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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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ストラクを試してみるかい?

「朗報だ、唯ちゃん」

 和菜の依頼について友美に話してから数日後。放課後の図書室を待ちきれないと言わんばかりに、友美が私の机まで来訪してきた。

「急にどうしたのよ」

「キムっちが欲しいものが分かった」

 仕事が早いわね。目を白黒させていると、耳打ちするように顔を近づけてきた。頬にかかる吐息がくすぐったい。


「ストラクチャーデッキ」

「何それ。教育番組のキャラクター?」

「唯ちゃん、あたしと同じボケやってるよ」

 ニヨニヨしながらいじられた。色々な意味で不覚だわ。


 話を聞くに、公式大会でも通用するぐらい完成された、強力なデッキらしい。それを弟の三平にプレゼントしたいのだとか。

「デュエバのデッキって1000円ぐらいでしょ。なら、問題ないわね」

「それはスターターだよ。ストラクなら、えっと、7000円ぐらいかな」

「高すぎない!?」

 文庫小説なら8冊近く買えるわよ。そう考えると、おいそれと手出しできるようなものではない。


 ただ、ろくにカードが買えないから、友達とも遊べないとも言っていた。誕生日プレゼントとして贈るのなら最適ではある。

「そのスト、なんとかが本当にプレゼントにふさわしいか、下見する必要があるわね」

「おお、話が分かるじゃん。と、いうわけで、放課後は高野商店に集合ね」

 笑顔で「表に出ろ」というネットスラングの真似事をする。それ、親しい間柄以外でやったら、侮蔑になると思うのだけど。


 友美から誘われなければ、放課後はいつものように読書でもしようと思っていた。なので、断る理由はない。と、いうわけで、二人連れ立って高野商店に向かうことになる。


「いらっしゃい。おお、今日もお二人さんは仲が良いね」

 入店早々、芽衣はカウンターでニヤニヤしている。私が髪をいじくっていると、友美は元気よく、

「芽衣姉ちゃん、ストラクって入っている」

 と、芽衣に本題をぶつけていた。


「おお、デュエバの目玉商品か。もちろん、入荷してるよ。でも、相当高いからね。お金は大丈夫かい?」

「ああ、今すぐに欲しいというわけじゃないんだ」

「あら、そう」

 肩透かしをくらったかのように、芽衣はふらつく。そこで友美が事情を説明すると、「なるほど」と首肯する。


「初心者ならスターターを勧めるところだけど、最近は構築済みから入る子も少なくないからね。アニメとかやってるから、ルールは把握しているパターンも珍しくないし」

「そうそう。遊〇王とかデュ〇マとか、カードは持ってないけどルールは知ってるし」

「前に友ちゃん、遊〇王の初心者講習会で無双してなかったっけ」

 何やってるのよ、この子は。ルールをうろ覚えのゲームで勝てるなんて、やはり侮れないわね。


 芽衣の話では、ストラクチャーデッキは一定の需要があるものの、値段が足かせとなって、そこまでバカスカ売れる商品ではない。だから、転売ヤーの標的になりにくく、安定して供給できる、とのこと。つまり、お金さえあれば、確保自体は余裕ということだ。


 お金もだけど、もう一つ気になることがある。

「そのストラクチャーデッキだっけ。本当に強いの?」

「おお、言ったな。じゃあ、試してみるかい? ちょうど、私がポケットマネーで買ったストラクの海王の進撃リヴァイア・アタックがあるんだよね」

 さも当然のように、豪かな装丁のパッケージを取り出す。表面にはクジラのサーバントが描かれていた。


「クラス:オーシャンのデッキだよね。あれも、なかなか強いんだよ」

 小耳にはさんだことはある。確か、サメとかタコとか、海洋生物をモチーフとしたサーバントが多く収録されているクラスだ。

「あれこれ説明するより、実際に体験した方が早いでしょ。久しぶりに唯ちゃんと戦ってみたかったし、やってみる?」

 芽衣の提案も尤もだった。随分と強気だけど、所詮は市販デッキでしょ。年季の入った私のデッキはそう簡単には負けないわよ。


「うーん、本当なら、あたしが戦いたかったな」

 ぶつくさ文句を言う友美を審判に据え、私は芽衣と向かい合わせに座る。彼女と戦うのは勝との一件で友美と険悪になった時以来か。あれから私も成長しているだろうし、芽衣は自前のデッキではない。


「なーんか、唯ちゃん。いけないフラグを重ねていない? 言っとくけど、ストラクは舐めてかかると痛い目見るわよ。おっと、おしゃべりしている場合じゃなかったね。私のターン。プレッシングフィッシュを召喚」

 芽衣の先行で始まった2ターン目。さっそく、つやつやとした鱗が特徴的な魚のサーバントを繰り出してきた。攻撃力と体力は共に100。だけど、

「プレッシングフィッシュの効果。カードを1枚引く」

「それ、オーシャンじゃなくても入れたくなるやつだよね」

「そうそう。特に、コントロールデッキなら、実際に別クラスでも入れてる構成あるわよ」

 低コストでドローしながらサーバントを出す。なかなかに強い動きというのは理解できているわ。


 どうやら、勝とか豪と同じくコントロール系のデッキらしい。速攻したいところだけど、この手札なら。

「盾持ち傭兵をを召喚。ターンエンド」

「デコイか。じゃあ、魔法カード魔導書の解読。カードを2枚引く」

「また、ドローカード!?」

 フィッシュで攻撃しても無駄とはいえ、悠長ではないだろうか。その後も私はサーバントを繰り出していき、場のサーバントは3体になった。相手の場にはサーバントが1体だけ。これは、友美の速攻デッキじゃなくても押し切れるわ。


 そう思っていたのだが、迎えた5ターン目。芽衣は間髪入れずに魔法カードを発動した。

「怒りの荒波を発動。相手のサーバントの体力の合計が、自分の手札の数×100以下になるように好きなだけ選んで破壊する。この効果で破壊できるのは合計体力800」

「800って。ちょうど、私の場のサーバントすべてじゃない」

 まさか、一方的にこちらの場が壊滅させられるとは。更に、芽衣の猛攻は止まらない。


「そして、皇帝オクタン・ビアヌスで攻撃! 効果発動、カードを1枚引く」

 ローマの初代皇帝。ではなく、王冠を被ったタコのサーバントが触手を振るう。300ダメージの被弾は痛いが、それよりも気になることがあった。

カード紹介

プレッシングフィッシュ

クラス:オーシャン ランク1 コスト2

攻撃力100 体力100

このカードが場に出た時、山札からカードを1枚引く。

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