友美に相談しよう
和菜と遭遇した翌日の事。いつものごとく、私は図書室を訪れる。そして、さも当然のように友美が隣に並ぶ。そうなるのは必然だった。
なにせ、授業の合間にこっそりと、「相談したいことがある」と友美を呼び出しておいたのだ。無下にされるかと思ったけど、尻尾を振るみたいに食いついてきたのは上々だったわ。
「唯ちゃんから誘ってくるなんて、珍しいね。デュエバで欲しいカードでもあるの?」
ガッタガッタと椅子を揺らしている。床が傷つくから止めなさい。
「いや、デュエバじゃなくて、別の用件で相談があると言うか」
「言っとくけど、勉強を教えてほしいってのは無駄だかんね」
「それなら、最初から当てにしていないわよ」
「ひっど!」
むくれるけど、事実だから仕方ないじゃない。むしろ、あなたの方が相談しに来るんじゃないの。
なんて、友美のおふざけに付き合っていては、いつまでも話が進まない。単刀直入に用件をぶつけよう。
「実は、木村さんの妹から相談を受けてね」
「異議あり!」
いきなり机を叩く。急にどうしたのよ。
「いやあ、あのゲームの真似やってみたくて。って、それはいいんだよ。いつの間に、キムっちの妹と知り合ってるのさ」
ああ、それは疑問にして当然よね。隠すことでもないので、私は昨日の帰りの出来事を打ち明ける。
しばし、黙って聞いていた友美だけど、話し終えると、「ほへー」と感心したような吐息を漏らした。
「唯ちゃん、キムっちとそこまで距離を詰めるなんて、隅に置けないな」
「たまたまよ、たまたま。それで、本題だけど、どうにかして木村さんを助けることはできないかしら」
「うーん、難しいな。要するに、キムっちの手伝いができればいいんでしょ。キムっちのパパと再婚するとか」
「法律的にも道徳的にも無理でしょ」
そもそも、私たちは結婚できる年齢に達していない。達していたとしても、娘と同年代の女性と再婚したとなったら、父親を社会的に抹殺してしまう。
「単純に、家事の手伝いとかをすればいいとは思うのだけれど」
「前に、キムっちにお手伝いしよっかって言ったんだよ。でも、間に合ってるって突っぱねられたんだ」
既に、試していたということね。でも、お手伝いでやれることと言えば、それくらいしかない。
「どうにか説得できないかしら」
「それは、前から思ってたんだよね。家のことに余裕を持てれば、デュエバに沼らせることもできるし」
クフフと悪い笑みを浮かべる。むしろ、そっちが目的では。いや、私も似たようなこと考えていたわね。
「作戦としては、こうなるかしら。まず、無理やりにでも木村さんを外に連れ出す。そして、家事を忘れて、思い切り遊んでもらう。その間に、家事をこなす。自分が居なくてもやるべきことができると分かれば、余裕も生まれるんじゃない」
「唯ちゃん」
「な、なによ」
いきなり肩を掴まれる。まずいことでも言ったかしら?
「天才かよ!」
そりゃどうも。
「っていうか、相談するまでもないじゃん。その計画でいけば、キムっちを楽させてあげられるよ」
「いくら良い案を思いついたとしても、他人の意見を聞かないと確証が持てないでしょ。でも、友美が太鼓判を押すなら間違いないわね」
「そうそう。あたし、太鼓叩くゲーム得意だかんね。自信を持っていいよ」
「むしろ、無くなったわ」
無遠慮に背中を叩いてくる友美。ともあれ、方向性は定まったわね。
「それで、どうやって木村さんを連れ出すか、だけど」
「単純に遊びに誘っても、キムっちはなかなか参加しないからな」
友美は渋面を作る。家の手伝いという大義名分を掲げられたら無理強いはできない。
「家の手伝いよりも優先したくなる用事があればいいのだけれど。例えば、木村さんが好きそうな遊びに誘うとか」
「キムっちは、基本的に体を動かすことが好きなんだよね。でも、前にラウンドワン行った時も乗ってこなかったし」
体を動かす権化みたいな施設でも無理だというの。ヴァルキリアス級の切り札を出したものの、あっさり除去された気分だ。
「他に、木村さんが確実に反応しそうなこと。うーん、思い当たらないわね」
どれだけ考えても机上の空論にしかならないのだ。それもそうだろう。和菜当人の趣味嗜好を把握しているわけではない。そうなると、
「とりあえず、彼女について探ることから始めるか」
「おー、探偵っぽい」
友美が腕時計をしているわけでもないのに、手首を持ち上げて何かを打ち込む仕草をしている。
「何やってんのよ」
「麻酔銃撃つ真似」
まあ、予想はついていたけど、見た目は子供の名探偵の真似事ね。
「キムっちのことなら任せてよ。ノリスケ構った船さんだからさ。バッチリ調査してみせるよ」
「乗り掛かった舟ね。ノリスケに構うのは波平の方よ」
サムズアップをする友美に訂正を入れる。あのおじさんが磯野家の奥方と絡んでいるシーンが思い浮かばない。
ともあれ、友美が「任せてほしい」と豪語しているのだ。若干の不安は残るが、この手の案件は彼女に分があるのは確か。大人しく一任するとしよう。
カード紹介
デブリ・ロッカー
クラス:フォーチュラー ランク1 コスト2
攻撃力100 体力100
託宣(デッキの上から1枚を墓地に送る。そのカードのコストが偶数なら、次の能力を得る)
このカードの攻撃力と体力を+200する。