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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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双葉からの依頼

 ふと、遠方で「オギャー」という赤ん坊の泣き声が聞こえる。

「ああ、起こしちゃったか。はいはい、善詩乃、今行くからね」

「もしかして、赤ちゃんもいるの」

「去年、生まれたんだぞ」

 まさかの四人兄弟とは。

「両親ははどうしてるの」

「父さんなら、まだ仕事。もうすぐ帰ってくると思う」

 双葉が淡白に答える。

「それで、母親は」

 私の言葉を遮るように、双葉はある一点を指した。


 小さな仏壇に写真が飾られている。朗らかに微笑む快活そうな女性。その顔立ちからは血筋を感じさせる。そんな直接的なものを提示されては、双葉が言わんとしていることは丸わかりだ。


 テレビから六時を告げるアナウンスが流れてきた。アナウンサーが一礼してトップニュースを読み上げる。

「あら、もうこんな時間か。そろそろお暇した方がいいわね」

 私は腰を浮かす。元々、お邪魔するつもりはなかったのだ。このまま無為に留まっていては迷惑だろう。それに、私もまた帰宅が遅くなると、色々とうるさい。多分、まだ両親のどちらも戻ってはきていないだろうが。


 ふと、私の服の袖が引っ張られた。こんないたずらをするのは三平かしら。苦笑しつつ、なだめようとする。

 しかし、犯人は予想外の人物だった。姉よりも若干幼いが、それでも凛々しさを感じさせる顔立ち。ツインテールの少女が、まっすぐに私を見据えていたのだ。


「双葉ちゃんだったわね。どうかしたの」

 尋ねても、無言のまま袖を引っ張ってくる。生地が伸びそうだったが、真摯な眼差しに、そんな不埒なことを気にしている余裕はなくなった。


「お願いがあるの」

「お願い?」

 眉を寄せると、顔を近づけてくる、どうやら、耳打ちをしたいらしい。ちらり、ちらりと後方を窺っている。その先に居るのは、無論和菜だ。


 彼女が善詩乃にかかりきりになっているのを確かめると、私にささやいてくる。

「お姉を助けてやってほしい」

「助ける?」

 思ってもみなかった懇願に、私は間の抜けた声でオウム返しする。


「お姉はいつも大変そう。助けたいと思うけど、どうすればいいのか分からない」

「どうして、私にそんなことを。相談したいなら、友美とかいるじゃない」

 むしろ、彼女ならば二つ返事で了承しそうだ。それに、彼女の方が昔馴染みだろう。

「友美だと、頼りにならなそう」

 あの子、年下からも信頼無いのね。


「お姉さんはしっかりしてそうだから、なんとかしてくれると思った」

「そんな、事件の犯人の供述みたいなこと言っても、保証はできないわよ」

 冗談をかましたが、依頼してきている相手は冗談では無さそうだった。呟き終わると、素知らぬ顔でテレビとにらめっこを続ける。


「ああ、ごめん、ごめん。善詩乃が急にぐずっちゃって。あれ、双葉。あんた、小鳥遊さんと話してなかった」

「別に」

「さっき、ひそひそ話してたぞ。聞こえなかったけど」

「やっぱり。何話してたんだ?」

「内緒」

 テレビから頑なに視線を外そうとしない。そうなると、当然、私に疑惑が向く。


「まあ、内緒と言われたからね。話す義理はないわ」

 へたくそな口笛で返す。「ふーん」と不審そうに腕組みされる。誤魔化しきるのも苦しいわね。

 でも、「まあ、いいわ」とあっさり引き下がった。

「小鳥遊さんには無理行って誘ったからね。多分だけど、都合があったでしょ」

「ええ。そろそろお暇しようと思っていたところよ」

「もう帰っちゃうのか。バトルは、バトル」

「またの機会にしなさい」

 三平は不服そうだったが、私は手を振ると、そそくさと玄関に向かうのだった。


 その帰り道。双葉がこっそり打ち明けたことがリピートしていた。

「助けてほしい、ね」

 あの状況を前にすれば、和菜が日々苦心していることは容易に想像がつく。それならば、手を差し伸べたいと思うのが人の性だ。


 でも、具体的にできることはあるか。

「最近、似たような問題に巻き込まれてばかりね」

 そう独り言ちるぐらいには、お節介案件に遭遇しっぱなしだ。しかも、今回はゲームのカードが問題ではない。他人の家庭環境と、おいそれと首を突っ込めない問題だ。


 無論、聞かないふりをするのが、最も波風が立たない。ただ、今の私はこう考えてしまう。

「友美なら、いい案を思いつくのでしょうね」

 我ながら、だいぶ毒されてきたわね。

カード紹介

コンバージョン・リカバリー

エマージェンシーカード

自分の場のサーバントを1体破壊する。その体力の値だけ、プレイヤーの体力を回復する。

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