」。タイトルでほとんど内容を説明しているライトノベルのラブコメだ。アニメ化決定の話題作らしいから衝動買いしたやつね。

 そういえば、敦美も読書家だったはず。もしかしたら、足がかりがあるかも。


「ならば、おススメのラノベ譲ってあげるわ」

 受話器越しに口ごもる音が聞こえる。釣りをしていたなら、分かりやすく竿が振動したみたいだ。

「傾聴。詳しく聞こうか」

「食いつきが露骨すぎない」

「当然。唯が前に勧めてくれたやつ面白かった。精霊とデートしてデレさせるやつ」

「あれは名作中の名作ね。実は、その外伝集も面白いと知ってたかしら」

 唾をのむ音が聞こえる。あの本を手放すのは痛いが、背に腹は代えられない。


「もし、今回の件を手伝ってくれるなら、それをあげてもいいわよ」

「許諾。人肌脱ごう」

「判断が早いわね。そして、脱がなくていいわ」

「決断。こういうことは炭治郎より早く決断できる自信がある」

 フンスと鼻息を鳴らされる。芸は身を助くとは聞くけど、趣味も身を助くのね。とりあえず、二つ返事で彼女の助力を得ることができた。


 さて、心配はしていないけど、友美はうまくいったかしら。

カード紹介

海洋神トリティオン

クラス:オーシャン ランク1 コスト7

攻撃力X 体力X

このカードの攻撃力と体力は自分の手札の枚数×100となる。Xが0の時、このサーバントは破壊される。

このサーバントが場に出た時、Xが500以上なら突撃、800以上ならデコイを持つ。

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