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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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栄光と謎のカード

 勝負が決まると共に、わたしは背もたれに体を預けた。体は未だに火照っている。全身が浮世だっていて、実感が無かった。本当に。本当に勝ったのか。


 私の目の前に手が差し出される。楯並君が破顔して手を差し伸べてきていた。

「いいバトルだったぜ、各務さん! いや、そんな他人行儀な呼び方は失礼か! 敦美!」

 周囲を見渡すと、皆ほくほく顔でわたしを見つめていた。そうか。勝った、のか。


「お、おいおい、どうして泣くんだよ」

 楯並君がうろたえているのも無理はないだろう。安堵した瞬間、わたしの瞼から涙があふれてきたのだ。嗚咽までこらえきれなかったものだから、彼には気の毒なことをしたと思う。


「あーあー、あっちゃんは本当に泣き虫だな。少年、女の子を泣かせちゃダメなんだぞ」

「おいおい、俺は悪いことしてないぞ! するなら勝だろ、勝」

「ちょっと待て! 俺は本当に何もしてねえぞ!」

 とばっちりを受けたうえ、今日は準決勝を前に敗退していた勝が喚いていた。わたしは袖で涙をぬぐうと、精いっぱいの笑顔を作った。

「平気。これは嬉し涙」

「お、そ、そうか」

 なんか、楯並君がやたらと狼狽していた。はて、どうしたのだろうか。


 興奮冷めやらぬ中、表彰式に移る。準優勝となったのは楯並君。そして、優勝したわたしに、芽衣姉ちゃんが一枚のカードを手渡した。

「おめでとう、あっちゃん。これは君にものだ」

 大会優勝の証である刻印が刻まれた、イラスト違いの右京。市場価値は数千円の代物だ。


 でも、このカードの価値はお金なんかで計れるものではない。いや、計らせてなるものか。いつかは、わたしもこのゲームから卒業する日が来るのかもしれない。そうだとしても、このカードだけは絶対に手放さない。そんな決意を胸に、いつまでも右京のカードを眺めていた。


「ところで、友ちゃんと唯ちゃんは大丈夫なのかい? あの二人がこの大会を棄権するなんて、よほどの理由があったんじゃ」

 芽衣姉ちゃんに指摘され、わたしはハッと手を叩く。このカードを勝ち得たのは、あの二人の力があってこそ。


 手短に事情を説明すると、「えぇ、そりゃ大変だ」と芽衣姉ちゃんはのけぞる。

「依頼。二人に連絡をとりたい」

「あー、そうか、二人の電話番号を知らないか。学校が違うと、そういう機会は無いもんね」

 カードショップで出会うだけの関係性で番号まで交換していたら、逆に怖い。


 過去にカードの買取りをしていたのなら、電話番号の履歴が残っているかもしれないとのこと。だが、高野商店では基本的に未成年からカードの買取りは受け付けていない。

「昔はやってたみたいだけど、今は法規制とかうるさくてね」

 芽衣姉ちゃんは後ろ髪を掻いているが、こればかりは致し方ない。他に手がかりは無いか。そこで、ふと、あるモノを思い出した。


 山田先輩と対決した直後。友美から二枚のカードを託されたのだ。一枚は、楯並君とのバトルで使った「白粉の化粧術師」のカード。そして、もう一枚は、

「なんじゃ、こりゃ」

 横から割り込んで覗き込んできた楯並君が、思わずそんな声を漏らした。さもありなん。それは運転免許証っぽいものだったのだ。


 有効期限が令和99年だったり、舐められたら無効だったり、どう考えても現実では使えそうにない。そもそも、証明写真が友美の変顔のプリクラだった。

「舐め猫の免許証みたいね」

「質問。なんだ、それ」

「え、舐め猫を知らないか。あ、そうか、私でさえ生まれていないものね」

 後で調べたら、わたしの両親がギリギリその世代だった。いや、舐め猫はいいのだ。


 一見、ふざけているようにしか見えない、このカード。ふと、裏側へひっくり返すと、隅の方に数字が記載されていた。

 080から始まる11桁の番号。もしかしなくとも、これは。


 わたしは慌てて携帯電話を取り出す。あまりに慌てすぎて、手から転げ落としてしまうが、震える指で記載されている番号をプッシュする。これで、変な営業の電話に繋がったら、一生恨むところだ。

カード紹介

巫女の術式・豪傑不遜

魔法カード コスト4

自分の場のサーバント1体を選び、山札からカードを3枚墓地に送る。その中にある偶数コストのカードの枚数×100だけ攻撃力を上昇させ、奇数コストのカードの枚数×100だけ体力を上昇させる。

カード名に「右京・左京・朱雅玖」のいずれかが含まれるサーバントを対象にした場合、代わりに枚数×200だけ上昇させる。

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