不審者
そして、ホームルームが終わり、放課後となる。部活動に帰宅と、各々そそくさと教室を出ていこうとする。私もまた、図書室にでも行こうかしら。
そこでふと、思いとどまった。友美の家に行く大義名分。それが、手が触れる距離に転がっているのだ。立候補こそできなかったが、まだチャンスはある。
「キムっち、今日、部活は。無理、だよね」
「うん、ごめんね。なかなか顔出せなくて」
「いいって。色々大変でしょ」
和菜は同じバスケ部らしき女子と談笑している。そして、手を振り合うと教室を後にした。今だ。私は狙いすましたように彼女の後をつける。
その後も、付かず離れずの距離をキープする。やっていることは立派なストーカーだ。ストーカー規制法に引っ掛からないかしら。
そんなことを考えつつ、校門を出て住宅街へと差し掛かろうとする。案外、バレないものね。逆に悪い気がしてくるわ。なんて、思っていた時だった。
「あのさ。さっきから、何こそこそ付いてきてるの?」
普通にバレた。
すぐさま逃げようかしら。いや、ストーカー自体は後ろ暗いけど、その目的は決して後ろ暗いものではない。それに、友美の家に訪問するなら、遅かれ早かれ彼女とは邂逅を果たさなくてはならないのだ。妙な誤解を生むくらいなら、堂々としていた方がいいだろう。
私は平然を装いながら、ゆっくりと和菜の前に姿を現す。すると、彼女は意外そうに口を丸く開いた。
「小鳥遊さん、だよね。意外だったわ。あなたにこんな趣味があるなんて」
「別に趣味でやっているわけではないわ」
ストーカーが趣味なんて、普通に逮捕案件じゃない。
「小学校別だったし、家もこっちじゃないわよね。もしかして、迷子?」
「市内で迷子になるほど耄碌していない」
「じゃあ、どうして、こんなところにいるの?」
当然の疑問だ。私は顎をさすったのち、明朗に返答した。
「友美に会いに来たのよ」
「友美に?」
オウム返しされるくらいには意外だったのだろう。和菜はしばし眉を寄せていた。
「そういえば、噂で聞いたことあったわ。あなた、友美と最近仲が良いんだって。なんでも、放課後に逢引きしてるとか」
「どこのどいつよ、そんな噂を流したのは」
逢引きなのかしら、アレは。カードで遊んでいるだけだけど。
「ねえ、もしもだけど、嫌がらせでこんなことしてるのなら、やめてくれない」
「いや、それはないわ」
露骨に嫌そうな顔をされたので、すぐさま否定する。それでも、和菜の疑念は晴れないようだった。どうにも、その視線には根深さがある。
このまま、ダラダラと問答を引き延ばしても、私が苦しくなるだけだ。私ははっきりと言い放った。
「私は、友美のお見舞いに来ただけよ」
「友美の!?」
意外そうに眼を開くが、私は畳みかける。
「そう、お見舞い。それ以上もそれ以下もないわ」
和菜は、しばし考え込むように腕を組む。その間、判決を待つ被告人のような心地だった。
やがて、和菜は憮然と鼻を鳴らした。
「まあ、お見舞いなら、大勢で行った方が友美は喜ぶかもね。あの子、騒がしいのが好きだから」
「それは分かるわ」
「あなた、友美の本当に何なのよ」
呆れられたが、とりあえず同行の許可は得られた。
ただ、こういった時に気の利いた会話をするだけのスキルは持ち合わせていない。それに、和菜も心の底から私を信用したわけではないようだ。なので、友美の家に着くまで無言が続いたのは自然だったのかもしれない。
さっそく、インターフォンを鳴らそう。と、思ったのだが、和菜は怪訝そうに一点を指差した。
「一つ聞きたいことがあるのだけれど」
「どうかしたの?」
「あそこで飛び跳ねている小柄な子も知り合いなの?」
そこで私は表記不可能な変な声を漏らすことになった。
友美の家の塀に埋め込まれているインターフォンを押そうとしているのか、その場で飛び跳ねている。飛距離は足りているのだから、押せばいい。なのに、押せないものだから、単に跳躍運動をしている不審人物に成り下がっている。
それだけならスルーすればいい。いや、警察にでも通報するべきなのだが、その人物にはどうにも既視感があったのだ。印象的な三つ編みツインテール。ガーリーなファッションがロリ体型をより際立たせている。
なんで、この子がこんなところに。第一、どうして友美の家を知っているのよ。彼女は友美の連絡先こそ知っているものの、住所は把握していないはず。よもや、電話番号を記されたあのカードに住所まで書いてあったとか。それなら、友美の個人情報保護意識が冗談抜きで心配になるレベルだ。
どうしようか。最善策は他人のふりだ。回れ右して出直す。そうだ、それがいい。
「奇遇。唯、こんなところで出会うとは」
しかし、先手を打たれてしまった。こうなっては、足を止めざるを得ない。
カード紹介
輪廻転生
魔法カード コスト4
墓地からカードを5枚まで選び山札に戻す。その後、山札をシャッフルし、カードを2枚引く。