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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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誰かプリントを届けに行ってくれる奴はいるか?

 その日、教室はいつも以上に静かだった。いや、その日もと言った方が正しいかもしれない。前までなら、特に気にすることは無かっただろう。むしろ、歓迎していた節がある。誰にも邪魔されずに本を読めるなんて最高じゃない。


 でも、抱いた違和感はしこりとなって、いつまでも残り続ける。その元凶は分かり切っている。本来なら教室の最前列に座っている、犬の尻尾みたいな髪型をした騒がしい台風娘だ。


「友美のやつ、今日も欠席だってよ」

「マジかよ。あいつ、風邪引かなかったんじゃなかったのか」

 彼女の知り合いだったはずの田中が、友人と噂をしている。バカは風邪引かないとか言いたいのかしら。あれは自覚しないというだけで、普通に罹患するわよ。


 私は「普通のサラリーマン、悪役令嬢に転生する」のページを閉じてため息をつく。最近、敦美におススメされたライトノベルだ。彼女もまた、読書を嗜むらしい。ラノベばかり読んでいるかと思いきや、宮部みゆきを推薦したら目を輝かせていたので、一般文芸もいける口だろう。


「そんなため息をついて、気になることでもあるの?」

 カチューシャに眼鏡という、絵に描いたような優等生の女生徒が話しかけてきた。教室で私に話しかけてくる生徒は数少ない。だから、誰何は容易だ。

「別に」

「風見さんでしょ」

「あんた、エスパー?」

 前にも、こんなやりとりをやった気がする。芽衣が居たなら、「惣流・ア〇カ・ラングレーか」と喚いていただろう。あのアニメを見たことは無いけど、そういうセリフがあることだけは知っている。なんか、私も毒されてきたわね。


 委員長こと仙道亜子は眼鏡の位置を直しながら続ける。

「このクラスで異変を気にしているのなら、十中八九彼女でしょ。あの子、滅多に病欠なんてしないはずなのに、どうしたのかしら」

「さあ、どうしたのでしょうね」

 そっけない返答をするが、内心では気がかりで仕方ない。それに、彼女が病欠している理由には大いに心当たりがあるのだ。


 敦美が学校の先輩にデュエバのカードを強奪された事件の折。友美はその先輩のからかいに嵌り、公園の池に水没したのである。ずぶぬれになったまま、しばらく行動していたから、風邪を長引かせているのだろう。前にお見舞いに行った時はピンピンしていたのに。


「ところで、ちょくちょく、あなたと風見さんが一緒にいるところを見るのだけれど、あの子といつの間に仲良くなったわけ?」

「別にいいでしょ。私が誰と仲良くしようが」

「まあ、それもそうね」

 変に追求してこないのが亜子の美徳ではあった。一緒にデュエバをやっていることは隠すことではないかもしれないが、なにせ彼女は堅物だ。学校に堂々と不要物を持ってきていると知れたら、後々面倒なことになる。


「おーい、お前ら席に着け。ホームルームを始めるぞ」

 先生の声で、皆慌てて席に戻っていく。私は本を鞄に入れ、背筋を伸ばした。


 滞りなく、とりとめのない連絡事項が告げられていく。そして、話題は病欠している友美のことになった。

「知ってはいるが、風見が風邪のために一週間以上欠席している。その間に授業のプリントとかが溜まっているだろう。そこで、誰か彼女の家までプリントを届けに行ってほしい」

 その提案に、私は耳を立たせた。


 これはチャンスではないだろうか。プリントを届けると言う名目があれば、堂々とお見舞いに行くことができる。いや、家を知っているのだから、お見舞いぐらい自由に行けばいいのだが。ただ、どうせ行くなら大義名分が欲しい。


 颯爽と挙手しようか。そう思って、伸ばした手を止めた。ここで立候補したらどうなるか。クラスの連中に、私と友美が交流があることは知れ渡っていない。なのに、名乗り出るなんて、不自然極まりない。ゴシップ好きな女子とかに絡まれるというのは、火を見るよりも明らかだ。


 なので、伸ばしかけた手を引っ込める。そして、間が悪いことに、クラスは静まり返っていた。部活動なりで忙しいのに、わざわざお使いなんかしたくない。まあ、それが普通の反応だろう。


「おいおい、誰もいないのか。風見と仲がいい奴は多いだろ」

 先生が呆れたように言う。すると、一人の女生徒が勢いよく挙手した。


 髪をポニーテールに括った、快活そうな少女だ。制服よりも体操服の方が似合っている雰囲気がある。

 あの子は見覚えがあるわね。友美と教室でよく会話していた子だったはず。名前は確か。

「木村。お前が行ってくれるか」

「はい! 任せてください」

 はきはきと答えたのは木村和菜きむらかずな。通称はキムっち。本人公認かは不明だが、友美の他にも、クラスメイトは大抵、そのあだ名で彼女を呼ぶ。


「確か、木村は風見と家が近かったな」

「同じ小学校だったし、ちょうどいいんじゃね」

 後押ししたのは田中だった。反論の声は上がらず、むしろ歓迎している空気だ。結局、滞りなく、彼女がプリント配達を担うこととなった。

カード紹介

ツインブレード・ワイバーン

クラス:レジェンダリー ランク1 コスト8

攻撃力500 体力500

このカードは1ターンに2回まで攻撃できる。

墓地にコスト6以上のクラス:レジェンダリーのサーバントが5体以上あるなら、このカードの攻撃力と体力を+200して突撃を持つ。

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