表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
85/122

和菜の姉妹事情

「姉ちゃん、遅いぞ!」

「悪い、悪い、三平。買い物に時間かかっちゃってね」

「オラ、腹減ったぞ!」

 玄関を入ってすぐ、出迎えたのは坊主頭の小僧だった。小学校中学年ぐらいだろうか。なんとなく、中島からいつも野球に誘われている、あの少年に似ている気がする。


「お、姉ちゃんの友達か。珍しいな」

「私が友達少ないみたいな言い方しないの」

「だって、友美ぐらいしか見たことないぞ」

「あの子は勝手に家に来るからね」

 荷物と一緒に肩も下す。私が当惑していると、和菜は思い出したように「ああ」と柏手を打った。


「紹介が遅れたわね。私の弟の三平」

「こんにちんこ!」

「人前でコ〇コ〇に載っているギャグやらないの」

 和菜に小突かれ、三平は頭を抱える。そのギャグ、前に友美がやっていたような。「おぽんちくん」という、主人公がやたらと性器を露出する、下らなすぎるギャグマンガだったはず。


 「まあ、上がって」と促され、私は靴を脱ぐ。既に圧倒されっぱなしだ。台所に向かうと、そこでは一人の少女がテレビを見ていた。

 小学校高学年くらいだろうか。敦美と同じくツインテールにしているが、こちらは三つ編みではない。と、いうか、ショートヘアで髪を結んでいると言った感じだ。


「お姉、おかえりー」

「双葉、帰ったわよ」

 テレビから目を離さず、口だけで応答する。私に対しても、一瞥しただけだった。三平とはえらい反応の違いね。


 座るように促されたので、彼女の隣に腰掛ける。更にその隣に三平が勝手に座って来た。そして、じっと観察するように、こちらを見つめてくる。

「私の顔に何か付いてる?」

 さすがに気になったので訊ねてみると、ぶんぶんと頭を振った。

「友美とは違うタイプの姉ちゃんだったから、珍しいと思って」

 あの子、小学生からも呼び捨てにされてるわけ。分からないでもないけど。


「友美はよく遊びに来るの?」

「うん! ス〇ブラすっげー強いんだぞ。あと、デュエバも」

「あなたもデュエバやるんだ」

「姉ちゃんもやるのか!?」

 つい、反応してしまうと、三平は身を乗り出してきた。双葉が「うるさい」とたしなめる。


 バタバタと子供部屋にリターンしていったかと思うと、カードファイルを持ってきた。中にはデュエバのレアカードがぎっしり。

 とは、いかなかった。コモンだの、色々なレアリティのカードがごちゃ混ぜに収まっている。敦美のレアカードまみれが焼き付いているから、カオスさが際立つわね。


「たくさんカード持ってるのね」

「まだまだだぞ。タケシなんか、もっとすごいの持ってるし」

 憤然と言い張る。タケシが誰は知らないけど、多分、三平の級友だろう。パラパラとページをめくっていくと、ある一枚に釘付けになった。


「暴竜ドラグン」

「姉ちゃん、このカード好きなのか? 俺のお気に入りのカードなんだぞ」

 レアリティはアンコモンの一つ上のレア。仰々しいドラゴンが吠え掛かっているという、いかにも小学生男子が好きそうなサーバントだ。


 私がこのカードを気に掛けたのは、少し前に買ったカードファイルに紹介記事が掲載されていたからだ。

 クラスはレジェンダリーでコスト8。攻撃力1200に体力1000と圧倒的なスタッツを持っているが、特別な能力を有していないバニラ。このままでは活躍は難しいが、あるカードと組み合わせると、とのことだ。


 裏がありそうな言い回しに引っ掛かりを覚えたが、三平の場合は単にカードイラストが好きとか、そういう理由だろう。私の身内に、その動機でカードを集めている奴がいるし。


 そうこうしていると、和菜が人数分のジュースをお盆で運んできた。

「三平。ジュースで汚れるから、カードをしまいなさい」

「姉ちゃん、この姉ちゃんもデュエバやるってよ。ねえねえ、デッキ持ってる? バトルしない?」

「今日は遅いから、また今度ね」

「ちぇー」

 恨みがましく舌打ちをする。そんなやり取りの中、双葉は静かにジュースを飲んでいた。なかなかにしたたかな子ね。


「と、いうか、三平。宿題は終わらせたの」

「終わらせるわけないだろ」

「威張るんじゃない」

「いってー! ぼーこー罪だぞ」

「宿題やらない方が悪い」

「双葉姉はやったのかよ」

「無論」

 頭をさすりながらむくれる三平。「また、手伝わされる羽目になるわね」と、和菜は落胆していた。幸いにして、今日はあまり宿題が出ていなかったはずだ。出かける前にさっさと終わらせられたし。


 何の気なしに紫色のジュースを嚥下する。むせた。

「ごめん、炭酸苦手だった?」

「いや、大丈夫よ」

 虚勢を張ったけど、完全に油断していたわ。ただのグレープジュースじゃない。ファンタグレープだ。

「姉ちゃん、炭酸飲めないのか? 子供だな」

「あなたも子供でしょ」

「俺、一気できるもんね」

 そう言って、一気飲みして、豪快にゲップしていた。隣で双葉が「バカ」と呟いていた。

カード紹介

暴龍ドラグン

クラス:レジェンダリー ランク1 コスト8

攻撃力1200 体力1000

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ