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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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奇遇

 それから数日後の放課後。いつものように図書室に。と、行こうかと思ったけど、私は市内の本屋に赴いていた。

 参考書と一緒に、新しく小説を買おうと思い立ったのだ。順当に映画化された作品にしようかしら。そういうのは大きな外れは無いと経験則が物語っている。ただ、無名の作家の新作で冒険してみるのも面白い。


 色々とめぐっていると、私はとあるエリアに踏み入れた。ゲームの攻略本などが陳列されている所だ。以前だったら、縁もゆかりもない。なにしろ、ゲーム自体やる機会が無いし。


 ただ、そこに並べられていた一冊の本が気にかかった。

「デュエル・ザ・バース全方位カードファイル」

 コ〇コ〇コミック公式編集のカードカタログのようだ。昨今では珍しく、立ち読み対策のフィルムが施されていない。


 クラス別にサーバントが羅列されており、それぞれに解説が加えられている。

「極炎氷龍アルティメシア。アルティブレイズかグレイメシアをミラクル・フュージョンさせることで召喚できるカードだ! 相手の雑魚を一掃できるうえ、相手から選ばれないから、簡単には除去されないぞ!」

 私は解説を黙読する。小学生向けに簡素な文体となっており、ざっと眺めるだけでも、大体のカード効果は理解できる。いわば、学科の参考書みたいなものね。うんうん、なるほど。


 それから一時間程度経っただろうか。すっかり、空は茜色に染まっている。私の手の中には映画化された小説に、数学の参考書。それに、デュエバの全方位カードファイルが握られていた。

「我ながら、予想外の出費をしてしまったわね」

 ただ、デュエバの参考書を780円で買ったと考えると悪くない買い物だろう。後で友美にも見せようかしら。あの子のことだから、「そのくらい持ってるよ」と逆に自慢されそうだが。


 ポツポツと街灯に灯りが付き始めている。あまり遅くならないうちに家に戻ろう。そう思い、自然と早足になる。


 そこで、ふと足を止める。と、いうのも、どうにも見知った顔を発見したからだ。ジャケットにジーンズという快活そうな恰好をしたポニーテールの少女。両腕に大きな買い物鞄を抱え、しっかりとした足取りで商店街を闊歩している。


 彼女は確か。思案しつつ視線を送っていると、相手の方が足を止めた。

「あれ? 小鳥遊さん。こんなところで会うなんて奇遇ね」

「ええ、そうね。えっと」

「ちょっと。クラスメイトの名前ぐらい覚えなさい。木村よ。友美の言うところのキムっち」

 そうそう、木村和菜。露骨に憤慨しているので、私は手を合わせた。


「そんなに大量に買い物袋を持って。家の手伝い?」

「そんなところ。今日は商店街でバーゲンやっていてね。予定よりも買いすぎちゃった。でも、お肉とか、普段スーパーで買うよりも幾分安く手に入れたわ」

 肉の他にも野菜とか卵とか、いわば常備品が出そろっていた。


 彼女の額には汗がにじんでいる。両手が塞がっていて、汗を拭く余裕もないのだろう。

「急いでるから、それじゃ」

 と、足早に立ち去ろうとする。


「ちょっと待って」

 無自覚の内にお節介が働いたのだろうか。呼び止められた和菜は不思議そうに小首を傾げる。

「良かったら、手伝うわよ。ちょうど暇してたし」

 明日の予習やら読書やら予定はあるにはある。ただ、あの状態の彼女を放置できるわけがないではないか。


「別に、小鳥遊さんの手を煩わせるまでもないわ」

「見るからに大変そうなのに、放っておけるわけないでしょ」

 固辞されたのだから、放っておいてもよかった。それでも助力を申し出たのは、友美から彼女の内情を聞いたからかもしれない。


「でも、悪いわよ。このぐらい、いつものことだし、迷惑をかけるわけにはいかないわ」

「いやいや、こういうのは素直に受けるものよ」

 何故だか、意固地になって拒否してくる。そうされると、呼応してこちらも意固地になる。往来の人々が、ちょくちょく振り返ってくる。なんだか、妙な誤解を生んでいそうだ。


 やがて、これ見よがしなひそひそ話まで耳に届いた。さすがに、こんな状況になってしまっては後には引けないだろう。ため息をつくと、和菜は左手に持っていた買い物袋を差し出してきた。

「ん」

「と〇りのトトロにこんなシーンあったわね」

「友美があなたと仲良くしているの、分かった気がするわ」

 そうかしら。私も、あの子に毒されたみたいね。なんて、気軽な気持ちで袋を受け取る。


「重っ!」

「そりゃそうよ。その中に2Lのペットボトルジュースが入ってるから」

 図ったわね。「んべ」と舌を出して来るから、確信犯に違いない。


 しかも、ペットボトルの他にも、色々と詰まっている。両手で持つのでも、かなりの労力を要する。これを片手で楽々と持ち運んでいたなんて。

「ほら、置いてくわよ」

 身軽になったのをいいことに、和菜はスタスタと先行していってしまう。ここで負けん気が働くのが私だ。平然を装い、彼女と付かず離れずの距離をキープする。


 そのまま数十分は歩いただろうか。空は暗闇に差し掛かろうというのに、私は汗びっしょりになっていた。こんなことなら、着替えを用意しておけばよかった。

 たどり着いたのは団地の一室だった。CMで「更新料なし、なし」と謳っているアレだったと思う。


 年季が入った壁から、独特のにおいが鼻を突く。私が物珍し気に首を動かしているのをよそに、和菜は手慣れた調子で部屋の鍵を開けた。

「ありがとう、助かったわ。お礼にお茶でも飲んでいかない」

「そんな、悪いわよ」

「こういうのは素直に受け取っておくものよ。手伝わせたままじゃ目覚めが悪いじゃない」

 そもそも、私が手伝いを申し出たのだ。見返りは求めていなかったが、ここで辞退するのも逆に失礼だろう。それに、今日は両親の帰りが遅いはず。少しぐらいお邪魔しても問題ないはずだ。

カード紹介

禁断の大儀式

魔法カード コスト7

自分の山札の上から10枚を墓地に送る。使用可能PPを2倍にする。このターン、このカードの効果で増えたPPを使用することはできない。

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