芽衣の提案
「どう、唯ちゃん。これがストラクの実力よ」
「正直、甘く見ていたけど、普通に強いじゃない」
言い訳させてもらえば、経験者である芽衣が扱っていたというバフもある。それでも、私とて経験者。使っているカードは大会で使用されても違和感のないものばかり。
他のクラスのデッキも似たような構成と考えれば、三平への誕生日プレゼントとして持ってこいだろう。
「それにしても、アトランティックは本当に強いよね。過剰なるストレスが無いからこそ出せる、オーバーキル」
「動画配信者が、アトランティックで3900ダメージを出せるかやってみたって動画あげてたわね」
デッキ切れで負ける寸前までカードを引き続けるなんて、暇人なのかしら。そして、過剰なるストレスは友美曰く「根源への〇帰ってカードを調べればいいよ」だそうだ。
とりあえず、プレゼントの候補は決まった。だが、次なる問題がある。
「芽衣姉ちゃん、このデッキってお高いんでしょ。どうにかして、値引きできない」
「メ〇カリじゃないんだから、そんなサービスはやってません。デッキとかカードボックスは貴重な大型収入だからね。こっちも慈善でやってるわけじゃないのよ」
身内びいきはできないということね。そうなると、定価で買うしかないけど、中学生のお小遣いでは完全に予算オーバーだ。
「あたしたちでカンパする?」
「木村さんの問題でしょ。そこまで肩入れして、彼女が喜ぶかしら?」
「うーん、そうだよね。キムっち、けっこう律儀だから、逆に迷惑がると思うし。すぐにでもお金を稼げる方法があれば。キムっち、スタイルいいからな」
「やめなさい」
何を考えているかは口に出さないでも分かる。それを売ったら、友情が瓦解するどころの話じゃないわよ。
「私としても、カード欲しさにイケナイ道に踏み込ませるのは本意じゃないからな。よし、ならば、一つ提案してあげよう」
そう言って、芽衣は腰に両手を添えた。
「うちの店でバイトしない?」
あまりに素っ頓狂な提案に、私は開いた口が塞がらなかった。あの、本気で言っているのかしら?
「芽衣さん、労働基準法って知ってますか?」
「バカにしないで。労基ぐらい知ってるわよ」
「ドジャースのプロ野球選手?」
「おお、そっちが思い浮かぶか。友ちゃんのことだから、ガ〇レンジャーの敵とか言い出すかと思った」
勝手にジェネレーションギャップっぽいことで打ちひしがれないでもらえるかしら。
「まあ、冗談はさておき、さすがに中学生をまともに働かせたら、私が親父に大目玉くらうわよ。だから、そう、職場体験ってことで」
「限りなくブラックに近いグレーのような気がするわ」
サムズアップするけど、苦しい言い訳のような。
「中学生なら社会勉強の一環でやるでしょ。あくまで労働ではなく、勉強よ、勉強。机にかじりついて鉛筆走らせてるだけが勉強じゃないわよ」
「そうだぞ、唯ちゃん」
「滅茶苦茶皮肉がこめられてて腹が立つわね」
なまじ、間違ったことは言っていなくて、反論できないのが尚更だ。
とはいえ、僥倖なのは和菜を連れ出す大義名分ができたことだ。弟の誕生日プレゼントを手に入れるためならば、彼女も了承する可能性は高い。
「よーし、キムっちを誘うのは任せてよ。それで、唯ちゃんの方は平気そう?」
「平気って何が?」
「唯ちゃんで家の手伝いできる?」
無邪気に心配してくるけど、図星だから言い返せないのが癪なのよね。
すると、芽衣はポンと柏手を打った。
「なら、ちょうどいい助っ人がいるじゃない」
「助っ人? 芽衣さんが手伝ってくれるんですか?」
「私は店番があるし、手伝うとしたら友ちゃんの方よ」
「それに、芽衣姉ちゃんは家事ができ」
「言わせねえよ!」
友美が頬を引っ張られた。そういえば、芽衣の部屋を訪問したことがあったけど、汚部屋に片足突っ込んでいたような。
「私じゃなくて、あっちゃんよ、あっちゃん。さすがに唯ちゃんと二人掛かりだったら、一日ぐらい家事をこなせるでしょ」
敦美か。彼女の家事スキルは未知数。でも、猫の手以上の効果は期待できるだろう。それに、和菜の家族構成で強敵なのは弟の三平と赤ん坊の善詩乃。次女の双葉の協力を得られれば、十二分に対応できるはずだ。
希望的観測が覗いたところで、私の肩が叩かれた。
「と、いうことで、あっちゃんを誘うのは任せたよ」
「私が誘うの!?」
「そりゃそうじゃん。あたしはキムっちを誘わないといけないし。心配しなくても、あっちゃんの番号は教えてあげるよ」
そういう問題では無いのだけれど。まあ、友美におんぶにだっこしてもらうわけにはいかない。有無も言わさず、私の携帯に敦美の番号が登録されてしまったし。
マニアックな小ネタ紹介
根源への〇帰
シャ〇バのスペルカード。場のカードすべてを手札に戻す。
ナーフされた時の「過剰なストレス」という文言がユーザーの間で話題になった。
ドジャーズの野球選手とガ〇レンジャーの敵
佐々木朗希と狼鬼。どちらも「ろうき」と読む。