バスケで勝負だ
バスケの勝負に持ち込むのは既定路線。だから、勝負の場所となる公園やボールは確保しておいた。互いに薄着になり、気合は十分だ。
「勝負を仕掛けておいてなんだけど、こっちは時間が無いの。だから、先にゴールを決めた方が勝ち。それでいいわね」
「構わないし。こっちも、こんなお遊びにいつまでも付き合うつもりないっての。さっさと勝って飯食いに行くべ」
「おー」と取り巻き達が呼応する。こちらの軍勢も、友美が鼻息荒く昂っている。唯一、敦美だけがコートに入っても浮かない顔をしていた。
せめてものハンデということで、私たちが先にボールを握らせてもらうことになった。いや、それでも勝てるという余裕の表れだろうか。でも、残念だったわね。こっちには友美がいる。速攻を得意とする彼女に先手を握らせたのなら、一気に勝負を決められるはず。
試合開始と共に、私は友美にパスを送る。それが通じるや、一直線に相手ゴールへと向かう。よし、作戦通り。
だが、どうにも動きが鈍い。スリーポイントショートを打つには心もとない地点で、取り巻き二人に囲まれてしまう。
「こ、の。パス」
苦し気にパスを送ろうとする。だが、タイミングが甘い。
「させるかっての」
それを見逃す相手ではなく、容易にボールを取り返されてしまう。いくら経験者が相手とはいえ、こうも簡単に友美が手玉に取られるなんて。
そこで、ふと彼女の異変が目についた。なんだか、足元がおぼつかないような。
「友美、あなた、体調は大丈夫」
「へ、へい、へぶっしょ」
盛大にくしゃみをかます。まさかだけど、今の彼女は体調が万全では無いのでは。
考えてみれば、そうなっても致し方無かった。昨日、水没したうえ、いきなり薄着になったのだ。平然な振りをしているから欺かれてしまったが、この可能性を考慮に入れなかったのは、完全に私のミスだ。
こうなったら、友美に頼るわけにはいかない。私が決めれば、万事解決する。ボールを取り返そうと走り出す。
その前に立ちふさがったのは山田先輩だった。バスケを嗜んでいるだけあり、連中の中でも高身長。どうにか隙を突こうとしても、巧みなステップで阻んで来る。
「あんたの頼みの綱は調子が悪いみたいね。そして、あんたさえあーしが邪魔すれば、あとは楽にゴールできるっての」
真っ先にアタッカーになりそうな、この先輩があえてブロッカーに回った。実質ノーマークである取り巻き二人は、悠々とゴールに向かう。
こうなれば、もう、勝機はただ一つだった。
「敦美!」
私はあらん限りの声を振り絞って叫んだ。
♢
試合が始まってしまった。唯があんな提案をするとは驚きだったが、あの先輩を納得させたうえでカードを取り戻すとしたら、この方法しか無い。
それに、練習試合で活躍を目にしたから分かる。友美の実力は、そんじょそこらのバスケ部員より上。彼女が味方になってくれるなら、難なく勝てる。
しかし、そんな算段はもろくも崩れ去った。今の友美は戦力にする方が忍びない。これでは、実質上、二対三だ。
とにかく、やれることをやらないと。おそらく、山田先輩が主導で攻撃を仕掛けてくるはず。唯に続いて彼女をマークしようとする。
だが、その思惑もまた瓦解することになる。まさかの、山田先輩がディフェンスに回るという作戦で来られたのだ。唯はそのトラップにかかり身動きが取れない。
ゴールへと疾走する敵陣営。それを止められるのはわたししかいない。
「敦美!」
唯の声が届く。あの先輩たちは、どうせわたしは動けないと高を括っているのだろう。部活の練習だったら、顧問の先生にお小言を言われそうなプレイで侵攻している。
あれならば、阻止できる。でも、蛇にらみを受けているように動けなかった。遠方から山田先輩が圧をかけているのだ。
「妙な真似をしたら分かってるでしょうね」
実際に、そう言っているわけではない。でも、そう伝えてきているのは分かる。ああ、情けない。せっかく、二人がお膳立てしてくれたのに、肝心なところで無駄にしてしまうのか。
「あっちゃん!」
「敦美!」
唯と友美が必死で呼び掛けている。こんな不甲斐ないわたしでも信用してくれるのか。
こんな時、静香ならどうするか。考えるまでもないではないか。わたしは歯を食いしばると、力強く地面を蹴った。
余裕でゴールを決められる。そんな慢心から、児戯にも等しいプレイでボールが回されていく。それをかっさらうこと自体は容易だった。
「な!?」
「あんた、まさか」
反撃してくるとすら思われていなかったなんて心外だ。わたしは脇目も振らずドリブルを続ける。
幸いにしてゴールはがら空きだ。このままフリースローに持ち込めば、十分に勝機はある。とはいえ、相手も易々と進撃を許してはくれなかった。
シュートの態勢に入ろうとした矢先。眼前に鉄壁が立ちふさがった。嗜虐的に微笑み、両腕を広げている。
「山田先輩」
「あんた、まさか、このままゴールできるなんて思ってるんじゃないでしょうね」
あと少しだったのに。ドリブルを続ける腕のスナップが利かなそうになる。
それを押しとどめたのは、先輩の甘さを看破したからだ。この機に及んでもわたしを舐め腐っている。フェイントを噛ませば、容易に突破できる。曲がりなりにもバスケを経験していたなら、すぐに気づけた突破口だった。
でも、全く別の問題が立ちふさがっていた。果たして、仕掛けていいものか。これで生意気にもゴールを決めたりしたら、わたしは。
「入れろ!」
「ゴールを決めるのよ、敦美!」
再度、仲間の声援が届いた。そうだ。どうして、迷う必要があるのだ。わたしが最優先すべきこと。それは、怯えることじゃない。
わたしの視線に曇りは無かった。キッと顎を上げる。一瞬だが、先輩が怯んだ。その絶好の機会を逃すわけにはいかない。
先輩の左わきを突き、大きく迂回する。
「な、あんた」
驚愕の声がかすれる。もう、なりふり構っていられなかった。我武者羅にドリブルを続ける。気配から、先輩が追いすがってくるのが分かる。一切の猶予はない。この一投で決める。わたしは全身全霊を込め、シュートを放った。
いかなる軌道を描いたかは分からない。ただ、唯一分かったことはある。小気味良い音を立て、ボールはゴールネットに吸い込まれた。
先制でゴールを決めた方が勝つ。そのルールに則れば、
「やった、やったよ、あっちゃん!」
自分の事のように歓喜し、友美が抱きついてくる。唯も気恥ずかしそうに、中途半端に手を広げていたので、ハイタッチしておいた。
カード紹介
メテオレイン
魔法カード コスト6
バトルゾーンの体力300以下のサーバントをすべて破壊する。