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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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キムっちの事情

 お見舞い目的で友美の家を訪問した次の日のことである。朝早く登校して、本と睨めっこする。そのルーティンは変わらずだった。

 青天の霹靂だったのは、始業のチャイムが鳴る直前だった。ドガラバァと、教室のドアがありえない音を立てて開かれる。


 当然の如く衆目を浴びる。それを気にすることなく、アホ毛の少女は珍妙なポーズを取った。

「俺、参上!」

「友美、久しぶり!」

 クラスメイト達に群がられる友美。用心のためだろうかマスクを着用しているが、あの調子だと平気そうね。


「風邪は大丈夫なの」

「へーき物語だよ、キムっち。昨日はお見舞いありがとね」

「あれぐらい、お安い御用よ」

 和菜は破顔して腕まくりする。すると、友美が首を伸ばして、あさっての方向に視線を送る。


 その先に居たのは。私? ウィンクを施されるものだから、そそくさと本の中に避難してしまう。不意打ちなんか、卑怯よ。


「やれやれ。騒がしいのが帰って来たわね」

「どうして、しれっと隣にいるのよ、亜子」

「いちゃ、悪い?」

 真面目くさった顔でそう言うものだから、反応に困る。


「ところで、昨日はあなたもお見舞いに行ったそうじゃない。随分と、あの子にご執心のようだけど」

「あなたには関係ないでしょ。と、いうか、どうしてそのことを知っているのよ」

「さて、ね」

 へったくそな口笛を吹く。こういうのは、あまり追求しない方がいいわね。


 友美が復帰したことで、普段の授業も一層騒がしくなった。病み上がりというのが信じられないくらいのテンションの高さ。心配するだけ野暮みたいね。


 そして、あっという間に放課後を迎える。私はいつものごとく図書室にこもる。一人で静かに本を読む。どうということのないルーティンだったが、このところ物寂しさを感じるようになった。時折、グラウンドから聞こえる運動部の歓声が恋しくなるなんて、本当にどうかしている。前なら、煩わしくて仕方なかったのに。


 なんて、感慨にふけっている時だった。ドギャァンと豪快な音とともにドアが開かれた。こんなことをする輩は一人しかいない。

「俺、参上!」

「今朝もやってたわよね、それ」

「佐藤健がやってたライダーだよ。知ってるか知らないか、答えは聞いてない」

 呆れる私をよそに、友美はまた別の珍妙なポーズを取る。


「いやあ、久しぶりだね、ここで唯ちゃんと会うのも。寂しいとか思ってたでしょ」

「別に」

 そっけなく返答するけど、図星だった。本当にこの子、エスパーの類じゃないかしら。


「ここにいるということは、やることは分かっているね」

 不敵な笑みを浮かべながら、友美は鞄を探る。そして、さも当然のようにデッキを取り出した。私も当然のようにデッキを用意できている辺り、本当に毒されているわね。


 家庭訪問の際は友美にペースを握られていたけど、今回はそうはいかなかった。

「そんな毎回、アジャコンジャを出させるわけがないでしょ」

「エマージェンシーのクイックボマー入れただけでしょ。アレ、本当に嫌なんだよね」

 ぶつくさ文句を言うけど、狙いが分かっているのに、対抗策を仕込まない方がおかしいでしょ。コンジャは攻撃されない能力を持っていても、魔法による除去は防げない。ショックみたいな低コストの除去呪文も多めに入れておいて正解だったわ。


 結局、友美のデッキをメタった構築が功を奏し、ヴァルキリアスの召喚に成功。そのまま、一気に体力を削るのだった。

「もう。病み上がりなんだから、手加減してもいいじゃん」

「昨日、私を一方的に倒しておいて、どの口が言うのよ」

「あのバトル、根に持ってんの? 唯ちゃん、アジャコンジャ並みに恨み深いね」

「蛇のモンスターを引き合いにしないでもらえる」

 「シャー」と言いながら、アジャコンジャのカードで噛みつく真似をする。デッキに入れる大切なカードをおもちゃにするんじゃありません。


 もう一度バトル。と、行きたいところだったけど、友美にはどうしても聞いておきたいことがあった。

「あのさ、友美。聞いてもいい」

「急に改まってどうしたのさ」

「木村さんのこと、だけど」

「キムっち?」

 さも意外そうに、友美は首を傾げた。


「あの子と友美って、どういう関係なの?」

「どうって。友達だよ。それも、幼馴染。幼稚園の時から一緒だったんだ」

 歴史の壁にぶち当たり、眩暈がしそうになる。こちとら、一年そこらの付き合いだというのに。


 とりあえず、友美と親密な仲であるのは濃厚のようだ。それならば、当然の疑問が生じる。

「デュエバの全国大会のメンバーに、その木村さんを誘えばいいじゃない」

 気心の知れた仲であれば、チームメンバーとして最適だろう。とっくの昔に誘っていたとしてもおかしくはない。


 しかし、友美は渋面を作ったのち、唸りをあげる。軒並みならぬ様子に、私は「友美?」と訊ね直す。

「唯ちゃんの言うことも分かるよ。でも、キムっちはなー」

「不都合でもあるの?」

「うーん、まあ、唯ちゃんなら話しても大丈夫かな」

 随分ともったいぶる。彼女にしては珍しく、真剣な顔つきだった。しかも、式典でもないのに姿勢を正すものだから、私もつられてしまう。


「キムっちはね、誘いたくても誘えないんだ」

「どういうこと?」

 いきなりなぞなぞを出されたわよ。パンだけど食べられないものより、はるかに複雑で重大な謎みたいね。


「キムっちの家は色々と大変でね。学校のあと、一人で弟や妹の面倒を見てたりするんだ」

「家事の手伝いということ? 両親はどうしたのよ」

「確か、映画のタイトルみたいなこと言ってたな。ゴッド、えっと、ゴッドファービー」

「シングルファーザーとか」

「そう、それ」

 むしろ、どうしてゴッドファーザーの方を思いつくのよ。それに、ファービーは確か、私たちが生まれる前に流行してたおもちゃじゃない。ただ、片親というのが事情を物語っていた。


「ひょっとして、友美がバスケ部の助っ人をしているのも、それが関係していたりする?」

「好きでやってるけど、そういう時もあるね。キムっちから、どうしてもって頼まれて」

「部活動は自由参加のはずでしょ。よくやるわね」

「キムっち、昔からバスケが好きだったからね。けっこう無理して参加してるみたいだよ」

 私が帰宅部だから、別に参加しなくても支障はない。それなのに顔を出しているということはよっぽどなのだろう。


「ただでさえ忙しいって分かってるからさ。あたしとしても、無理は言えないわけよ」

「あなたのことだから、強引に声をかけたかと思ったわ」

「そこまで空気読めなくはないって。でも、キムっちか。あの子、けっこう熱中しやすいからな。一度沼れば、ワンチャンあるかもしれないな」

 口惜しそうにつぶやく。とはいえ、軒並みならぬ事情があるのは確か。無理強いはできないだろう。


 とはいえ、残り二人のメンバー探しが難航しているのも確かだ。デュエバが強くて、協力してくれそうな知人となると、グッと数が絞られる。

「木村さんが無理そうなら、他に誘えそうな人というと。楯並君は」

「豪君か。彼は彼でチーム作ってそうだし、むしろ、ライバルじゃん。べ〇-タを仲間にするより難しいよ」

 そのキャラ、結局仲間になってなかったかしら。そうでなくとも、他校の男子の先輩なんて、誘うにはハードルが高すぎる。


 結局、適当な候補が思い浮かばず、メンバー探しは暗礁に乗り上げることとなった。

「まあ、久しぶりに、こうして図書室で出会ったんだからさ。デュエバを楽しもうよ」

「それもそうね」

 現実逃避をしている気がしないでもないが、私も友美の提案に賛同する。


 しかし、間が悪いことに、図書室内にチャイムが鳴り響く。部活動の終了と下校を促すものだ。

「残念だけど、今日はこれでお開きね」

「ええ、もう一戦ぐらいできそうじゃん」

「うだうだしていると、見回りの先生が来るわよ」

 カードゲームをやっているところを先生に目撃されでもしたら、厄介なことこの上ない。友美は渋ったものの、先生にカードを没収されるリスクを鑑み、しぶしぶ片づけを始めるのだった。


 結局、その日は友美との会合はお開きとなった。病み上がりで長居は禁物という名分もあったからだ。尤も、当人は口惜しそうだったが。

カード紹介

奮起のシンフォニー

魔法カード コスト6

攻撃済みの自分のサーバント1体を対象に使うことができる。

そのサーバントはこのターン、もう一度攻撃できるようになる。

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