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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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唯VS敦美 ロマンコンボ

「では、ヴァルキリアスをかけたバトルの審判は、高野商店の看板娘こと、不肖高野芽衣が務めさせてもらいます」

 咳払いして、お姉さんこと芽衣が前説をする。店名と同じ苗字ということは、ここの経営者の娘だろうか。などと、余計な推察をしている場合ではない。必要なのは、目の前の少女に勝利することなのだ。


 デュエバのバトルをするということで、小学生たちがわらわらと集まってくる。別に見世物になったつもりはない。気もそぞろになるのをよそに、敦美は泰然とデッキをシャッフルしている。ここで動揺しているようでは、勝負にならないということね。私もデッキを切り、じゃんけんで先攻後攻を決める。


「先行。では、始めさせてもらう」

 まともにじゃんけんで所有権を決めていたら危なかった。内心でそんなことを考えていたのは秘密だ。

「では、デュエルスタート!」

 芽衣の掛け声でヴァルキリアス争奪戦の幕が上がった。


 互いに1ターン目は出せるカードがなくパス。先に動いたのは敦美だった。

「手番。魔法カードシャッフル発動。手札のカード3枚を山札に戻し、カードを3枚引く」

「手札入れ替えなんて、手札が悪かったのかしら。なら、砲撃手カノン召喚」

 相手がまごついているのを好機に、私はサーバントを繰り出す。


「考察。テンポ型のウォーリアデッキ。なら、機械仕掛けの守衛を召喚」

 ディーラーなるクラスのサーバントカード。機械仕掛けという冠に違わず、人造人間の守衛のようだ。


 カードの能力を確認するや、私は驚愕する羽目になる。

「体力500ですって。いきなり高すぎない?」

「そいつ、けっこう強いわよ。攻撃力0で攻撃できないってデメリット持ってるけど、アグロデッキなら機能停止することあるわね」

 芽衣が解説を加える。とりあえず、守衛をどうにか除去しなくては、相手プレイヤーにダメージを与えられない。


 幸いにして、突破口は見えている。

「コスト3のゴリアテ一般兵を召喚。攻撃力は300だから、次のターン、カノンと一緒に守衛を破壊できるわ」

「無問題。魔法カード魔導書の解読。カードを2枚引く」

 意気揚々とカードを繰り出しても、マイペースにプレイを続ける。どうにもつかみどころの無い相手ね。


 その後も、私は順調にサーバントを展開するも、敦美はデコイ持ちのサーバントを出したり、手札を補充したりと、一向に攻撃に転じる気配はない。更には、エマージェンシーカードにより追加でドローする徹底ぶりだ。あまりに消極的なプレイをしているためか、敦美の残りライフは700。私はまだ1700。おまけに、私の場にはサーバントが3体も揃っている。


「私のサーバントで一斉攻撃すればライフは0。どうやら、あのカードは私の物になりそうね」

「早計。魔法カードハルマゲドン発動。すべてのサーバントを破壊する」

「へぇ!?」

「来たね、盤面リセットする最強魔法」

 思わず変な声が出ちゃったじゃない。終末戦争という名にふさわしく、神々が争っている物々しいイラストのカードだ。敦美の場にサーバントはいないため、私の場のカードのみが一掃される。


 もう少しで勝てそうだったのに、悪あがきといったところかしら。敦美は難しい顔をしながら、手札を逡巡している。

「不本意。あまり出したくないカードだけど、四の五の言っていられない。トランプクルセイダー・スペード召喚」

 余った2コストで召喚したのは、トランプのスペードのマークのマントを羽織った聖戦士だった。一見すると大したことのないように思える。けれども、出すのをもったいぶっていたということは、特殊な能力でもあるのだろうか。


「発動。スペードの効果。山札の上から5枚を公開し、トランプクルセイダーという名の付くカードを1枚手札に加える」

 そうして山札を表にした途端、敦美の表情が変わった。ババ抜きやポーカーだったら絶対に勝てそうな顔だ。

「覚悟。次のターンであなたは終わる。わたしはトランプクルセイダー・ダイヤを手札に加え、ターンを終了する」

「やっぱ、そういうデッキね。唯ちゃんだっけ。本当に次のターンで決めないとヤバイわよ」

 場には攻撃力、体力共に100のサーバントのみ。これで、どうやって勝つつもりだろうか。どう考えても、ライフ1700を削る術など無い。


 ふと、私の頭をよぎったのは、ランク2のカードの存在だ。友美の時も、それを出されて一気に逆転された。ならば、このカードの使い時は今ではないか。

「あなたのターンに割り込みでエマージェンシーカード、クイックボマーを発動。トランプクルセイダー・スペードを破壊する」

 体力300以下のサーバントを破壊する魔法だ。これでランク2を出そうとも、元となるカードは消え去った。


 しかし、敦美の余裕の表情は消えない。

「僥倖。このタイミングでそれを使ってくれたのはありがたい」

「確かにプレミかもね。でも敦美ちゃん、エマージェンシーであのカードを持ってるでしょ」

「内緒。それは言わないお約束」

 相手の狙いはランク2ではないというの。では、どうすれば。あいにく、私の手札はタイタロスと死刑宣告の2枚。山札から打開策を引いてこないといけない。


 友美の時にも感じた高揚が再来する。勉強でも運動でも、これほど胸が高鳴ったことはない。と、いうよりも、元日の初詣でも、これほどまで熱心に願ったこともない。指先には汗さえにじんでいた。


 ズボンで指をぬぐい、私はカードを引く。途端、瞠目する。

 ネットでデュエバについて調べていた時のことである。友美からもらったデッキの中に気になるカードがあったので、それについて検索したところ、興味深い使い方が紹介されていたのだ。


 この局面で有効か分からないが、やれることは他にない。神頼みなど私らしくもないが、やるしかなかろう。

「私は魔法カード使命決闘を発動する」

「驚愕。まさか、そんなカードが」

「へえ、面白いカード使うじゃん」

 なんかキラキラしていたから強そうだとは思ったが、それほどまでに強力なのだろうか。


「えっと、お互いに手札を公開し、サーバントを選択する。とはいえ、私の手札にあるのはこれだけど」

「遺憾。よりによって、そんなカードを残していたとは。致し方なし。わたしは大英雄タイタロスを選択」

 そして、次は私の番だ。確か、ネットでは「できるだけ強そうなカードを選ぶと言い」と書いてあったわね。


 手札補充魔法を連発していただけあり、敦美の手札は10枚近くある。トランプクルセイダーというカードが4枚もあるけど、これにしようかしら。いや、それよりも気になるカードがある。

「私は、ジェネラル・トランプルーラー・キングを選択する」

「屈辱。それだけは選ばれたくなかった」

 コスト99で、攻撃力、体力共に2000だ。素人目でも危険なカードだと分かる。


「それで、選択されたカードを場に出た時に発動する効果を無視して召喚する」

 私の場にはタイタロス、相手の場にはキングが出現する。いきなり攻撃力2000の化け物が出てきてしまったのだ。自分で自分の首を絞めたように思える。

 しかし、私の手札を把握した敦美は浮かない顔をしている。流石に察しているだろう。私がやろうとしていることを。


「そして、残ったマナを使い、魔法カード死刑宣告発動。キングを破壊する」

「ロマンコンボの使命死刑じゃん。実際にやる人、初めて見たわ」

 芽衣が感心していたのも無理からぬことで、これは「使命死刑」という滅多に決まらないコンボとして紹介されていたものだ。切り札を踏み倒しながらハンデスできる。そんな謳い文句だったが、直後に「素直にハンデス呪文を使った方が手っ取り早い」と酷評されていた。


 ともあれ、切り札を失った敦美は爪を噛み、カードをドローする。

「手番。キングを捨てられては勝ち目はない。わたしはパスでいい」

 事実上のサレンダー(降参)宣言だった。ターンが回って来たことでタイタロスが攻撃可能となる。そして、プレイヤーへの直接攻撃で私が勝利を収めた。

カード紹介

使命決闘

魔法カード コスト5

互いのプレイヤーは自身の手札を公開する。その後、互いに相手プレイヤーの手札の中からサーバントカードを1枚選び、そのカードを場に出す。この時、場に出した時に発動する効果を発動させることはできない。

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