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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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家庭訪問


 体調不良で倒れる寸前の友美を支え、意識が朦朧としている彼女の案内のもと、どうにか友美の自宅までたどり着いた。その時には、もう大会の本番が開始されていた。

 予め棄権すると決心してはいたものの、後ろ髪を引かれるわね。でも、こんな状態の友美を放っては置けないでしょ。自分の家だというのに、インターフォンを鳴らしているし。


「はい、どちら様。あら、友美! あなた、どうしたの」

 玄関から出てきたのは、うら若い女性だった。もしかして、友美のお姉さんかしら。芽衣よりは年上っぽいけど、十分あり得る。第一、彼女の家族構成を把握していないし。


「お母さん、ただいまー」

「お母さん!?」

 思わず、驚愕の声をあげてしまった。中学生の娘がいるなら、三十は超えているわよね。どう見ても二十代にしか見えないわよ。


「あら、見ない顔ね。もしかして、友美の新しいお友達? この子、しょっちゅう新しい友達を家に連れてくるから、覚えるの大変だわ」

「えっと、初めまして。同じクラスの小鳥遊唯と言います」

「小鳥遊。あー、もしかして、小鳥遊無我さんの娘さん?」

 その名を出され、私は口を真一文字に結んだ。小鳥遊商事はここらでは名の知れた企業だ。そこの社長の娘が知島中に通っているということだけは、割と流布されていたりする。


「友美、あなた、すごい子と友達になったのね」

 呑気に感心している母親に私は唖然とする。すると、何を勘違いしたのか、ポンと手を叩いた。

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。友美の母親の風見明美、十七歳です」

「おいおい」

「えっと、自己紹介している場合ではないと思いますが。それに、友美も反応してないで休んでなさい」

 いくら何でも十七歳では無いだろう。実年齢はそれより二十歳ぐらい上のはずだ。


「なんて、冗談言っている場合ではないわね。すぐにお布団を準備するわ。唯ちゃんだっけ。悪いけど、少しリビングで待っていてちょうだい」

 そう言って、明美はドタバタと階段を駆け上がっていった。


 呆気に取られて右往左往していると、「まあ、上がりなよ」と半病人の友美に促された。玄関に突っ立ったままで体に障るだろう。彼女の案内に従い、リビングへとお邪魔する。


 他人の家自体、訪れる機会は滅多にない。父親が社長だからと言って、豪邸に住んでいるわけでもない。自分でいうのも何だけど、一般的な中流家庭の一軒家だと自負している。そうであるため、友美の実家も大差なかった。

 他人の家に上がると、借りてきた猫みたいになるというのは本当のようね。ソファに座らせてもらっているけど、どことなく落ち着かない。


 隣に座っている友美はうつらうつらしていた。電車の中で眠気を堪えている人に似ているかしら。時折ぶつけてくる頭が痛いようで心地よい。

 どうにか話題を絞り出そうと四苦八苦している内に、またもドタバタと階段を駆け下りてくる音が聞こえた。


「お待たせ。ちらかっているし、肉体労働させちゃって悪いけど、友美を部屋まで運んでもらえるかしら」

「ええ、お安い御用ですよ。ほら、友美、歩いて」

「うーん、もう食えないよ」

 一瞬のうたた寝で、どんな夢見てるのよ。半ば引きずるようにして、友美を彼女の自室まで運ぶ。


 病人の搬送という大義名分があったから失念していたけど、友美の部屋に訪問するという一大事を成し遂げていたわけよね。こういうのは、きちんと段階を踏むべきかと思うけど。いや、友美の体調の方が一大事なのだ。馬鹿なことを考えている場合ではない。


 半開きになっているドアを押し開けると、

「確かにちらかっているわね」

 ごっちゃになった雑誌をかき分けるようにして布団が敷かれていた。寝具はベッドではなくて布団派なのねと、そこはどうでもいい。


 放置されているのは漫画本やゲームソフトばかり。これが友美の部屋と紹介されれば、すんなり納得できるだけの説得力はあった。

「わー、唯ちゃん! これは、違うんだ! 見ないでくれ!」

 熱に浮かされていても、自室の惨状を恥じる良識はあったようだ。おろおろしてずっこけそうだったので、とっさに首根っこを掴んだ。


「あなたのことだから、こういう部屋だろうなってのは覚悟していたわよ。とにかく、早く寝なさい」

 ビシリと布団を指差すと、しぶしぶ潜り込む。これで、最低限の義務は果たした。風邪を移されないため。何より、彼女をゆっくり休ませるためにも、私はさっさと退散した方がいいだろう。


「えー、もう帰るの」

「別に、遊びに来たわけじゃないのよ」

「眠れないから、少しぐらい話でもしてよ」

「幼稚園児じゃないんだから、そんなことしなくても眠れるでしょ」

「ほら、むかーし、むかし、あるところに。おじいさんとおばあさんがいました」

「人の話を聞いてる?」

「おじいさんが芝刈りに行っている間に、おばあさんは鬼〇辻無惨により鬼にされてしまいました」

「それ、桃太郎ではないわよね」

「桃から生まれた炭〇朗は、お供に虎杖〇仁と緑〇出久と吉田沙〇里を連れて無限城に向かいました」

「だから、それ桃太郎じゃないわよね」

 最後に、フィクションの最強格の主人公を凌駕しそうな霊長類最強女子が居たような。


 熱のせいで戯言を言っているのか、いつも通りなのかよく分からないのが玉に瑕なのよね。こっちまで頭が痛くなりそうだわ。

 あまり長居していては風邪を移されそうだし、友美もゆっくり休めないだろう。とっととお暇しよう。そう思い、腰を上げた時だった。

マニアックな小ネタ紹介

虎杖〇仁、緑〇出久

それぞれ、ジャ〇プのバトル漫画の主人公

吉〇沙保里

霊長類最強というキャッチコピーからネタにされている女子レスリングの選手。

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