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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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ミッション:和菜の欲しいものを探れ


 唯ちゃんからの頼み事。ミッション、キムっちを誘い出す口実を探れ。うーん、スパイな家族の漫画の主人公になったみたいでワクワクするよ。


 まずは、キムっちと接触しないとお話にならない。それは、特に難しい問題ではない。バスケ部の助っ人として頻繁に顔を出していれば、自然と遭遇できるのだ。

「友美。あなた、最近よく来るわね。どうせなら、そのまま正式入部すれば」

「あたしは助っ人としてのアイアンテールを持っているのだよ」

「アイデンティティと言いたいわけ? ポ〇モンの技みたいになってるし」

 どや顔を決めるあたしに、バスケ部の先輩は苦笑する。


 さて、探りを入れるのなら、最適な場面は一つ。部活動を終え、着替えのために部室へと戻っていく。そう、ここだ。

「あー、あっつい。友美、制汗剤持ってない」

「ざーんねん。持ってないんだよな、これが」

「威張ることじゃない」

 あたしの隣で、キムっちがパタパタと上着の襟を引っ張る。男子がいる前では絶対にやらない仕草だ。


 「今日も練習きつかったねー」とか、皆口々にぼやきながら、着替えを進めていく。あたしの隣でキムっちは一思いに上着を脱いだ。

 すると、横目で睨まれた。ああ、さすがに感づかれたか。

「友美もさっさと着替えたら。さっきから、ずっと私を覗いているけど」

「いやん。エッチ」

「いや、それは私のセリフだって」

「ああ、そうそう。キムっち、ブラ新調したんだね」

「分かる? 前のはきつくなっちゃって」

 ピンクの可愛い柄のやつだ。前のはきつくなった。うわー、地味にダメージ受けるわ。打ちひしがれながらも、あたしも上着を脱ぐ。


「友美のは。あー、うん。いいと思うわよ」

「もうやめて。あたしのライフはゼロよ」

 知ってるよ。グレーのスポーツブラに色気も食い気も存在しないってことは。


「ひょっとして、パンツも新調したりする」

「期待しているところ無駄だけど、見せるつもりはないわ」

「えーいいじゃん。あたしのも見せたげるから」

「あなたのは体育の時に嫌でも見てるわよ。どうせ、ブラとおそろいのグレーの奴でしょ」

「な、何故、あたしの今履いているパンツを知っている」

 大抵、ブラとお揃いにしているから。そういう理由でしょ。


「でもさ、キムっち、そういうのどこで見つけてくるの。今度、教えてほしいな」

「友美も、こういうのに興味あるんだ。うーん、教えてあげたいけど、なかなか予定が合わないのよね」

 残念そうに天を仰ぐ。いい線行ってたと思うけど、今一歩及ばなかったか。一緒にパンツ買いに行こうって言ったら、唯ちゃんも誘えると思ったのに。あ、でも、キムっちの家の手伝いもしなくちゃいけないのか。


 ええい、まだあきらめないぞ。幸いにも、キムっちを外へ連れ出す流れに話を持っていけている。この調子だ。

「ねえねえ。パンツとかじゃなくてもいいからさ。キムっちが欲しいものってある?」

「唐突にどうしたのよ」

 本当に不意打ちだったのだろう。上着で隠す前にハーフパンツを下ろしたものだから、キムっち自慢のパンツがご開帳する。予想通りピンクの可愛いやつだった。


「いやあ、深い意味はないよ。ちょっと聞いてみたかっただけ」

「本当?」

 疑わしく目を細めてくる。「本当だって」と私は手を振りながらスカートを履く。キムっちもまたスカートを履くと、「うーん」と唸った。


「唐突に欲しいものと言われてもね。夕食に食べたいものあるって聞いて、何でもいいと言われた気分だわ」

「あー、なんとなく分かる」

 キムっちらしい例えだ。あたしもよくやる。それで、ステーキとか言うと、そんなのありませんって叱られるのがオチなんだよね。


「本当に何でもいいんだよ。デュエバのカードとか、スイッチのソフトとか」

「それは友美が欲しいものでしょ。でも、デュエバか」

 およ、意外なものが引っ掛かったな。


「キムっち、欲しいカードあるの!? 伝手があるから調達してあげるよ」

 あっちゃんとか、あっちゃんとか、あっちゃんとか。しかし、キムっちはゆっくりと頭を振った。

「私じゃなくて、三平よ。あの子、デュエバのデッキが欲しいとか前に言ってたの。えっと、なんだっけ。スト、何とか」

「ストレッチマン?」

「それは教育テレビのキャラクターでしょ。ほら、ストがつくやつ」

「ストラクチャーデッキとか」

「そう、それそれ!」

 キムっちは手を叩いて有頂天になる。なるほど、ストラクか。


 別名構築済みデッキ。一定のテーマに沿って、すぐに遊べるように組まれたカードセットだ。そして、今話題のデッキと言えば、構築済みスペシャルデッキに違いない。

 最高レアのカードも惜しみなく採用されており、そのまま大会に出ても通用するぐらい強力なものだ。なにせ、勝が使っていたアルティメシアのデッキもラインナップされているぐらいだもん。


 それ以外にも、人気の高いカードが目玉に設定されていて、小学生男子なら欲しがること間違いなしだ。でも、一つ問題があるんだよね。

「前におもちゃ屋行った時に売ってたから覗いてみたけど、あれって、けっこう高いのね」

 キムっちが落胆するのも無理はない。レアカードを惜しみなく採用しているため、1万円近い値段がするのだ。スターターデッキが1000円ぐらいと考えると、とんでもないってのが分かるよね。


 正直、中学生が易々と手を出せる代物じゃない。前にお母さんにおねだりしたけど、「高いから駄目よ」って言われちゃったし。

 ただ、それさえあれば、公式大会でもそこそこ戦うことができる。なるほど、これはいいことを聞いたぞ。

「実は、もうすぐ三平の誕生日なの。それで、プレゼントをどうしようかと悩んでいたのだけれど」

「デュエバ好きなら、ストラクは間違いないよ」

「友美が太鼓判押すなら、安心ね。でも、値段がね」

 ワイシャツのボタンを留めながらキムっちがぼやく。家事の手伝いをしなくてはならないということは、自由に使えるお小遣いも少ない。ゲームソフトよりも高い商品なんて、予算オーバーということだろう。


「分かった。あたしに任せてよ」

「任せるって、当てでもあるの」

「こういうのには伝手があるからさ」

 あたしは力こぶを叩く。未だ渋るキムっちを励ますように、追加でサムズアップしておいた。

改造しなくても公式大会で通用するものもあれば、とんでもない紙屑の集まりのものもあると、構築済みデッキはピンキリなのです。

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