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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
81/118

大所帯

「あなたの名前を呼んでいるわよ」

「さあ、他人の空似じゃない」

「失敬。わたしが唯を見間違えるはずはない。それよりも、隣にいる子は誰だ」

「私? 木村和菜。友美の友達よ。あなたこそ誰よ」

「名状。各務敦美。友美の魂友ソウルメイトだ」

「友美だから分かるけど、妙な子を友達にしてるのね」

 白い眼をしているが、そこは私も同意する。


「質問。時に、友美のお見舞いに来たのではないか。なら、同士のはず。同行を許す」

「どうして上から目線なのよ」

「明白。わたしの方が友達歴が長いから」

「私、友美とは幼稚園の頃から友達だけど」

 どや顔を披露していた敦美が即座に崩れ落ちた。通う学校も違うのに、どうして勝てると思ったのだろうか。


 打ちひしがれている敦美をよそに、「私、この後予定あるのよね」と、和菜はそそくさとインターフォンを押す。チャイムが鳴って十数秒ほど待っただろうか。

「はーい、どちらさま。あらー、お友達がたくさんねー」

 間の抜けた声がフォン越しに聞こえてくる。


 そして、扉が開かれ、現れたのはやたら若い友美の母親、明美だ。

「和菜ちゃん。久しぶりじゃない。えっと、おむつ履いてた時以来?」

「そこまで久しぶりではありません」

「やだもう、冗談よ、冗談」

 オホホホと笑い飛ばしている。このノリに平然と対応できるあたり、友美の友達で間違いはない。


「そっちは唯ちゃんでしょ。この前はありがとうね」

「いえ、お構いなく」

「それと。ちょくちょく友美が話している右織中の子かしら」

「同意。各務敦美。友美の魂友ソウルメイトだ」

 先ほどと同様の自己紹介を繰り返す。対して、「お茶を用意するから上がって」と何事もなく対応できている辺り、友美の母親というのは間違いない。


 三人という大所帯で友美の部屋の前に立つ。前にも訪問したことはあるけど、緊張は拭えないわね。

「友美。入るわよ」

 代表して和菜がノックする。「どうぞ、どうぞ」と調子はずれの返答が為される。そして、パンドラの箱は開かれた。


「さあみんな集まって! ぴこぴこぷー体操始まるよー!」

 いの一番に聞こえてきたのは、テレビの教育番組の音声だった。小学生ぐらいの女の子が犬の着ぐるみや形容しがたい謎の生命体と一緒に体操している。


「あ、キムっち。それに唯ちゃんにあっちゃんも!? みんなで、どうしたのさ」

「授業のプリントを届けるついでにお見舞いに来たのよ。っていうか、何見てんの」

「い〇いい〇いば〇。この時間、他にニュースしかやってないんだよね」

 病欠すると、暇つぶしに教育番組を見たくなるというあるあるね。その番組、幼稚園ぶりに見たわ。


「とりあえず、一緒に体操しようとしていたから、風邪は大丈夫そうね」

「うん。本当なら学校行けるけど、お医者さんが用心して休めっていうからさ。多分、明日には復帰できると思うよ」

「提議。そこは恥ずかしがるところでは」

 友美が幼児向けの体操で恥ずかしがるタマではないことは想定済みだ。番組が切り替わって、母親と一緒な例のやつが始まったけど、気にしたら負けだから無視しておこう。


 ちょうど、ジュースとお菓子が運ばれてきたので、四人ですし詰めになって座る。大体6畳くらいなうえ、物であふれて狭苦しいのだ。

「私、長居するつもりは無いんだけどな」

「まあまあ、キムっち。忙しいのは承知だけど、こういう時ぐらいゆっくりしていきなよ」

「友美がそういうなら。それに、聞きたいことあるし」

 じっと和菜は私たちに視線を送って来た。そんなんだから、むせた。


「唯ちゃん、ひょっとして炭酸苦手だった」

「べ、別に、苦手ってわけじゃ、ごほっ」

「幼稚。コーラを飲めないなんて、お子様」

 うるさいわね。炭酸飲料なんて、普段滅多に飲まないのよ。あなたこそ、コーヒー飲め無さそうでしょ。


「ねえ、単刀直入に聞くけど。小鳥遊さんといつの間に仲良くなったの? それと、えっと、この三つ編みの子は何者?」

「失敬。各務敦美だ」

「学校違うから、知らないのも無理はないわよ」

 憤慨しながら、敦美はポテトチップスを咀嚼している。友美はコーラを嚥下すると、腰に手を当てた。

「二人はデュエバ仲間だよ」

 それ以上も以下もない説明だったが、明らかに和菜は腑に落ちていない様子だった。


「デュエバって、男子たちがよく遊んでいるカード? 友美がそれにハマっているのは知っていたけど、まさか、小鳥遊さんもやるの?」

 まあ、そう飛び火するわよね。否定することでもないので、私は自前のデッキを取り出す。すると、和菜は信じられないものを目撃したかのように、身を乗り出していた。


「誇示。そして、わたしもまたデュエバリストなのだ」

「ああ、うん、そういう気はしていたわ」

「不服。唯の時と違って、反応が淡白」

 どや顔でデッキを披露していたのが空ぶっていた。と、いうか、和菜にとってはそれどころではないようだった。


「どういうことよ。小鳥遊さんって、こういう遊びには興味無さそうじゃない。まさか、弱みを握られているとか」

「それは無いって。デュエバ誘うのに、そんなあくどいことはしないよ」

「でも、小鳥遊さんが、ね」

 どうにも信じられないようだった。それもそうだろう。普段、本ばかり読んでいて、委員長と懇意にしている。教室での私の評価はそんなものだ。そんな私が、男子が遊んでいるゲームをやっているなんて、結びつける方が無理がある。


 仕方ないので、図書室で友美と出会い、勝や豪とのバトルを経て、全国大会を一緒に目指すようになった、これまでの経緯を簡単に説明しておいた。

 その過程上仕方ないのだが、所々敦美が出しゃばったこと以外は、滞りなく説明を終えた。圧倒されてばかりで、和菜から特に質問がなかったというのが大きな要因だろう。


「つまり、あなたたちはデュエバの全国大会出場を目指しているということ」

「ザッコ、シショーだよ」

「訂正。それを言うならザッツライト」

 親指を立てる友美。どうにも、感心しすぎて二の句が告げないといったところだ。


「全国大会というと、強い人がたくさん集まるんでしょ。友美やそこの子は分かるけど、小鳥遊さんが、ね」

「まあ、信じられないかもしれないけど、唯ちゃんはけっこう強いんだよ。そだ、ちょうど暇してたんだ。デーモンストライクしない」

「訂正。それを言うならデモンストレーション。それだとシャ〇バのカードみたいになっている」

「友美とは久しぶりに戦いたかったし、いいわよ」

 置いてけぼりにされている和菜をよそに、私と友美は慣れた手つきでカードを広げる。布団の上というお行儀の悪いフィールドだが、お片付けしない友美が悪いのだから仕方ない。

マニアックな小ネタ紹介

デーモンストライク

正式にはデモンストライク。シャ〇バの最初期に登場したカードで、任意の相手に3ダメージを与えるスペル。

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