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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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加入。仲間に入れてほしい

 どこからともなく、やたらと熱血なアニメソングが流れる。この曲、最近聞いたことあるわね。えっと、どこだったかしら。

 そうそう、デュエバのアニメ鑑賞会。と、いうよりも、アニメ版デュエバのオープニングテーマじゃない。一体、どこが音源になっているのやら。


「ごめん、唯ちゃん。あたしのスマホ取ってくれない」

 布団の中から友美が人差し指を伸ばす。どうということはなかった。友美の携帯の着信メロディだったのだ。


「登録されていない番号からかかってきているけど、いいの?」

 こういうのって、変な営業の電話だったりする。まあ、私の場合は電話がかかってくること自体稀だけど。

 私の警告なぞどこ吹く風で、友美は躊躇なく通話ボタンを押す。その躊躇ない所作は、かかってくるのが分かっていたかのようだ。


 故意か偶然かは判別できなかったが、スピーカーモードになっており、通話内容が筒抜けになっていた。

「しもしも」

「通話。友美、か」

「おー、あっちゃん! かけてくると思っていたよ」

「驚愕。本当に友美に繋がった」

 電話の相手は敦美らしい。いや、待ってほしい。あなたたち、いつの間に番号を交換していたのよ。


「どうやら、あのカードが役に立ったようだね。大会が終わったら、伊之助番に報告すると思ったんだ」

「訂正。それを言うならいの一番」

「えっと、友美。敦美に一体何をしたの?」

「発見。唯もそこにいたのか」

「おまけみたいに言わないでくれない」

「例のカードのことだよね。あっちゃんに、白粉の化粧術師のカードと一緒に、あたしの連絡先を書いたカードを渡しておいたんだ」

「あなた、個人情報保護の観念どうなってんのよ!?」

 もっと、真面目に情報の授業を受けた方がいいと思うわ。


「大丈夫。あのカードは、本当に信頼した子にしか渡さないから。あ、しまった。唯ちゃんにはまだ渡してないじゃん。はい、これ」

 そう言って渡されたのは、友美のプリクラが張り付けてある、運転免許証っぽいものだった。

「何、これ」

「ド〇えもんズの友情テレカみたいなものだよ」

「ますます分からないから」

 しげしげと観察していると、裏面に11桁の数字が記載されているのを見つけた。これは、色々な意味で失くしてはいけないものね。帰ったらすぐに、携帯に登録しておかなければ。


「話が逸れたけど、この番号にかけてきたということは、首尾よく作戦は遂行できたかな」

「指摘。悪役の定期報告みたいにしなくていい。そもそも、病人なんだから、無理にボケなくていい」

「真面目にやれと言う方が疲れるんだよ。それより、どうなんだよ、大会は」

「勝利。どうにか優勝した」

 朗らかな声が端末越しに聞こえてきたものだから、私たちは顔を見合わせて微笑み合った。


 正直、気が気でなかったのだ。実質、敦美はたった一人で強敵と戦っていたのだから。ただ、それは杞憂だったようだ。

「感謝。友美と唯のおかげ。二人から託されたカードが支えになった」

「へへ、そりゃどうも」

 電話越しでも高揚しているのが伝わってくる。私も、胸の重荷をようやく下ろせた心地だ。


「おー、これ、友美と繋がってるのか!?」

 突然、調子はずれの声が乱入した。性別からして違う。この声はもしや。


「豪君! もしかして、そこにいるの?」

「当たり前だぜ! くそう、大会は準優勝だった。敦美が予想以上に強かったぜ!」

 対戦相手からも太鼓判を押されるということは相当な熱戦だったのだろう。直に観戦できなかったのが悔やまれるわね。


「突然、棄権するなんて、びっくりしたぜ! お前とも大会で戦いたかったんだけどな!」

「いやあ、ごめんね。残念なのはこっちだよ。せっかく、豪君と戦えるチャンスだったのに」

「そう落ち込むな! 俺はいつでも挑戦を受け付けているぜ!」

 そこで、音声が途切れた。敦美と言い争っている声が聞こえる。大方、「勝手に電話に出ないでほしい」などとたしなめられているのだろう。


「謝罪。邪魔が入った」

「いや、いいって。豪君とも話をしたかったし」

「懇願。急ではあるけど、友美に頼みたいことがある」

 随分と改まった口調だ。嫌が上にも緊張感が高まる。しばし沈黙を挟んだ後、敦美が口を開いた。


「申請。わたしを全国大会に出場するためのチームに入れてほしい」


 あまりに唐突な参戦表明。まさか、このタイミングで。しかも、敦美から提案してくるなんて青天の霹靂もいいところだ。なにせ、友美ですら呆気に取られているのだから。

「表明。今回の件で思い知った。ここぞという場面で逃げたばかりではいけない。戦うことで見える道がある。そのことを教えてくれた友美に恩返しがしたい。わたしでも力になれるのなら、力添えがしたい。だから」

 せっつくような口調で語られたのは敦美の本心だろう。私でも胸が熱くなったのだ。こんなのを聞かされた友美の返答は一つだ。


「もちろん、大歓迎だよ! あっちゃんこそ、あたしのチームにふさわしいと思ってたんだよね。これで3人目だ!」

「感謝。やるからには、全力で行かせてもらう」

 こうして、全国大会に出場するためのメンバーを集めるという、当初の目的も達成できたわけだ。まさに、めでたし、めでたしと言うべきだろう。


 とはいえ、エントリーするためには、あと2人足りない。未だ、前途多難ではあるものの、今は敦美の件での祝祭に酔いしれるとしよう。通話を終え、話疲れてひと眠りする友美の横顔を、私はそっと眺めるのだった。

マニアックな小ネタ紹介

友情テレカ

ドラ〇もんズという、各国をモチーフとしたドラたちが活躍する、ドラ〇もんのスピンオフ作品に登場するアイテム。いわゆる、仲間の証。そもそも、テレカが何かとは言ってはいけない。

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